恐怖
沈黙した。多分この時の私ははっきりと青ざめていたと思う。
しまった。やらかした。最近は神崎に口裏合わせを頼むのも、面倒くさくて省略してしまっていたから。
ものぐさな行いに走ってしまったのには一応、理由がある。私はもし万が一、このことがバレてしまったとしても、「ごめんね」と謝ればみなとは頬を膨らませつつもすぐ許してくれるとタカを括っていたのだ。しかし今のこの状況、見通しが甘かったと言わざるを得ない。みなとは私の予想の範疇を遥かに飛び越え、烈火のごとく怒っていた。なぜ。なぜそこまで。
「どうして!なんで!仕事だって言ってたじゃん!!」
「い、いやあの・・・ちょ、ちょっと、ちょっと待、」
みなとの前髪が垂れ下がり、私の額にかかった。その顔は最早近すぎて見えないくらいの位置にあった。
「もしかして・・・もしかして今までも、ずっとそうだったの!?神崎さんとの打ち合わせだって言って出掛けてる時!いつも、いつも私に内緒で、あの女に会いに行ってたの!?」
みなとの指の爪が私の手首に痛いほど食い込んだ。同時に、臍の下あたりを膝で思いきり圧迫される。
私はその時、何と言えば良いのだろう、はっきりと言葉にするのは色々な意味で難しいのだが、『このままでは私のせいでみなとの人生に取り返しのつかない汚点が残ってしまうことになるのではないか』という恐怖に一瞬で取りつかれてしまった。そしてパニックに駆られた体は反射的かつ衝動的に行動を起こした。
「やめて!」
「きゃっ!」




