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「あのさぁ、みなちゃんは・・・どうして私と結婚したいって、ずっと思っててくれたの?」


 みなとに起こされてからおよそ30分後。私はみなとが作ってくれた朝食を口に運びながら、意を決してその質問を投げかけていた。みなとは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに困ったような呆れたような表情になってこう返してきた。


「そんなの決まってるじゃん。イツカちゃんのことが好きだからだよ」


 まあそう答えてくるような気はしていた。しかし私が確認したいのはそこじゃないのだ。


「ありがとう、それはすごく嬉しい。でもそうじゃなくて・・・ええと・・・どうして『結婚』にこだわるのかなって」


 みなとが再びきょとんとした顔で私を見てくる。


「いや、私はさ!そりゃ結婚したいって思うよ。みなちゃんは本っ当に可愛いし、綺麗だし、かしこいし、自分のものにするのは全人類の夢って感じだし・・・。・・・それに私ってほら、今三十路で古い考え方の人間だからさ、結婚即ち幸せっていう固定観念がどうしてもあるわけ。だから私がみなちゃんと結婚したいと思うのはフツーなんだけど」


 そこで一旦、私はみなとがいれてくれたカフェオレで唇を湿らせた。みなとへの評価以外の部分は例によって嘘八百だった。私は子供の頃から常々、結婚なんてロクなもんじゃねえと心底思いながら今まで生きてきている。だからこそ考えてしまうのだ。みなとは本当に私と『結婚』したいのか、本当は恋に恋してる━・・・もとい、結婚と結婚したいだけなんじゃないか、と。要するにみなとが結婚という言葉の意味を実際には深く考えていない、というかよく分かっていない可能性はそれなりに高いのではないかと私は踏んでいる。いや、まあ、じゃあお前は結婚という概念を真に理解しているのかと問われれば正直口を噤むしかないのだけれど、とりあえずそのことは棚に上げておいて私は言葉を続けた。


「でもみなちゃんは私と違って、今時の若い女の子でしょ?だからその、いくら私のことを好きだって思ってくれてるからって、じゃあ結婚!って考えるのはちょっと意外と言うか・・・。まあ昔約束したからっていうのはもちろんあるんだろうけど、それにしたって、最近の『必ずしも結婚しなくちゃいけないわけじゃない』っていう風潮の中で、みながそれにこだわるのはなんでなのかなーって・・・みなは古い価値観に囚われるような子じゃないだろうし・・・」


 ああ、内心では「恐らくみなとは私以上に古い考え方の人間で、それで結婚という単語に執着しているだけなんだろう」と当たりをつけているくせに、角を立たせずに現状を確認するという大義名分の下、本心とは180度違う内容をぺらぺらと喋っている。仕方ないんだ・・・少なくとも今の時点ではまだ、みなとの両肩に手を置き「あなたは本当に私のことを好きなわけじゃなくて、とりあえず結婚というものさえしてしまえば必ず幸せになれると思い込んでいるだけなんだよ」と諭す気にはなれない。それでまたケンカになれば今度こそみなとは私の元からいなくなってしまうかもしれないのだから、今できるのはこうやってみなとが自分の間違いに自分で気付くよう遠回しに促していくことくらいだ。しかし自分の中でそう結論付けていてもやはり嘘をつくことへの後ろめたさというものはある。私はそっとみなとから視線を逸らし、今日の朝食の献立を見つめた。みなとが作ってくれる朝食は基本和食だが、週に1、2回くらいの頻度で洋食が出てくることがあり、今日がその日だった。ひょっとしてクリスマスだからだろうか。サラダに卵二つ分の目玉焼き、カリカリに焼いたベーコンとロールパン。私がばつの悪さをごまかしたくて目玉焼きの黄身をフォークでつぶすのと、みなとが口を開くのはほぼ同時だった。


「イツカちゃんの質問に答える前に、どうしてもひとつ言っておきたいんだけど」

「う、うん」


 みなとはフォークとナイフを使ってベーコンを切りながら話し始めた。


「イツカちゃんは何て言うか、必要以上に自分のことを卑下しちゃってる気がする」

「卑下・・・?」


 おうむ返しに呟く私に向かってみなとは頷く。


「そう、卑下。・・・べつにさ、結婚即ち幸せって考えることを、古い価値観だとか、それに囚われてるだとか、そんな風に思う必要なんてないんだよ。やっちゃいけないのは、その考え方を他人に押し付けること。結婚が必ずしも幸せにつながるとは限らない、無理して結婚する必要は無いって考え方は確かに立派なのかもしれないけど、それだって他人に押し付けるのはなんか違う気がする」


 そこでみなとは一口サイズに切り終わったベーコンを口に運び、飲み込んでから再び口を開いた。


「逆に言えばね、押し付けさえしなければ、どんな考え方があってもいいんだよ。古いか、新しいかにそこまでこだわらなくていい。いいじゃん、結婚即ち幸せって思ってたって。それは私の大切なイツカちゃんの大切な考えなんだから、もっと胸張っててほしい。イツカちゃん、自分に自信持ちなよ」


 真っ直ぐに私の目を見る。


「少なくとも私にとっては、イツカちゃんの中の考え方や基準の方が、世の中のそれよりずっと尊いし、重要かな。だってそれはイツカちゃんが私と出会うまでに辿ってきた物語を断片的にだけど教えてくれる、ページの切れ端みたいなものだもん」


 みなとに優しく微笑まれて、私はうっと言葉に詰まる。すみません違うんです本当は結婚という単語に幸せのイメージなんて欠片も抱いていないんですそれどころかあなたのことを古い考え方の人間だと決めつけて何なら憐れみかけてすらいたんです。だから頼むみなと、そんな風に優しく私を励まさないでくれ。さっきから私の良心の呵責がすごいことになってる。


 そんな風に心の中だけでこっそり懊悩する私をみなとはじっと見つめたあと、今度はロールパンを手でちぎりながら静かにこう付け加えた。


「私、正直結婚なんてものは基本的に不幸しか生み出さないものだと思ってるけど、だからってイツカちゃんみたいな考え方のひとを見下すつもりなんてちっともないし。むしろ純粋だし前向きで偉いなって尊敬するぐらい」


 ・・・んん??

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