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夫婦と持久走

「よく持久走でさ、スタート前に友達と『一緒に走ろうね』って約束するじゃん?」

「・・・うん」

「でもいざスタートすると結局、だいぶ早い段階で・・・っていうか下手すると最初っから、早い子のほうが遅い子を置き去りにして走って行っちゃうでしょ?」

「お約束だね」


 と言いつつ、私はそんな経験したことないんだけど。理由はそもそもそういう約束をする友達なんていなかったからだ。得したなぁハッハッハ。・・・いやまあ、一応言い訳しておくと、そういう約束をしない程度の友達なら数人いたことあるんだけどね。あと中学に上がってからはみなとの母親、まどかちゃんがいたけど、あの人は私より3歳年上だったからなぁ。中高一貫のシステムのおかげで学校自体は同じだったけれど、拠点となる校舎は高等科と中等科で違ったし、当然持久走の授業を一緒に受けた思い出もない。それに今はともかく、出会ってから1年くらいのあいだに関しては、私にとってあの人は友達ではなくて・・・


 ・・・いや、よそう、やめだやめ。この話はおしまい。


「でも夫婦は・・・本当の夫婦はさ。一緒に走ろうねって約束をして、それで本当に、最後まで2人で並んで走ってみせるんだと思う」

「・・・なるほど・・・?」


 分かるような分からんような・・・。


 腕を組んで考え込む私を見て、それまで私と一緒に立って話をしていたみなとは何故か急に床に正座をする。つられて私も正座したのを確認してからみなとは再び話し出した。


「私に、ものすごく仲が良くて分かり合える、大親友と言っていい友達がいたとします」

「うん・・・」


 「いたとします」なんて言い方が出てくるということは、実際にはそういう友達はいないということなのだろうか。・・・多分そうなんだろうなぁという気はしてしまう。小学校の頃はまだ友達を家に連れてきたりしていた記憶があるけれど、中学入って以降は確かそういうことは一度もないし。たまに連絡とったりしている姿を目撃するから、友達というもの自体がゼロというわけではないのは間違いないと思うんだけど・・・逆にそれ以上の交流をしているところをほとんど見たことがないから、どうしても付き合いの浅さみたいなのがうかがえてしまうんだよなぁ・・・。大丈夫かなぁ・・・。いや、私全然人のこと言えないんだけどさ・・・。


 そんな私の心配をよそに、みなとは話し続ける。


「で、私がある日、ちょう、超超超・・・怖い悪の組織みたいなのから、命を狙われる身になったとします」

「う、うん・・・?」


 話が見えないにも程があるぞ。


「でも、もしそういうことになったとしてもさ。その大親友が私のために私の手を引いて、一緒にどこまでも逃げてくれるかっていうと・・・そんなことはないでしょ」

「・・・そうなの・・・?」


 みなとはやたら力強く頷いた。


「そうだよ。でもさ、それは別にその子と私との間の友情が嘘だったとか、その子が私のことを裏切ったとか、そういうわけじゃないんだよね、きっと。ただその子にも私以上に守りたい生活だとか、家族だとか、自分の命だとかがあって・・・それで私と一緒に逃げてあげたいっていう気持ちはあっても、実際に一緒に逃げるのは難しいわけ。でも・・・」

「夫婦だったら、一緒に逃げられる?」


 私が先を引き継ぐと、みなとはそれはもう嬉しそうな顔になって、言った。


「そう!夫婦だったらね、相手と一緒に逃げることも、相手に一緒に逃げてもらうことも、自分に許してあげられるの、きっとね。持久走を最後まで2人一緒に走り切るのも、本質的にはこれと同じこと。このひとならしょうがないやって、相手のことを本当の意味で自分と同じくらい大切な存在だって考えていいし、考えてもらえるんだよ。そしてこれが一番大切なことだけれど、本当にどうしようもなくなるその瞬間までは、何があってもずうっといっしょなの。相手は自分のもので、自分は相手のものなの。そういう、本来なら許されないはずの考え方が許される。それが私の考える、本当の夫婦」

「ふむ・・・」


 先ほどの持久走のたとえ話と合わせて聞いてみると、分からないでもないような気がする表現だった。要するに何事も連帯せよということか。

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