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ゴーレム作成に力を入れます

 エリシアはメイドさんの前で目を丸くする。


「魔道人形……? 人間ではないのですか?」

「その通り。別名、ゴーレムと申します」


 メイドさんは軽く首肯し、淡々と言う。


「私を構成するのは主に石材でございます。触ってみますか?」

「では失礼して……おお、たしかに石ですね」


 ためしに握手してみると、固い手触りが返ってくる。

 瞳も何かの輝石らしく、日の光を浴びてキラキラと光沢を放っていた。メイドは表情を動かすことなく続ける。


「私は門番でございます」

「門番? この洞窟ですか?」

「はい。この先は世界樹の二階層になっております」


 エリシアは洞窟を覗いてみる。世界樹の入り口同様、中は真っ暗闇で奥はまったく見通せない。それでも何か不思議な力が渦巻いているのが肌で分かった。


「Eランクのギルドカードを所持する方だけを、この先へお通しします。カードを拝見してもよろしいでしょうか」

「は、はい。どうぞ、こちらです」


 エリシアが慌ててカードを差し出すと、メイドは恭しくそれを受け取った。

 そのままじっとカードを見つめ、微動だにしなくなる。

 そんなメイドを前にして、エリシアは感嘆の吐息をこぼす。


「すごいですね、魔法って。こんな意志を持った人形まで作れるなんて」

「階層ごとに同じのが置かれているぞ。どいつもこいつも同じ顔だ」


 そこでキャルがふと思い付いたとばかりにエリシアの顔をのぞき込む。


「主も作れるのではないのか? あの珍妙な技を用いて」

「まさか。こういうのは技術と知識がいるものと相場が決まっています。私みたいな素人にできるはずが……」


 そこでぱっと虚空に文字が現れた。神託だ。


『こちらのスキルをお求めですか?』

「……《ゴーレム作成》?」


 スキルポイントは五必要だった。本来なら足りないはずだが、スライムを倒し続けたおかげかいつの間にか一だけ増えていてギリギリ賄える。


 ごくりと喉を鳴らして文字に触れる。

 あたりを見回せば手頃な石塊があった。ボール大のそれに手を翳し、頭に浮かぶ呪文をゆっくりと口にする。


「汝に仮初めの命を与えん」


 ぽこっ!


 弾けるような音を立て、石から丸っこい手足が生え伸びた。

 そのまま石塊はすっと立ち上がり、エリシアのことをじっと見上げる。目はないが、なんとなく期待されているような気がした。


「えーっと……では、踊ってみてください」


 エリシアがおずおずと命令すると、石塊はぺこりとお辞儀して、その直後に激しいブレイクダンスを披露してくれた。上手い。思っていたダンスとはちょっと違ったが。


 キャルはその小型ゴーレムをじーっと見つめてぼやく。


「我から言い出しておいてなんだが、主はどうかしている」

「私もそう思います」


 ひっくり返ってぐるぐる回り続ける小型ゴーレムに拍手を送りながら、エリシアは深々とうなずいた。

 そんな折、目の前に冒険者カードが差し出される。


「確認いたしました。どうぞお通りください」

「どうもありがとうございます」


 カードをしまうも、メイドは変わらずエリシアのことをじっと見つめていた。


「あの、まだ何か?」

「エリシア様はつい先日冒険者になったばかりなのですね。それなのにゴーレムを作ることができるとは驚きです。ゴーレム作成は高等魔法なのですよ」

「そうおっしゃるわりに、全然驚いているように見えませんが」

「私の表情はここから動きません。石のような女だとよく言われます」


 メイドは淡々と頭を下げる。冗談も言えるとはなかなか高度な人形だ。

 そんなふうに感心して、ふと視線を下げる。相変わらず小型ゴーレムが踊り続けていたのだが、エリシアはギョッとして声を上げてしまう。


「あっ、ちょっ、もういいです。それ以上はあなたが壊れてしまいます」


 いつの間にやら小型ゴーレムはすっかりひび割れてしまっていた。

 エリシアが止めるとすぐにピタリと踊りをやめたが、あのまま放置していたら自壊するまで続けたことだろう。


 メイドが粛々と頭を下げる。


「私のように高度な職人様がお作りになった場合は別ですが、彼らは単純な命令を聞くことしかできません。扱いにはくれぐれもご注意ください」

「なるほど……どうもありがとうございました」


 エリシアがそっと頭を撫でてやると、ゴーレムの手足が引っ込んでもとの石塊に戻った。

 あごに手を当ててふむふむと考え込む。


「簡単な命令……どんなものでしょうか」

「先ほどの『踊れ』や『草をむしれ』といったものですね。どんな雑草を取るかは、教えればきちんと守りますよ」

「なるほどなるほど」


 エリシアは石塊をなでながら、なおもじっと思案にふける。

 そんなエリシアの背中を、キャルが鼻先でつんつんして急かすのだ。


「人形遊びはもう終わりか、主よ。早く上に行こう。我もスライムばかりは飽きてきて……主?」

「これです!」


 怪訝な顔をするキャルにかまうこともなく、エリシアは快哉を叫んだ。


 ◇


 それから三日後。


「完成しました!」


 屋敷の庭で、エリシアはふたたび歓声を上げた。

 あの日ダンジョンから帰ってずっと試行錯誤を繰り返していたのだが、その成果が今エリシアの目の前に鎮座している。惚れ惚れして見蕩れていると、後ろでガタガタと音がする。


