クリスマスプレゼント
みなとはやはり少しぎこちなく頷いたあと、細い指でリボンをしゅるしゅると解いた。中から更に小さな紙袋を取り出し、柄付きのセロテープを剥がしてそれも開ける。
「これって」
「うん、なんか結構ありがちって言うかベタだけど」
中から出てきたのは二つのペンダントだ。片方に小さなウサギの人形、もう片方にクマの人形がペンダントトップとして付けられていて、それぞれがハートマークの右半分と左半分を掲げるようにして抱いている。二つ合わせればひとつのハートマークが完成するという、よくあるカップル御用達のあれだ。私の人生においてこれを手にする瞬間が存在するとは今まで夢にも思わなかった。
「あの、ほら。これを私とみなで一緒に着ければさ、その、私がナンパされる心配しなくていいでしょ?明らかにパートナーが居るって言うか先約済みなのが分かるし、まあ婚約指輪みたいなもの・・・って・・・思ったんだけ・・・ど」
あ、やばい。口に出して説明しているうちにどんどん冷静になってきた。よく考えたら何やってるんだろう私。娘と二人でカップル用のアクセサリー一緒に着けようって、それはもう恥ずかしいとかじゃなくてそれ以前の問題というか、客観的に見て私の暴走以外の何でもないような気がしてきた。みなとはドン引きしていないだろうか。
恐る恐る横目で窺うと、みなとは手の平の上に二つのペンダントを載せてじっと見つめているところだった。その顔は限りなく無表情に近く、何を考えているのかをそこから読み取ることは難しい。いやそれとも、無表情であることこそが答えなのか。自分がじっとりと嫌な汗をかいていることが分かった。
「イツカちゃんは・・・」
みなとがペンダントを見つめたまま口を開いた。
「う、うん!なに!?」
「イツカちゃんは、私を安心させたくて、これをプレゼントしてくれたの?」
「う・・・うん」
私が頷くと、みなとはこちらを見ないまま、手の平に載せたペンダントの内ひとつ━・・・ウサギのほう━・・・を右手親指と人差し指でつまんで持ち上げ、光にかざすようにしながら言った。
「じゃあ成功してる。私、今すごく安心してるから」
そこまでを無表情で独り言のように呟いたかと思うと、直後みなとはふっと微笑んだ。
「私ね・・・さっき、イツカちゃんがどこかの誰かに連れて行かれちゃったら嫌、とか、色々言ったけどさ。言った後に、ちょっと重かったかなーとか、鬱陶しかったんじゃないかとか引かれちゃったんじゃないかとか・・・けっこう後悔してたのね。だから」
みなとは持ち上げていたペンダントをそっと手の平の上に戻した。
「だから、ありがとう、イツカちゃん」
100人や200人軽く落とせそうな笑顔だったが、この子の親代わりという立場であるとかそういう要素を抜きにしても見とれるどころではなかった。私は慌てた。
「重くないよ!引かないよ!鬱陶しいわけないじゃん!マジでそんなこと1ミリも考えてなかったよ!」
「ありがとう。私も引いてないよ」
「え・・・」
「イツカちゃん、今、私に引かれたんじゃないかってドキドキしてたでしょ」
そう言って、みなとは悪戯っぽく微笑んだ。
「そっ・・・れは・・・」
鏡を見ずとも自分が赤面しているのが分かった。私は握った両手の人差し指を意味もなくこすり合わせる。
「大丈夫、恥ずかしくないよ。カップルでこういうの着けてる人って割と普通に居るし。まあ私たちは夫婦なんだけど」
フォローされると却って余計に恥ずかしくなってくる。
「うん・・・はい・・・えっと・・・あの。そ、そういうわけだからみなちゃんこれ好きな方選んで着けて。ほら!どっちがいい?」
もう羞恥心はとっくに見抜かれてしまっているのだから無駄なあがきだと悟りつつも私は強引に話題を引き戻した。みなとは手の平の上のペンダントに視線を戻し、少し考えるそぶりを見せてからこう言った。
「私、なんとなくウサギがイツカちゃんっぽいなって思うの」
「ああ・・・確かに私も買った時から、クマがみなちゃんぽいなーと実は思ってた」
ウサギが私のイメージに合うかどうかはともかく。
「じゃあ・・・」
私がみなとの手の上にあるウサギのペンダントをつまみ上げようと手を伸ばすと、みなとがそれを阻止するかのように言った。
「だから私、ウサギのがいい」
「ええ?なんで?いやまあ、みながそれでいいんなら私は別に全然いいんだけど・・・」
「なんで?」とか口ではすっとぼけつつも、みなとの言わんとしていることはなんとなく察せなくもなかったのだが、愚鈍な私は察せなかったのだということにしておいた。察した場合どう反応するのが正解なのか分からんだろうが。
「イツカちゃん、うしろ向いて。私が着けたげる」
「ありがとう」
みなとに背を向け、クマのペンダントを着けてもらう。首の後ろにみなとの指が何度も触れて、くすぐったかった。
「じゃあ、みなもうしろ向いて」
「うん」
みなとが自分の首にかかっていた髪を両手で持ちあげてくれるのを見てから、私もペンダントを着けてやった。
「はい、できたよ」
「ん。ありがとう」
「いえいえ」
みなとが再び前を向き、ベンチに座り直す。そして着けたばかりのペンダントをぎゅっと握りしめたかと思うと、少し躊躇いがちに話し始めた。
「ねえ・・・イツカちゃん、覚えてる?私がまだ子供だった時・・・」
「覚えてる。みなが好きだった、日曜朝の魔法少女アニメのことでしょ」
みなとが最後まで言い終える前に返答する。みなとは大きく両目を見開いて私の顔を見た。




