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お掃除大作戦です

「つくづく変なスキルだな……ま、おいおい研究していくか」


 ダンテは軽く行ってのけ、サンドイッチの残りを乱雑に口へと突っ込んだ。

 そうして片眉を持ち上げてエリシアを見やる。


「そういやおまえ、今日はどうするんだ」

「もちろん決まっています」


 エリシアは重々しくうなずく。びしっと指し示すのはリビングの隅に積み重なるガラクタの山だ。


「まずはこの家を掃除します」

「ありゃ、ダンジョンに行くんだと思ってたんだが」

「それもいいですが、まずは生活基盤を整えるところから始めるべきだと思いまして」


 せっかくランクも上がったことだし、世界樹ダンジョンの一階より先へ行くのもいいかもしれない。だがしかし、台所を使ってみて分かった。この家をどうにかするのが何よりも先だ。


 そう言うとキャルがむうと不服そうに唸る。


「世界樹には行かぬのか? 主と我で雑魚どもを薙ぎ払い、恐怖を振りまこうぞ」

「それはまた今度で。ここを片付けたら、キャルちゃんのお昼寝スペースが作れますよ。ふかふかのクッションを置いてあげましょう」

「ふむふむ? それは魅力的であるな」


 キャルは目を輝かせて尻尾を振る。なかなか現金だった。

 話がまとまったところで改めてダンテに向き直る。


「掃除してもいいですね? 捨てられて困るものはあらかじめ教えてください」

「特にねえよ」


 ダンテはあっさり言って肩をすくめる。


「どうせ全部ゴミだしな、好きに捨ててくれ」

「……あなた、いったいいつから掃除していないんですか。台所といい、一朝一夕で溜まる量ではありませんよ」

「さあな、バカみてえな年月なのは確かだ」


 ジト目のエリシアに、ダンテは冗談めかしてせせら笑う。

 エリシアからすればまったく笑えない話であった。


 ともかくこうして掃除大作戦が始まった。キャルと、なんだかんだ言ってダンテも手伝ってくれたので、昼ごろにはリビングの片付けが終わって床が見えるようになっていた。

 雑巾がけを終えて、エリシアは額の汗をぐいっとぬぐう。


「ふう。これでようやく家になりましたね」

「今までは何だったんだよ」

「掃きだめです」

「言うねえ、居候のくせしやがって」


 ダンテが軽く睨んできたが、事実である。

 そんななか、キャルがよく日の当たる一角を見つけて前足でてしてしと叩く。


「主、ここだ! ここを我の縄張りとするぞ!」

「いいですね、ではどうぞ。キャルちゃんのクッションです」

「おお、これはなかなか……ぐう」


 天日干ししておいたクッションを置くと、キャルは満足げにそこに収まり、あっという間に寝息を立てた。やはりただの仔猫なのではないだろうか。

 キャルをそっと撫でていると、ダンテが軽く伸びをして言う。


「いい暇つぶしになったぜ。そんじゃ、俺は研究室に――」

「待ってください」


 立ち去ろうとするダンテの外套を、エリシアはむんずと掴んで引き留める。


「まだお店の方が残っています。ついでにやってしまいましょう」

「店だあ?」

「ええ。あの散らかりようではお客さんも困りますよ」


 こちらの家同様、店の方もそうとう雑然としていた。

 あれでは落ち着いて買い物もできないだろう。

 そう訴えると、ダンテは眉間に深いしわを寄せた。


「いや客なんて…………うーん」


 そのまましばし考え込むのだが、最終的には肩をすくめて言う。


「ま、いいぜ。暇だしやるか」

「はい。頑張りましょう」


 エリシアはダンテの背中を押す。


(実はお店っていうのも憧れだったんですよね。お客さんが来たら対応してみたりして)


 内心ちょっとワクワクしながら、次なる戦場へと向かった。


 家と違い、店の掃除は難航した。置かれているのが商品だからガサッと捨てるわけにもいかず、ダンテの指示に従って棚に直したり、箱に詰めたりという作業が延々と続いた。


 それでも日が暮れるころになれば、すべて綺麗に片付いた。

 戸棚にはジャンルごとに整然と品物が並び、曇っていた窓も磨き上げられてピカピカだ。これなら客も満足だろう。だがしかし、エリシアは意気消沈していた。


 カウンターに突っ伏してぐったりと言う。


「今日一日、とうとうお客さんがひとりも来ませんでした……」


 期待していた接客の機会は皆無だった。

 そんなエリシアに、ダンテは呆れたように言う。


「当たり前だろ。この店に来る客なんていねえよ」

「どうしてあなたは平然としているんですか。お客さんが来なければお店存続の危機ですよ」

「作った魔法薬はほとんど冒険者ギルドに卸している。それで十分やっていけるんだよ」


 ダンテは事もなげに言い、ひょいっとカウンターの奥に飾られている営業許可証を指し示す。


「つーか、店を開いてるのは便宜上だしな。営業実績があると、魔法薬を卸す手続きが簡略化できるんだ」

「そういう姑息な裏技だったんですか……」


 とはいえ、店が散らかっていた合点がいった。

 結局ここもダンテにとっては人を招く場所ではなく、家の延長だったのだ。

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