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出会えたから

「・・・私もみなと一緒にあの映画の続きが見られるの、嬉しいよ。・・・前作は3年前だったしね」


 言ってしまえば血がつながっているわけでもない私たちが、3年前に一緒に見た物語の続きを、再びふたりで知ることができるというのは・・・当たり前のようでいて、実は奇跡と言ってもいいことなのかもしれなかった。


 ・・・ああ、そうか。ひょっとしたらみなとは、私と一緒に物語の続きを知り続けたくて。それで結婚しようって思ったのかな。


「うんっ。・・・あのさ、これはもう続きとか関係ないんだけど・・・。私ね、もしイツカちゃんに出会えてなかったら。イツカちゃんに会えないまま、あの女のところでつまんない人生送ってたら・・・きっとどんな物語に触れても、つまんなかっただろうなって思うのね。私は多分本来、そんなに感受性の豊かな人間じゃあないから・・・。何を読んでも、何を観ても、ページや画面の向こうの、完全にちがう世界の出来事としてしか受け止められなかったと思う」


 歩道橋を降りてからしばらく歩き、たどり着いた横断歩道の信号がちょうど赤になり、私たちは一度足を止めた。


「でも私は、イツカちゃんと出会えたから。イツカちゃんが私の隣で笑っててくれるから・・・だから私は、安心してどんな物語の中にも思い切り飛び込んで、自由に冒険ができるの。愛とか、夢とか、希望に満ち溢れた世界の中で生きる主人公にも、自分を重ね合わせることができるんだよ。・・・これってすごいことだよ!」


 ・・・正直、話の内容的に私は少し照れてしまって、みなとの顔を真っ直ぐ見られない。なので、目の前を通り過ぎていく自動車だとか横断歩道の向こう側にあるパン屋だとかに目を向けながら、こう言った。


「そか。となりでのほほんと笑ってるだけでみなちゃんの幸せに貢献できるんだと思うと、珍しくちゃんと自己肯定できるような気がするよ」


 すると、みなとが少しだけこちらに身体を寄りかからせてきた。


「ダメだよ。イツカちゃんは私の好きになったイツカちゃんなんだから、ちゃんと普段から自分のことを認めてあげてください」

「・・・はい」


 私は苦笑しつつも返事をした。


「よろしいっ!」


 みなとに許されるのと同時に、赤信号が青へと変わった。ふたりで再び歩き出す。


「・・・ねえ、あのさ、イツカちゃん」

「何?」


 横断歩道を渡り終わると、みなとが少しためらいがちに口を開いた。


「あの・・・あのさ・・・今日、映画観てる時さ・・・手、つないでてもいい?・・・夫婦だから・・・」


 ぶっちゃけ、動揺して転びかけさえしたが、根性でなんとか踏みとどまった。そしてやはり根性で何食わぬ顔を作り上げて、みなとにほほえみかける。


「もちろんいいよ」

「ほ、ほんとにっ?」


 ・・・そこまで嬉しそうな顔すんなよ。あー、でも、うーん、まあいいや。喜んでくれてるわけだし、ここまで来たらもうヤケだ。


「でもさ、これに関しても別に、夫婦である必要なんてないんだよ。そういうことしたいんだったら言ってくれれば、結婚する前だって私はみなちゃんと手ぐらいつないで映画観たよ?」


 言ってるうちに、特にヤケとかそういうことでもなく、これは割と私の本心かもしれないと気が付いた。そりゃまあ、初めて要求されたその瞬間はちょっとビビるし動転もするが、それでもみなとに頼まれたなら手をつなぐし、毎日一緒に寝るし、ふたりで風呂だって入る。結婚なんかしなくったって。


 ・・・ひょっとしたら、そのことをもっと早くにみなとに伝えられていたら、今のこの頭を抱えたくなる事態も回避することができていたんだろうか。私たちふたりは、会話が足りていなかったのだろうか。


「・・・そ・・・そっ、かっ・・・。・・・じゃあ、じゃあ私・・・もったいないことしたねっ!」

「そうだね、もったいなかったよ」


 みなとはそこでぱっと私の手を放し、「もったいないっ、もったいないっ」と歌うように繰り返しながら数メートル先まで駆けていき、けれどすぐにくるりと振り返ってまたこちらまで小走りで戻って来た。そして再び私の手を握る。


