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みなとのサンタ

「イツカちゃん」

「は、はい」


 みなとは布団の上で頬杖をついた。


「私さ、今日、すっごい楽しかった。っていうか・・・幸せだった」

「そっか・・・」


 私はほっとした。少なくとも、この前のみなとの誕生日の時のように泣かせてしまったりはすることなく今日という日を終えられる・・・ということでいいのだろうか。いやでもなんか、流れ的には微妙にこの後落とされるような予感もしなくはないような・・・。


 その予感は半分ほど的中することとなった。


「それでさ、私、今すっごくテンション高いの。興奮じょーたいなのっ」

「うんうん」

「だからなかなか眠れそうにない」

「そっかそっか」

「眠れそうにないから・・・今日はもうずっと、朝まで起きてよっかな?」

「うん・・・うん!?」


 背もたれの上に載せていた私の両腕がずるりと落ちた。


「い、いや!ダメだよ!それは困る!絶対ダメ!」


 みなとがにやにやと笑いながら動転する私を見た。


「えー?明日学校ある私はともかく、なんでイツカちゃんが困るの?ねえ、やっぱり今日はこれから徹夜で映画の感想会して、二人で一緒にサンタさんに会おうよ。いいでしょ?」

「いやー・・・あの・・・えっと・・・それは」


 本当に困ったことになった。みなとが寝てくれなければ枕元にプレゼントを置いておくことが出来ない。つまり、私はサンタクロースになれない。ただでさえ何者にもなれない人間なのだからせめてみなとのサンタくらいにはなりたい。


「ダ、ダメなんだよ。実はみなちゃんがあんまりかわいいからさ、サンタは毎年ウチに来るたびみなちゃんをさらおうとするんだよ。毎回プレゼントだけぶんって追い払うのが大変でさ・・・。あの戦いはすごく生々しいからちょっとみなには見せられない。寝ててくれなきゃ困る」

「なんか予想以上に斬新な言い訳された」


 私も自分で何言ってるんだろうって思う。どんだけ追いつめられてんだ。


「しょうがないな・・・」


 みなとはそう呟きながら掛布団の中に潜り込み、枕の上に頭を載せた。


「慌てるイツカちゃんがかわいかったので、それに免じて大人しく寝てあげます」

「あ、ありがとう・・・恩に着るよ」


 私は胸をなで下ろした。どうやらみなとも本気で言っていたわけではなかったらしい。単に私をからかいたかっただけのようだ。


 さて、それじゃあ私はみなとが寝付くまで居間でアニメでも観てるか・・・と思い椅子から立ち上がったところで、みなとに声を掛けられた。


「イツカちゃん」

「ん?」

「イツカちゃんのところにサンタさんが来ないのはね、クリスマスイブの夜はイツカちゃんが絶対に私より先に寝てくれないからだよ」


 みなとは仰向けのまま私に視線を送り、悪戯っぽく微笑んだ。


「あー・・・それは・・・ソ、ソウナンダー」


 もちろんみなとが何を言いたいのかくらいは分かる。分かるが受け取れるのはその気持ちだけだ。自分の娘にサンタクロースをやらせる母親がどこの世界に居ると言うのか。


「だから、本当はサンタさんが来てくれるはずなのに、しょじじょーにより来てもらえない可哀想なイツカちゃんには・・・代わりに私が明日の朝、プレゼントをあげるからね」


 ・・・普通に娘からクリスマスプレゼントをもらうくらいは、まあ、多分許されるだろう。


「そうか・・・ありがとう。良かったよ、私のとこにサンタが来なくて。サンタからもらうよりみなからもらったほうが100兆倍嬉しいに決まってるし」

「もう・・・そういうのいいから」

「いやホントにホントに」

「ふふ・・・」


 みなとはしばらくの間くすくすと笑ったあと、目を閉じた。布団を首の上まで引っ張り上げる。


「おやすみ、イツカちゃん」

「おやすみ、みな」


 私は扉のところまで歩いて行き、明かりを消した。そのままそっと部屋を出る。


 静かなクリスマスイブの夜、居間のソファーの裏に隠したみなとへのプレゼントを頭の中に思い浮かべながら、私は廊下を歩いて行くのだった。

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