初歩的なミス
「・・・くっ・・・くく・・・ふふふ・・・」
神崎は、愉快でたまらない、といったように肩を小刻みに揺らした。そしてくるりとみなとの方に振り返る。
「ほら、それ貸せよ。お前の妻がこう言ってんだぞ?夫なら聞いてやらなきゃダメだろ。こいつは、私がいいんだよ」
「~~~っ」
みなとは、うーっ、と、涙目で悔しそうに神崎の顔を睨みつけながらも、ぷるぷると震える手でお椀を前に差し出した。神崎はひったくるようにしてそれを奪う。そして私の方を向いてしゃがんだ。
「・・・ほら、食え」
神崎がぶっきらぼうな仕草と声で、私の鼻の先にスプーンを突き出す。私は仕方なく、微妙に屈辱的な気分になりながらも素直に口を開いてそれを咥えた。
「・・・熱っ!」
「あ、わりぃ。そういや冷ますの忘れてた」
思わずスプーンから口を離す私と軽い調子で謝る神崎を見て、みなとが呆れたような顔をした。
「もう、何やってるんですか、神崎さん。イツカちゃんに食べさせてあげるのにそんな初歩的なミスをするなんて・・・。それ返してください。あなたじゃダメですからやっぱり私がやります」
神崎が顔だけを勢いよくみなとの方に向けた。
「ああ?お前いい加減にしろよ、往生際わりぃんだよ。私に負けたんだからもうさっさと諦めな・・・すっこんでろ」
神崎のその言葉に、みなとの声が今までに聞いたことがないくらい低くなった。
「私はイツカちゃん以外の誰にも負けたりしません!いいから早くそこを退いて━・・・」
「み、みなちゃん!大丈夫!大丈夫だから!神崎も次からはちゃんと冷ました後で食べさせてくれるよ!な!神崎!」