 見ればダンテが研究室の窓から顔を出し、こちらへ半眼を向けていた。


「毎日なにをやっているかと思えば……マジでなんだそりゃ」

「ダンテ!」


 エリシアは飛びつかん勢いでダンテのもとへと走る。

 この感動を分かち合う相手がほしかったのだ。庭のど真ん中で立ち尽くすゴーレムをびしっと指し示す。


「見てください、ダンテ! 名付けてポーション売りまくりん! ようやく完成したんです!」

「そのネーミングセンスはどうかと思うが、一応続きを聞いてやる」


 ダンテは鷹揚に腕を組んでゴーレムを見上げた。


 平屋の屋根に届くほどの大きさだ。原材料は岩で、立方体の体の側部から二本の腕が生えている。頭部には大きな口が開いているだけで、腹部には四角い開閉部が付けられていた。


 なかなか怪しい見た目だ。

 だがしかしエリシアは得意になって説明を続ける。


「この子はお腹にポーションを内蔵しています。銀貨を五枚渡すと……」

「ぬぼー」


 エリシアからコインを受け取ると、ゴーレムはそれをごくんと飲み込んだ。

 すると腹部の扉がぱかっと開き、ポーションの小瓶が転がり落ちてくる。小瓶を取り出せば自動的に扉が閉まり、ゴーレムはまたひと声鳴いた。


 小瓶をダンテの前にかざしてみせて、エリシアは目を輝かせる。


「このとおり、ポーションが出てくるのです。この子をダンジョンの各地に置けば、自動的にポーションを売ることができるでしょう!」

「正気か? そんなゴーレムじゃ、魔物やガラの悪い冒険者にぶっ壊されるのがオチだぞ」

「そこも考えてあります。お腹のメモをご覧ください」

「ああ? なになに」


 ダンテは目を細めてゴーレムのお腹に刻まれた文字を読み上げる。


「『このゴーレムはキャスパリーグが巡回します。優しくお使いください』……ねえ」

「このメモで冒険者を牽制し、さらにキャルちゃんの臭いを付けて魔物避けにします」


 キャスパリーグは冒険者たちに恐れられている。

 それを使わない手はないと思ったのだ。


 世界樹の階層を守っている自律式魔道人形は戦闘能力を有しており、自分の身は自分で守ることができるらしい。だがしかし、エリシアの作るゴーレムにそんな器用な真似はできっこないため、自衛機能は後付けだ。


 そう言うと、ダンテは窓枠に片肘を突いて目を細める。


「ふうん、あれこれ試行錯誤したわけだ」

「もちろんです。とはいえ改善点は山盛りです。へたに動くと中で瓶が割れてしまいますし、そもそもあまり融通が利きません」


 ゴーレムが分かるのは『ピカピカの石を五つ受け取ったら小瓶を渡す』ということだけ。

 銅貨は通用しないが、金貨五枚でもポーションが買える。

 計算しておつりを渡すなんて器用なことはできないので、もらいすぎになってしまう。


「そこは要改善ですね。ゴーレム制作スキルのレベルが上がれば、もっと複雑な命令を出すことができるようになるかもしれませんし、気長に取り組みます」

「よくやるねえ、よっぽど商売が気に入ったのか」

「それもありますが、他の理由はちゃんとありますよ」


 エリシアはダンテの顔を真正面からじっと見つめる。

 ダンジョンで出会った赤毛の亜人、ヨシュアの言葉が脳裏をちらつく。


『あの男とは早めに手を切った方がいい』


 それをかき消すようにしてかぶりを振って、エリシアは言葉を続けた。


「あなたはすごい。それをポーションを通じ、もっと多くの人に知ってもらいたいのです」

「……ふっ」


 ダンテはしばし目を見張ってから、ゆっくりと破顔した。


「おまえは本当に面白いやつだな。俺にそんなことを言うなんてよ」

「そうですか?」

「ああ。俺が見てきた中では五本の指に入る逸材だ」


 くつくつと笑いながらダンテは窓枠に体を預ける。

 まぶしそうに目を細めて、彼は珍しく優しい声で言う。


「おまえなら、きっといつか世界樹の頂きに届く。そんな気がするよ」

「うっ……」


 それにエリシアはさっと顔色をなくした。

 ここ数日、ゴーレム作成に追われていて、世界樹ダンジョンに向かっていなかった。

 おもわずしゅんっとしてダンテに頭を下げる。


「すみません。完全に本来の目標から逸脱していました」

「おっ、ようやく気付いたか」


 ダンテは茶化したように言いつつもニヤニヤ笑いを隠そうとしない。


「いいってことよ。回り道上等だ。回り道をすればするほど、おまえのスキルは増えていく。その分手数が増えて戦い方の幅が広がる。世界樹の宝も近付くだろうさ」

「そうですね。では、もっとたくさん覚えていきます」

「その意気だ。まあでも、《包丁捌き》みたいなゴミスキルはいらないからな」

「むっ、聞き捨てなりませんね。ちゃんと使い道があるじゃないですか」


 初めてサンドイッチを作ったあの朝から、なんとなくエリシアが朝食当番になっていた。《包丁捌き》スキルを用いてスープに人参の花を入れたり、リンゴをバラ型に切ったりして楽しんでいる。


「あなただって今朝のタコさんウィンナーには喜んでいたくせに」

「呆れただけだっつーの。なんで吸盤やしわまで再現しやがるんだ。無駄にリアルで食欲失せたわ」


 ダンテはやれやれと肩をすくめる。

 こんなふうに文句を言いつつも毎回ちゃんと完食していた。焦がしたりした料理もちゃんと食べてくれるので、エリシアは試行錯誤が止まらないのだ。


(ふむ……なんだかいいですね、こういうの)


 何がどう好ましいのかは分からない。

 だがしかし、こうして彼と軽口を叩き合う日常が、ずっと続けばいいと思った。

続きはまた明日。

なんかめちゃくちゃストック減ってない?と思ったら予約投稿の日時ミスってめちゃくちゃ上がってましたね。やらかした!


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