「じゃあ私、今日からもったいなかったぶんを取り戻しますっ!決まりね!」

「分かった、決まりね。・・・決まりついでに今日のお昼ご飯も決めよっか。みなは何か食べたいものある?」


 私の質問に対し、みなとの回答は実に簡潔だった。


「オムライス」

「みなは本当にオムライス好きだねえ」

「ほんとはイツカちゃんの作ってくれたやつがいいんだけど、お店ので我慢する」


 風が吹き、乱れた前髪を片手で整えながらさらりとみなとは言った。


「ええ・・・あんなグッチャグッチャの卵焼き載せたケチャップライスでいいんならいくらでも作ったげるよ。別にいいでしょ?たまにはまた私が料理作ったって」

「うーん・・・確かに私もたまにはイツカちゃんの作ってくれたごはん食べたいけど。でも私夫だし・・・」


 この子の中では料理は夫の仕事らしい。しぶるみなとに私は勢いよく片手を振った。


「いやいやいや、料理するのは夫婦のどっちか片方だけなんてルールはないから。私は作家、みなは学生でいわば共働きみたいなもんなんだから、たまには私に任せてよ。っていうか私もみなに料理作りたいし」

「・・・・・・・・・。じゃあ・・・本当にたまにだよ?私がどうしても作れないって状況の時だけ。私の役割、とっちゃダメだからね?」

「オッケー、分かった。じゃあこれも決まりってことで」


 なぜかとても不安そうな顔に向かってほほえめば、みなとは冷たい風のせいか頬を赤くしながらゆっくりと頷いたのだった。



 ☆



 アニメショップに立ち寄り最近ハマっているアニメのグッズにきゃあきゃあ言いながら買い物を楽しんだあと、昼食は結局「クリスマスっぽいから」という理由で二人して喫茶店のハヤシライスを食べ、次に私たちは同人誌専門店へと向かった。自動ドアが開いた瞬間、みなとがあっと声を上げて小走りで陳列された同人誌の前へ向かった。


「イツカちゃん、イツカちゃん、見て!ユニスト10の同人誌だよ!もう出てるんだ!ゲームこの前発売されたばっかなのに!!」


 ユニスト、というのはユニコーンストーリーというゲームの略称である。ついこのあいだ発売されたばかりの新作を含めて今のところ全部で10作が発表されており、この世界では超メジャーで老若男女誰でも知っている国民的RPGなのだ。この世界?


 まあさておき、みなとも私もこのゲームが昔から大のお気に入りなのである。いや、みなとがユニスト好きなのはぶっちゃけ私がみなとを洗脳・・・もとい、教育した結果なんだけども実は。そしてこれに限らず、みなとの趣味のルーツは大体私だったりする。


「ほんとだ、しかもけっこう数出てるね。・・・あ、過去作品のやつも並べてある。ほらこれなんか7のアカシアちゃんが表紙だよ、みな好きでしょ」

「あーほんとだ!絶対買う!あっ、ねえねえこっちはマーガレットちゃんが表紙だよ!あ!こっちはブルーローズちゃんだかわいい!!っていうかネモフィラちゃんとカーネーションちゃんのもある・・・。えーどうしよう、どれ買うかめっちゃ迷う・・・!!」


 こういう時のみなとは普段よりもずっとテンションが高い。しかもなんか無意味にぴょんぴょん飛び跳ねている。動きに合わせて上下に激しく揺れる大きな胸からは咄嗟に目を逸らしておいたが、そのほほえましさとかわいらしさに私も少しずつ気分が高揚してくるのを感じていた。同人誌専門店にて、世界で一番大切な存在の笑顔と共に迎えるクリスマスイブ。すばらしいじゃあないか。


「そんな迷わなくても、欲しいなら全部買ったげるよ。クリスマスだし」


 私が笑ってそう言うと、何故かみなとは少し驚いたような顔でこちらに振り返った。


「いや何言ってるの、むしろ逆だよ。このお店では私がイツカちゃんの好きなもの買ったげる」


 その発言にこちらも心底驚かされる。


「は!?!?なんで!?!?」



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