スキルについて考えます
そんな折、台所の入り口から呆れたような声がする。
「いや、無駄遣いにもほどがあるだろ」
「む、起きたのですか」
いつの間にやらダンテが壁に寄りかかり、ジト目でエリシアのことを見つめていた。
人参の花々を指し示し、説教するように続けることには。
「おまえなあ……そのスキルは貴重なものなんだぞ。もうちょっと考えて使えよな」
「大丈夫ですよ。ちょっとくらい無駄遣いしても問題ありません」
ダンテの言うことももっともだが、このスキルには謎が多い。今は使って勝手を覚える段階だ。決して、興味本位で使ってみたわけではない。本当に。
「それに、スキルポイントは潤沢です。昨日のトウテツ戦でかなり稼げたようなので」
「すきるぽいんとぉ……? なんだそりゃ」
「え?」
ダンテが首をかしげたので、エリシアはぽかんとしてしまった。
それから小一時間後。殺風景だった食卓へ朝食が並ぶこととなった。
作ったのは簡単な卵サンドにスープだ。
「それでは召し上がれ」
「うむ! いただくぞ!」
エリシアが許可を出すと、キャルは待ってましたとばかりに目の前の皿に飛びついた。
卵サンドを口いっぱい頬張って、へにゃっと目を細めてみせる。
「うむうむ、味付けは単純だがなかなかだ」
「ありがとうございます。では私も……あむ」
エリシアも自分のサンドイッチを口へと運ぶ。
潰したゆで卵に塩コショウで味付けして、食パンで挟んだだけの代物だ。料理と呼ぶにはシンプルすぎる。
だがしかし、エリシアはじっくりと噛みしめた。
(母さんの味です)
亡き母がよく作ってくれたメニューだ。貧乏暮らしだったのでもっと塩味が薄かったし、パンも固かった。それでも幸せだったころを思い出すには十分すぎる味だった。
スープも味付けは塩コショウのみ。それでもベーコンと野菜の旨味がぎゅっとしみ出して、朝の空きっ腹にほどよくしみた。
(うん、なんだか素敵な経験です。次は別の料理を作ってみましょう)
味わってゆっくり食べていると、真正面に座ったダンテがため息を吐いた。
「なるほどなあ……」
彼もまたサンドイッチをかじっていたが、そちらより手元のメモに意識のほとんどを裂いているようだった。そこには調理しながらエリシアが語った《仙才鬼才》についての情報がざっくりとまとめられている。
「つまり、おまえは戦闘なんかで得たスキルポイントってのを消費して、スキルを覚えられるわけだ」
「他の人は違うのですか?」
「普通に修練が必要だ」
剣技を会得するには剣の素振りを。
包丁捌きを会得するには幾度もの練習を。
そうした地道な修練が必要で、スキル一覧にスキルが記載されれば習得したことになる。
「おまえはその修練をショートカットできる。もしくは他で蓄積した経験を転用できるんだ」
「なかなかズルいスキルですね」
「ズルなんてもんじゃねえ。ペテンもいいところだ」
ダンテは口の端についた卵を乱雑に拭って、横柄に言う。
「で、今そのスキルポイントってのはどれくらいあるんだ」
「五です」
エリシアは両手を広げてみせてから、親指を折り曲げる。
「ですが、さっきの《包丁捌き》を取得したので一減りました。スキルによって消費する数値が変わるようです」
「じゃあやっぱり無駄遣いすんじゃねえよ。バカかおまえは」
「正論すぎてぐうの音も出ません。ぐう」
「舐めてんのか?」
ちょっとしたジョークだったが、ダンテはギロリと睨んでくる。目が本気だった。
だからエリシアは弁明するのだ。
「本当は《包丁捌き》レベル一ではなく《調理》スキルレベル一を会得したかったんですが、ポイントが三も必要だったから諦めたんです。ちゃんと考えているんですよ」
「ふうん、けっこう変動するんだな……って待てよ」
スープに浮かぶ花の人参を掬ってぼやくダンテだったが、急にはたと黙りこみ、少し考えてから再び口を開く。
「《仙才鬼才》で会得できるのは、レベル一のスキルだけなのか?」
「そのようです。レベル二以降のスキルは選択できませんでした」
会得可能なスキル一覧にあったのは、どれもレベル一ばかりの基礎スキルだった。
レベル二より上のものはどれだけ探しても見つからなかった。
そう言うとダンテの顔が険しくなる。
「レベル一を伸ばすしかないのか、はたまた経験を積めば会得可能になるのか……どっちなんだろうな」
「さあ。そこは説明してもらえませんでした」
神託(?)に尋ねてみたが、だんまりだった。スキルのことをなんでも教えてくれるわけではないらしい。
そんな会話を横目に、サンドイッチを平らげたキャルが合点がいったとばかりにうなずく。
「納得だ。主はそうやって面妖な技を覚えていたのだな」
「面妖とは失礼な。あまり否定はできませんが」
エリシアは肩をすくめるだけだった。
明日からは一日一回夕方更新の予定です。
第一部完まで書き切っておりますので、お暇潰しになりましたら幸いです。
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