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ユニストセブンの思い出

「任務完了だねっ!」

「イェーイ!」


 みなとの左手と私の右手がどちらからともなく、ぱんと打ち合わされる。しかし私たちはすぐに姿勢を正し、布団の上に正座になって真剣な表情でムービーを観賞し始めた。私はいつもみなとに、アニメやゲームのオープニングとエンディングは毎回最初から最後までしっかり視聴しなさい、どんなに続きが気になっていたり気がいていたりする時でもだよ、そうしないと冒険が始まらないからね・・・と言って、普段からちゃんとしつけてあるのだ。


 まどかちゃん、安心してね。あなたの娘はとてもいい子に育っています。


 やがてムービーは終了し、ゲームのタイトル画面が表示された。そこでみなとが口を開く。


「ねえ、イツカちゃん。今回は私がプレイしてもいい?」

「もちろん!みなちゃん、自分でこのゲーム遊んだことほとんどないもんね」


 みなとは小さく顎を引いた。


「そうなんだよ・・・。私、ほとんど初めてなの。だから今回は私にやらせてね。今度こそクリアしてみせる」


 そう。みなとがこのゲームを『まともに』プレイするのはほぼ初めてと言って差し支えないのである。どういうことかと言うと。


 当時、5歳だったみなとは最初のうち、もっぱら私がこのゲームをプレイするようすを隣で、あるいは私の膝の上で眺めているだけだった。しかし結局、そんなことを毎日のように続けた結果みなとが「みなも自分でやってみたい!」と言い出したのは必然かつ自然な流れだったと言える。


 私がもちろんいいよとそれを快諾したので、みなとはそれはもうやる気と自信満々で自分専用のセーブデータを作成し、意気揚々と人生初のユニスト、どころか初のゲームプレイをスタートさせた。


 ここまでは良かったのだが、すぐに問題が発生した。みなとは一番最初の村から先へ進むことができなかったのである。スタート地点である主人公が暮らす村から次の城下町までの間にそびえ立つ、これまた一番最初のダンジョン「いざないのどうくつ」がどうしてもクリアできなかったためだ。・・・クリアできなかったどころか、洞窟の入口からおっかなびっくり数歩ぶん進むまでが当時のみなとの精一杯だった。


 ユニストは初代こそ徹底して完全な2Dのドット絵で物語が進行するという温かみあるRPGだったが、ユニストに限らずほとんどのシリーズもののゲームがそうであるように、グラフィックなど時代に合わせてほとんどいくらでも進化していく。ユニストセブンも、シリーズ7作目ともなれば当然のごとく、画面はフル3Dのグラフィックのみで構成されている。みなとがクリアできなかったダンジョンは現実に存在する洞窟さながらに、見ているだけで心細くなるような暗く狭い空間、じめついた空気のようなものが見事に表現されており、今にも物陰から何かが飛びかかってきそうな不気味さがあった。というかアクションRPGなので実際に物陰からモンスターが飛びかかって来る。


 みなとは何度も何度も半泣きで、時には本当に涙を流しながら必死で洞窟の中を進もうとしていたのだが、いつも一番最初のモンスター(ユニストセブンの中で一番弱い)に襲いかかられると同時に悲鳴をあげてコントローラーを放り出し、現実の部屋の中を逃げ惑ったあげく私にしがみついて泣きじゃくるという有様だった。そんなだからユニストセブンにおけるみなとの冒険は、最初の村と最初のダンジョンの間をうろうろと行ったり来たりするだけで完結してしまっていた。自分自身がプレイするわけでなければ問題なかったようなので、私のプレイはゲームクリアまでずっとそばで眺めていたけれども。


 ・・・・・・・・・。


「ねえ、みな・・・あのさ」

「ん?なぁに?」


 NEWGAMEの項目にカーソルを合わせ、決定ボタンを押そうとしていたみなとがこちらに振り返った。


「今思い出したんだけど・・・みながさっき言ってた、ユニストセブンがシリーズで一番好きな本当の理由ってなに?やっぱり私、初めてプレイしたからって理由以外に、みながこのゲームをそんなに好きになる要素があるとはちょっと思えなくて・・・」


 ストーリーは確かに素晴らしいゲームなんだけれども、みなとは結局一度もちゃんとクリアできたことがなかったし、自分でプレイしていた時に関しては怖がってるか泣いてるかが思い出のほとんどだったはずだし。


「・・・。・・・知りたい?」


 みなとが私の顔を下から覗き込むようにして聞いてきた。


「うん。すごく」


 好奇心から迷わず頷くと、みなとはにっこり微笑んで言った。


「いいよ。イツカちゃんが知りたいなら教えてあげるね。・・・でもその前に、とりあえずキャラクターの名前を入力してもいい?」

「どうぞどうぞ」

「あと、そろそろお布団の中に入ろう。せっかくイツカちゃんが敷いてくれたんだから」

「あ、そうだね!」


 効きすぎなぐらい暖房が効いた部屋の中で、更にぬくぬくと布団の中に潜り込む。なんだか罪深いことをしているような気分だ。


 二人して掛布団の下でうつ伏せになってテレビと向き合い、用意してあったケーキの皿をそれぞれ自分の近くに引き寄せる。その状態でみなとは改めてコントローラーを握り、私は頬杖をついてみなとのゲームプレイを観賞する態勢に入った。


 みなとがボタンを押して今度こそゲームをスタートさせ、テレビにキャラクターの名前入力の画面が表示された。


 最初にプレイヤーが任意の名前を設定できるキャラクターはふたり。ひとりは、プレイヤーが操作することになる物語の主人公。吸血鬼の少女という設定で、変更前の名前は『アカシア』だ。もうひとりは、アカシアが冒険の途中で出会うことになるエルフの姫。こちらの名前は初期設定でマーガレットだ。


 しかし私もみなとも、自分でキャラクターの名前を自由に変更できるタイプのゲームでそうしなかった試しがない。私はみなとに話しかけた。


「今回はみなちゃんがプレイするわけだからね。主人公の名前は、当然・・・」

「うん。『あああああ』だね」


 頬杖をついていた手から頬がずるりと落ちた。


「み、みなちゃん!!何言ってるの!!主人公にあああああなんて、そんな名前をつける子に育てた覚えはありません!!」


 動転して私が叫ぶと、みなとは俯いて小刻みに肩を震わせ始めた。


「・・・ふっ・・・くく・・・冗談、冗談だよ。もうイツカちゃんたら、かわいい・・・」

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