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みなとの夢

「夢が叶うまでの間ってさ、叶った瞬間のことを何度も何度も・・・繰り返し想像するものじゃない?だから私も毎日、もし本当に夢が叶って声優になることができたらあんな風だろうなー、こんな風かもしれないなー、って想像してる。もしその想像が本当に実現する瞬間が訪れたら、その時はきっと、体が震えちゃうくらい嬉しいと思う。でもどんなに想像してても、夢見てても、それって簡単に叶うことじゃあない」

「それは・・・」


 みなとはそこでふわりと両手を広げた。


「なのに!なのにさ・・・イツカちゃんにプレゼントをして、イツカちゃんに喜んでもらうっていう夢は・・・声優になることよりも大切な私の夢は・・・こんなにも簡単に叶っちゃうんだなぁって、いま私思ったの」

「っ・・・」

「プレゼントを選ぶ時ね、イツカちゃんは喜んでくれるかなー、嬉しそうな顔してくれるかなーって、何度も妄想してにやにやしてたの、私。でもそんな、妄想や空想でしかなかったかもしれない夢が、今こうして目の前で現実になってて・・・私、ほんとにすっごく嬉しいの。ありがとね、イツカちゃん。いつも何かプレゼントする度に、私の夢を叶えてくれて」


 みなとはそこまで話したあと、少し恥ずかしそうに笑いながら右手を顔の横まで持ち上げて、私に見せた。


「ほら、見て。ちょっとだけど手、震えてるでしょ」

「・・・・・・・・・うん・・・」


 無邪気に、真っ直ぐに私への親愛の情を示してくるみなとに対し、私は手放しで喜ぶことができないでいた。先程、みなとの声優になるという夢について神崎に「上手く行くわきゃない」「将来を台無しにしちまった」と言い切ってしまったことを否が応でも思い出して、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたからだ。しかも後ろめたさを覚えるのはそのことだけではない。私はついさっき神崎に「全ての事情」を洗いざらい話して聞かせ、しっかり口止めまでしてから何食わぬ顔でこの家へと帰って来た。「みなとは私のことを妻だと思っているけれど私はみなとを夫だとは思っていない」という事実を神崎とふたりで共有し、みなとだけがそれを知らないというこの状況は・・・まるでみなとを馬鹿にしていると言うか、陰で笑っているかのようで、「これって実はものすごく卑劣で残酷な行いなんじゃないか」とアホな私は今更気付いたのだ。


 ・・・決めた。神崎にはもう話してしまったから仕方がない。でもせめて燕には・・・燕には、私とみなとは相思相愛の夫婦ということで押し通そう。もう私がどう思われようがどうでもいい。それがせめてもの罪滅ぼしだ。私にはその選択ができるはずだ・・・みなとの言う通り、私が強い人間だと言うのなら。


 私は人知れず決意を固めた。



 ☆



 みなとが昼食━・・・ハンバーグとマッシュポテト━・・・を完成させ、二人で食卓につく頃には、私はなんとかある程度精神的に持ち直すことに成功していた。そう、自分の至らなさに落ち込んでいても仕方がない。さっき喫茶店でも思ったことだ。私は気を取り直すようにみなとにこう話しかけた。


「私はさ、さっきのみなちゃんの言葉に感銘を受けたよ」

「え?」


 みなとはハンバーグをナイフで切る手を止めて私を見上げた。


「クリスマス当日はある意味イブより重要かもしれない日、みたいなこと言ってたじゃん?言われて気付かされたよ。私は今まで、12月25日のことを24日のおまけとして認識してたというか、消化試合みたいなもんだと思ってたところがあったかもしれない。朝みなちゃんとプレゼントを交換することだけが大切で、それが済めば完全に普段のなんでもない日と同じ過ごし方をしてた。でもそれじゃいけなかったのかもしれない。っていうかいけなかった!だってクリスマスなんだから!当日なんだから!」


 自分で話しながら段々とヒートアップしていく私を見て、みなとは「おおー・・・」と感心したような声を上げ、わざわざナイフとフォークを一旦置いてまで小さく拍手をしてくれた。私は「ありがとう」と礼を言い、みなとの拍手を両手でやんわりと制しながら無い胸を張った。


「流石イツカちゃん・・・現状をより楽しいものにしていこうとする向上心にあふれてるね。じゃあ今日は私たちふたりで何か特別なことをしよっか!」


 ノリのいいみなとに私は笑顔で返事をした。


「うん、しようしよう!みなは何かやりたいことある?」

「うーん・・・そうだなぁ・・・」


 みなとは少しのあいだ考え込むように視線を下げたあと、


「じゃあ・・・イツカちゃんと一緒に女子校に通うとか」


 と、言った。


「ああー・・・なるほどね!」


 説明しよう。私は今朝、みなとが好きなアニメのブルーレイBOXを「サンタからじゃなくて私から」という名目でプレゼントしたのだが、そのアニメの内容が「全寮制の超お嬢様学校に入学した主人公がハーレムを作り上げながらラブコメディを繰り広げる」というものなのである。要するにみなとは私とそのブルーレイの観賞会をしたいと言っているのだ。悪くない提案である。しかし。


「それもなかなか捨てがたいんだけど、でも、もうちょっと・・・もうちょっと特別感が欲しい!もっとこう、ふだんやってないことと言うか・・・。私とみなは女子校くらいしょっちゅう一緒に通ってるし・・・」


 ふたりでアニメを観ることは私たちにとって完全なる「日常」の出来事なのだ。似たような理由で、延期したままになっている映画の感想会をするというのも少し弱い。


「うーん・・・でもやっぱり私が一番やりたいことって、イツカちゃんとの冒険なんだよね・・・あっ」


 口元に手を当て俯いていたみなとが突然、顔を上げた。


「なに?何か思いついた?みな!」


 みなとは「うん!」と答えて笑顔で元気よく手を挙げ、私を見た。


「私、イツカちゃんと一緒に、ブーケトピア大陸を冒険したい!」


 再び翻訳が必要である。


 ブーケトピア大陸、と言うのは、私とみなとが昔から愛してやまないRPG「ユニコーンストーリー」シリーズの7作目、ユニストセブンの冒険の舞台である大陸の名前なのだ。セブンは今から約13年前━・・・ちょうどみなとが私の元へやって来て少ししたくらいの頃だ━・・・に発売されたゲームなので、私もみなとももうずっと長いあいだ遊んでいない。だから久しぶりに一緒にプレイしよう、とみなとは言いたいのだろう。私は大きく頷いた。


「いいね!めっちゃいいじゃん!みなシリーズの中でセブンが一番好きっていつも言ってるもんね!」


 みなとがこくこくと何度も首を縦に振る。


「そうなの!だから私、久しぶりにプレイしたくって・・・」

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