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後輩作家・秋水燕

「だよね!いや、いざとなったら担当こっちまで来てくれるし大抵の仕事はメールと電話で済んじゃうからさ、あんまり私があっちに出向く必要性ってなくて・・・。でも考えてみたら燕と会うためだけにでもちょくちょく東京行けばよかったんだよね。ごめん引きこもり体質で」


 私がそう言って謝ると、燕はわたわたと慌てたように両手を振った。


「い、いえっ!そんなことないです!先輩はお忙しいんですから、わ、わた、私と会うためだけにだなんて、そんな!」


 実際には全然忙しくもなんともない不人気作家の私に対し、燕はやたらと顔を赤くして恐縮したように俯いた。いい子やなぁ・・・。どう考えてもこの子のほうがはるかに人気のある作家なのに。今連載してるシリーズなんてもういつアニメ化、ドラマ化してもおかしくないレベルで売れてるのに。


 そんな風に思いを巡らせる私の前で、燕が何かを言おうとして口を開いた。と、思ったら閉じた。そこから1秒ほどの間を置いて、また開く。閉じる。何故か何度もその動作を繰り返している。


「どうしたの?」

「あの、えっと・・・づき先輩」


 燕はそこから更に数秒沈黙したあと、胸の前で両手を組み意を決したように口を開いた。


「あの!も、もし先輩のご迷惑でなかったらなんですけど・・・。私、冬休みのあいだはほぼずっとこっちに居るんです。だから、先輩の、住んでるところ・・・じゅ、住所とか・・・教えてもらえたら・・・そしたら」

「え・・・」


 私は思わず目を丸くした。


「マジ!?燕、来てくれるの!?ウチに!!」


 驚き半分、嬉しさ半分でそう確認する私を見て、燕はどこかほっとしたような顔になった。


「は、はいっ。先輩さえ良ければ、ですけど・・・」

「良いに決まってるじゃん!いや~、っていうかそうか、その手があったかって感じ!もう知り合って2年以上になるのに今まで燕のほうからこっちに来てもらうって発想自体がなかった」

「2年・・・そっか、もうそんなになるんですね・・・」


 燕は人差し指を顎に当て、視線をやや上方へと向けた。


「確かなるでしょ?燕がデビューしたのとほぼ同時期に出版社で知り合ったから」

「そうですね、あの時私高校に上がりたてだったから・・・2年と半年くらい前なんですね、私が先輩と出会ったの・・・」


 後半は半ば呟くような声だった。遠い目をしていた燕は何を思ったかやたらと姿勢正しく私に向き直り、ものすごく真剣な表情で私を見た。


「あの、先輩・・・あの時は本当に、ありがとうございました。先輩がいなかったら、私・・・」


 燕が言わんとしていることを察するまでに相当の時間を要した。それでもやがて思い至り、今度は私が慌てて両手を振る。


「いやもうそれはいいよ!どんだけ前の話なの!何回私にお礼言ってるの燕!」

「でも今私がこうして普通に作家やれてるの、ぜんぶ都築先輩のおかげですから」

「いや違うでしょ・・・ぜんぶ燕自身のおかげだよ・・・私なんにもしてないじゃん。あー・・・神崎とは今でも上手くやれてる?」


 神崎とは燕の担当編集のことだ。まあついでに私の担当でもあるんだけど。


「はい!神崎さん、すごくいい人で。私が締め切りよりもちょっと余裕を持って原稿上げるだけで、すごい褒めてくれるんですよ」

「ああ~なるほどね。それは多分私がいっっつも締め切りギリギリで原稿落とす寸前だからだね」


 さて、そろそろ色々と説明する必要があるかもしれない。どういうことかと言うと、実は燕は神崎の前の担当に━・・・えー・・・なんだ・・・あまり喜ばしくない行為を・・・いやまあこんなとこでまで言葉濁してても仕方ないか・・・要するにセクハラをされていたのである。

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