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この世界は貴方が思っている様な乙女ゲームの世界ではありませんよ?

作者: 騎士ランチ
掲載日:2023/09/01

「公爵令嬢アンリマユ!俺はお前との婚約を破棄する!真実の愛に目覚めたんや!」


 今、私の目の前では王太子様が乙女ゲームの決めセリフを叫び指をビシーっと私に突きつけている。


「ふむ、ふむ」


 両手を小さく開いたり閉じたりして身体の自由が戻ったのを確認。どうやら、ゲームの強制イベントは終了したみたいなので、私は鉄扇を取り出して空中ダッシュで殿下に近づいた。


「ハアッ!ハアッ!エイッ!」

「グワー!」


 取り巻きどもを鉄扇でしばき倒し、殿下も脳天を叩き割り沈黙させる。


「悪役令嬢の大勝利ですわー!おーっぽっぽ!」

「待って!」


 私が腰に手を当てて勝利の舞をしていると、殿下が起き上がり、不満げな顔でストップを掛けてきた。


「何か、俺がおもてたんと違うやん!」

「あら、どうしましたの?」

「これ、ゲームの世界やないの?俺がヒロインと力合わせてお前倒す系の」


 ふむ、どうやら殿下はこの世界が自分が以前プレイした乙女ゲームだと思い込んている様だ。しかし、それは間違いである。


「殿下、この世界は殿下が思っている様な乙女ゲームの世界ではありませんわ」

「そうなん?」

「今から説明しますので、まずは元の席にお戻り下さい」

「わかったでー、ここでええの?あ、あれ、身体が勝手に…アンリマユ!婚約破棄やー!」


 私は鉄扇を抜き放ち十連コンボを決めた後、溜まったゲージを使い必殺技を放つ。


「悪役令嬢ビィィィム!」

「ギャアー!」


 殿下が黒焦げになって沈黙したのを確認した私は、鉄製をフリフリお立ち台ダンス。


「これが公爵家の力ですわぁー!」

「待て待て待て!」


 私の勝利ダンスは殿下のツッコミで中断された。


「殿下、どうなされました?」

「お前、さっきこれはゲームやないって言うたよな?ゲームやん!お前はビーム出すし、俺は怪我がすぐ治るし、完全にゲームやん!」

「ええ、ゲームですわよ」

「は?」


 殿下は口を開けてポカンとしている。やれやれ、どうやら最初から説明しないといけない様だ。


「私は、貴方が思っている様な乙女ゲームではないと言ったのです。つまり、これは他のゲームなのです」

「せやけど、俺とお前は有名乙女ゲームのキャラやし、格ゲーやアクションになった続編なんて知らへんで」


 そう、私と殿下は乙女ゲームのキャラ。それは疑いようのない事実だし、発売メーカーは乙女ゲーム一本でやっている。だが、殿下は知らないのだろう。私達が出ている作品が他にもある事を。


「殿下、貴方の言う通り私達は大人気乙女ゲームのキャラです。そして、大人気故に、本家以外に出張する事もあるのです」

「そうか、同人ゲームやな!」

「いいえ、ちゃんとプロが作り許可も貰ってるゲームですよ」

「えー?そんなん俺知らんでー?」


 まあ、知らないのも無理は無い。この件は色々とややこしいから。


「殿下、私達の作品は大人気でした。なので当然コミカライズもされていたんですよ」

「あー、アンソロとか少女漫画版とかあったなー」

「そう、様々なコミカライズがあり、その中で異彩を放っていたのが少年漫画版でした。週刊少年ラッシュにも連載されてたんですよ」


 殿下の頭に大きなクエスチョンマークが出現する。やはり、あの漫画の事は知らない、いや、覚えてない、いや、認識出来ていないのだろう。


「少年ラッシュなら俺も子供の頃読んどったけど、この乙女ゲームの漫画は無かった思うで?」

「それがあったんですよ。乙女ゲームが発売された直後、宣伝の為のコミカライズが三話だけ出ました。作者はラッシュで最も何でもありなギャグ作家のあの人です」

「分かったで!ダダダダ・ダンスマンの人やな!」


 私は頷いた。ダダダダ・ダンスマンは、主人公のダダダダが毎回意味の分からないダンスとギャグで悪を倒す世直し漫画だが、ハッキリ言ってシュール過ぎて普通の人は半分も内容は理解出来ない。しかし、勢いだけは凄かったので乙女ゲームのコミカライズのオファーが来た。来てしまったのだ。


