役割分担
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そして、午後6時すぎ。『みなと』はまだ『イツカ』に出会えておらず、ユニコーンを呼び出せるようにもなっていなかった。別にみなとのプレイ速度が遅いというわけではない。『いざないのどうくつ』をクリアした時点からユニコーンに乗ってエルフの姫を助け出せるようになるまでには、具体的に言うと新たにダンジョンを四つクリアして町を五つ経由する必要があるのだ。
つまりどんなに無駄を省いて最短のルートでゲームを進めたとしても普通は半日以上の時間がかかる。三時間やそこらでどうにかなるようなものでは決してないのだ。ちまちまと大切に口に運んでいたクリスマスケーキもとっくに食べ終わってしまった。私は依然、真剣な顔つきでコントローラーを握りゲーム画面とにらめっこしているみなとにそっと話しかけた。
「あー・・・みなちゃん?大丈夫?あんまり根詰めすぎないで、ちょっと休憩したほうが・・・」
みなとは私の言葉にぎこちなく頷き、しかしこう言った。
「うん・・・でも、早くイツカちゃんを迎えに行きたいから・・・」
・・・うーむ。
どうしたものかとうつ伏せに寝転んだ状態のまま腕を組む私の前で、みなとが我に返ったように壁の時計を見上げた。
「あ・・・でももうこんな時間だね。いけない、そろそろ晩御飯の準備しないと・・・」
名残惜しそうに画面を一瞥したあと、立ち上がろうとするみなとを見て私は慌てた。
「あー、大丈夫大丈夫!今日くらいは私が作るよ!」
「えっ?」
みなとが割とあからさまに驚いたような顔になった。その反応に微妙に情けない気分になりながらも、表には出さず私はこう主張する。
「だって、みなちゃんがそんなに夢中になってゲームやってるのに、私のせいで邪魔できないし」
「でも」
「大丈夫!ただその代わりというかなんというか、ご飯を食べるときは一旦ゲームやめてちゃんと休憩して。あんまりぶっ続けでやってると疲れちゃうから。ね?私がご飯を作って、みなは私を早く迎えに行くためにしっかり休憩する。夫婦の役割分担だよ」
「・・・夫婦の・・・」
数時間前の『共同作業』に続き、私がまた半ば適当に選んだ言葉に対し、みなとはなんだかぽーっとし始めた。その隙を突いて立ち上がり、「じゃっ!」と一言残してからすばやく同じ部屋の中にあるキッチンスペースへと向かう。そこで私は食パンが入った未開封の袋を手に取った。
☆
「みなちゃん、ご飯できたよー」
こしらえた夕飯を載せた大皿を両手で持ち、テレビと向かい合うみなとの後頭部に声を掛ける。みなとは少し慌てた様子で「あ、うん」と返事をし、素早くセーブを済ませると一度ゲーム機の電源を落とした。振り返り、私と私の持った皿に目を留めると、「あっ」と嬉しそうな声を上げた。
「サンドイッチだね」
「うん、そうなんだ」
「作るよ」とか偉そうに言っておいてこんな料理とも言えない料理なのが申し訳ないのだが・・・「どうせなら布団の中でゴロゴロしたまま食べられるもの」と考えたら、これかおにぎりくらいしか咄嗟に思いつけるメニューがなかったのだ。そしておにぎりではなくサンドイッチをチョイスしたのにも、一応理由がある。
その理由を察してくれたらしいみなとが口を開いた。
「この前見たアニメで、主人公たちが美味しそうにサンドイッチ食べてたもんね」
私はテレビと布団の間に皿を置きながら、みなとに頷く。




