魔法少女
「『魔法王女メルシー』!主人公のメルシーちゃんがさ、ハートのペンダントにキスして変身するんだよね。で、そのペンダントが子ども用のアクセサリーとしておもちゃ屋で売り出されて・・・みながCM見てすっごく欲しがってさ」
みなとが嬉しそうに何度も頷いた。
「うん、うん。私も同じこと思い出してたの。あの時イツカちゃんがさ、私のために何軒もおもちゃ屋回って探してくれて・・・」
私もひとつ頷き返した。懐かしくて、そして少し悔しい思い出だ。
「でもなんかあれすごい大人気で、どの店行っても売り切れで・・・結局最後までみなに買ってあげられなかったじゃん?それが今でも心残りだったから、今回リベンジしてみたって言うか・・・。だから、指輪じゃなくて、ペンダント。ハートのね」
指輪にしてしまうとなんかもういよいよこの状況から後戻りできなくなってしまうような気がしたから、というもう一つの理由は当然、胸の奥底に仕舞っておいた。
「うん・・・ありがとう、イツカちゃん」
この子はさっきから何回私にお礼言ってんだ、と思って苦笑する私の前で、みなとはそっと首から下げたペンダントに口づけをした。
「イツカちゃんのことだけが世界でいちばん好きなパートナーに、へんしーん・・・って、する必要ないけど。もうなってるし・・・」
ささやくようにそう言ったみなとに対し、私はどう言葉を返せばいいのか皆目見当がつかず、結局微妙にどもりながら「・・・あ、ありがとう」と、無難に礼を述べておくに止まった。多分今、私の顔はみなとに手渡したプレゼントの包みに使われていたリボンよりも赤い。
みなとがゆっくりと私の左肩に頭を預けてきた。
「ねえ、イツカちゃん・・・。イツカちゃんはね、私以外の誰とも・・・どの人とも、どのキャラクターの子とも、どの概念とも結婚しては駄目。私以外の人やモノのことを一番好きなイツカちゃんに、変身してしまわないで」
私もそうするから、と最後に付け足してこちらを見上げてくるみなとを安心させてやりたくて、私は微笑んだ。ぎこちない表情になってしまわないよう、細心の注意を払いながら。
「大丈夫だよ。・・・私はみなちゃんの知らない私になったりしない」
みなとは唇を綻ばせ、人差し指で私の顎に触れてきた。
「じゃあ、約束ね」
「うん、約束」
私がそう言ってみなとの小指に自分の小指を絡めたのを最後に、会話が途切れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
なんだか少し気まずい。しかしそれは先程みなとが私の手を引いてずんずんと先を進んでいた時の気まずさとは少し種類が違った。何と言うか、気まずいと思いながらも心の中のどこかで安心できていた。つまり気まずいと言うよりは気恥ずかしいと表現すべきだろうか。
「ええと・・・映画始まるまでまだだいぶあるけど・・・とりあえずパンフレットとかグッズ見に行って、時間潰そっか?」
「いいねっ。行こ、イツカちゃん」
みなとはぴょんと勢いをつけてベンチから立ち上がり、私に手を差し出した。私はその手を取って立ち上がり、今度こそみなとと一緒に映画館へと向かって歩き出す。
きらびやかなクリスマスツリーの下よりも、みなとが手を引いて連れて行こうとしてくれる場所のほうが、私にとってはずっと温かく輝いているように思えた。
☆
「ほんと、めっちゃ良かったよね!」
「ね!」
その夜。二人で入浴を終えて寝間着に着替えた後、私は自室でみなとと今日観た映画の感想について話し合っていた。一応明日はみなとの学校の終業式があることに配慮し、「日付が変わる前まで」という時間制限付きで。
みなとは布団の上でうつ伏せに寝転び、肘をついて両手で自分の顎を支えながら椅子に座った私を見上げ、目を輝かせた。
「シロル役の声優さん、新人さんみたいだったけど超良かったね!ちょっと拙い感じの演技なんだけど、それが逆に魅力的みたいな」
「ああ、分かる。未熟さも個性として昇華できてたよね。拙いなりに頑張ってるのは伝わってきたし、私もあの人は応援したい」
つい「何様?」と他人に突っ込まれてしまいそうな感想を述べてしまうことは許してほしい。オタクの性みたいなモンだ(オタクのせいにするな)。
「あと、クロル役の東さん!!こっちは逆にベテランの意地見せてくれたなーって!ていうか普段やってるキャラとイメージ全然違くてビックリした!あんな声も出せるんだねあの人!」
「ほんとほんと、あらかじめ情報あったから東さんだなって思いながら観れたけど、知らなかったら絶対分かんないよねえあの声・・・。どういう訓練してんだろ、なんか感動しちゃうよね」
足を開き、背もたれを前にした状態で行儀悪く椅子に座りながら、テンションの高いみなとにうんうんと相槌を打つ。この子が嬉しそうだと私も嬉しい。今日観た映画をチョイスしたのが私だったと来れば尚更だ。
「それにさー、ストーリーも良かった。やっぱり私、ああいう冒険ものが一番好きかな。色々参考にもなったし」
「参考?」
みなとはごろんと仰向けになり、上下逆さまの顔で改めて私を見上げた。
「そう、参考。だって私もイツカちゃんと一緒に現実と空想を行き来して、人生を旅する冒険者だからさ。あれぐらい、どれだけ絶望的って思える状況でも諦めないで頭回して、突破口を見つけて、夫としてイツカちゃんを守ってあげたいなって思った」
「い、いいよ。そんなそこまで頼りがいのある人になろうとしなくても・・・。そうならなくちゃいけないのはむしろ私のほうだよ」
保護者だし。
「・・・ふうん、そういうこと言うんだ?」
みなとが頬を膨らませた。勢いをつけて体をくるりと反転させ、うつ伏せの状態に戻ってから再び私をじっと見上げる。
・・・ま、まずい。怒らせたか、保護者という心の声を聞かれたか・・・。




