みなとの「お願い」と「発表」
でも、初めてみなとと会った時は、お別れがここまで辛くなるくらいに仲良くなれるとは思ってなかったなぁ。
これは絶対みなとには言えないけれど、正直「この子は私の本当の娘じゃない」という意識は13年間常に頭の片隅にあって。だけどそのことによって生まれるほどほどの距離感みたいなのが、逆に良い方向に働いたのかもしれない。悪く言えばお互い微妙に遠慮があるんだけど、良く言えばこう、なんだ、実の母娘よりも相手のことを気遣ったり思いやったりできるというか。いや、私がそう思いたいだけなのかもしれんけど。
そこまで考えたところで部屋着に着替えたみなとが洗面所へと入ってきて、私に声をかけた。
「イツカちゃん、目は覚めたっ?」
入口のあたりからぴょんとジャンプして、私の目の前に着地する。
「ああ、うん覚めた覚めた!毎度のことだけど朝弱くてゴメンね」
思い悩んでいたことを悟られないように努めて明るい声を出すと、みなとは首を横に振った。
「別にいいよ。そっちのほうが起こしがいあるし」
「みなはやさしいなぁ」
返答しながらも気分はまた暗く沈みかけていた。あと4か月もすれば朝みなとに起こしてもらうことはもうなくなる。起きるだけなら目覚まし時計でも出来るが、味気ないアラーム音とみなとの天使のように愛らしい声とでは、考えるまでもなく天と地以上の差があるだろう。私はみたび溜息をつきそうになるのをこらえた。こらえたのとほぼ同時に、みなとが私の右腕に抱き着いてきた。
「あれ?どしたの?」
「イツカちゃんにひとつお願いがあります」
みなとは右手の人差し指を立て、上目遣いで私の顔を覗き込んだ。なんだか小ずるそうな顔だ。
「何かな?」
「・・・今日、学校、サボってもいい?」
なんだそんなことか。
「いいよ、サボれサボれ。誕生日だもんね」
「よっしゃっ」
みなとはでかい胸の前で両手を握った。それを見て私はひとつ頷き、
「ちゃんと私に許可を取るなんて、みなは偉いね。いい子だよ」
と言って、ちゃんと忘れずにほめておいた。するとみなとは両手をうしろに回して「えへへ」と言いながら体を揺らした。頬が少し赤い。どうやら冗談とかノリでやっているわけではなく、本当に照れているらしい。アホかわいいなおい。
「じゃ、今日はみなの好きなアニメの上映会でもして1日自堕落に過ごすか!旅立つか!」
提案するとみなとは唇の端を上げ、いたずらっぽい笑みを作った。
「それはすごく心おどるお誘いだし賛成なんだけど、その前にひとつ発表があるんだ」
「発表?なに?」
ありえないことだと分かっていながらも、つい「私、やっぱり一人暮らしするのやめます」とか言い出してくんねーかなと一瞬の間で妄想してしまった。往生際が悪いね。
それでも何食わぬ顔で返答を待つ私に、みなとはどことなく得意そうな笑顔でこう言った。
「朝ごはん、できてるよ」
私は目を瞬かせた。