「何でよりにもよってダダダダの人やねん。セパレートの人とか徐々に奇怪な旅路の人とかギューンと弾くのじゃがの人とかおったやろ」

「殿下が挙げた作者でも、コレジャナイものが高確率で出来そうな気がするのですが…、とにかく編集部の英断でダダダダ作者に三話だけコミカライズしてもらいました。そして完成したのが、ダダダダ・ダンスマン学園バトル編です」


 学園バトル編、それは訳がわからないモノばかりのダダダダにおいてもトップクラスに理解できない話だった。


 自分のダンスで荒れた世界を救う旅をしていたダダダダだったが、ある日突然高卒資格が欲しいと騒ぎ出し、仲間と共に近くにあった学園に入学する事になる。だが、学園内では王太子が婚約者に婚約破棄を告げ、それにキレた令嬢が婚約破棄に至るまでの展開に一つ一つツッコミながら鉄扇で王太子をしばき続けていた。そこに駆けつけたダダダダは「悪は許さねえ!」と叫び必殺技を放った。王太子に。


 これがダダダダの学園バトル編の全てである。当時の読者からは、「この話要る?」「まあ、いつもの」と首を傾げながらも内容スルーしてギャグに笑っていた。


「ですが、あの話は間違いなく乙女ゲーム会社が少年ラッシュに依頼した案件だったのです。あの話に出ていた王太子と公爵令嬢は私達だったのです」

「ほな、この世界はダダダダのアクションゲームのステージの一つなんやな?」


 私は鉄扇で殿下の顔をひっぱたいた。


「何すんねーん!」

「早とちりしないで下さい。ここは貴方の考えていた乙女ゲームの世界でもなければ、ダダダダのゲームの世界でもありません」

「ならなんの世界や!」

「少年ラッシュオールスター無双ゲーム、『ラッシュ・ヒーローズ』の世界です」


 ラッシュ・ヒーローズ。それは、ラッシュの歴代人気作品のキャラが集まり戦う、言わば究極のキャラゲーである。異なる作品の主人公達の掛け合いを愛でる、あるいは敵キャラ同士が手を組み最強の壁となったのを撃破する等様々な楽しみ方が出来る名作だ。


「ラッシュ・ヒーローズなら買った事ないけど、俺もタイトルは知っとるわ。そうか、これはラッシュ・ヒーローズのステージやったんやな」

「ようやく正解に辿り着けましたね。殿下、ここはラッシュ・ヒーローズのステージ、しかもただのステージでは無く、ダウンロードコンテンツで購入出来るレベルアップ効率最高のボーナスステージなのです」


 私は鉄線を構えた。


「では、周回プレイを再開しましょう」

「待って!納得はしたけど納得してへん!」


 殿下は逃げる事が出来ない事を知り顔を青ざめさせるが、私は気にせず鉄扇を振るった。


「ふう…、ありがとうございます。殿下、これで無事にレベルカンストに到達しました」


 殿下をしばく事約三十分。私は無事レベルカンストになった。


「お、終わりなんやな?今度こそホンマに終わりなんやな?」

「はい、私はもうここに用はないです。ですから、次は彼らの相手をして下さいね」

「彼ら?」


 私の後方から、複数の足音が向かってくる。近づくにつれて明らかになる正体。殿下は全てを理解して顔面が真っ白になった。


「どーもこんにちはー。ダダダダ・ダンスマンでーっす!」

「うわあ、ダダダダや…当然おるよなあ」

「ここのメシうめぇなあ〜」

「大ヒットバトル漫画、にょいぼーの主人公斉天大聖さんや…勝手にメシ食っとる」

「君はオーラを感じた事はあるか?」

「王道少年漫画、白馬の輝の輝君や…俺は子供の頃あの鎧にむっちゃ憧れたわ」

「身体のどこでもいいからぶつかれ〜!」

「ラッシュで唯一無二のサッカー漫画、エースの空のゴールキーパーで守備はザルなのに名前は盛な盛蕎麦くんや…こんなのまでおるって事は全部で百人は確実に超えとるんやろな」


 殿下の予想は当たっていた。このゲームで使用可能なキャラは主人公たけでは無い、人気が高い仲間や一部のネタキャラも採用されており、主人公も含めると百人を超える。


 一人当たり平均三十分のリンチを受け続け、殿下は破壊と再生を繰り返していく。私は婚約者として、彼の生き様を遠くから見守っていた。


「お、終わった。これで楽になれりゅ」


 一番育成が辛い盛蕎麦君も無事カンスト。ヒーロー達が肩を組み和気藹々とした雰囲気で帰っていくと、殿下は膝から崩れ落ちた。


「殿下、マシお疲れ様です」

「さ、さっきので全員なんやろ?俺はやったで、やり遂げたで」

「殿下は私が考えていたよりもずっと責任感のある方だったのですね。今の貴方なら彼らを任せても大丈夫でしょう」


 私の後方から複数の足音がする。


「おい、まさか」

「ラッシュ・ヒーローズはヴィランも条件を達成すればプレイヤーが操作出来ます。流石、名作ですね」


 殿下の顔色は土気色だった。


「重いコンダラだっ!」

「徐々にシリーズの時止めチートボス、ギオや…せめて痛み感じないぐらい超スピードでやって欲しいわ」

「今日は唐揚げごはんとストゼロで優勝したいわ」

「忍者漫画ギョーザの第一部最強の敵イグアナ姐さんや…なんか終盤に急に面白い人になったよな」

「やっだー、ここのビュッフェおいし~い、喜びのダンス踊っちゃうぞっと」

「ダダダダや…なんでお前また来てるねん」


 ラッシュヴィランプラスダダダダによる殿下へのリンチが始まった。流石にヒーロー側程数は多くないが悪役なので攻撃手段がえげつない。殿下は酸で溶かされたり、ノートに名前を書かれて心臓が止まったり、ステージごと消し飛ばされたり、ダンスバトルで和解したと見せかけてグーで殴られたりした。


「よし、これで今度こそ全員ですわね」


 全てを見届けた私は、尻にマラカスが刺さりピクピクしている彼を労った。


「殿下、お疲れ様です。今度こそ全員終わりましたよ」

「コロシテ…コロシテ」

「大丈夫ですよ、全てマジで終わったのですよ。ほら、空を見て下さい」


 殿下は私に促されて朝焼けが広がる空を見上げる。そこには、【隠しキャラクター王太子が使用可能になりました】というシステムメッセージが浮かんでいた。


「これは、どういう事やねん」

「私言いましたよね?ヴィランも条件をクリアすれば仲間に出来るって。ダウンロードコンテンツ購入と全キャラカンストが殿下の仲間入り条件だったのです」

「そ、そうか!つまり、もう奴らはこのステージで俺をボコる事は無い!そして、俺はレベルアップを理由に今まで殴ってきた奴らをボコボコに出来るって事やな」

「その通りです。ですからステージ移動しましょうね。ここは殿下をリンチするステージてすので」


 基本的にヴィランキャラは自分がボスをやっているステージには出撃出来ない。それは物語の矛盾を防ぐため、リアルな話では同一キャラが同じステージに居ると処理が大変だからである。


 私がこう説明すると殿下は納得し、他ステージに向かう私についてきた。


 そして、ここが目的地。ラストステージの一つ前、ボスラッシュエリアである。


「私の支店は53店舗です」

「あまり大きな数字を使うな。セコく見えるぞ?」

「粉骨!砕身!大出世!ワタシのデッキパワーに恐れ慄くが良いデス!」

「貴様は俺の掌で踊っているにすぎん!」


 地上げの帝王と催眠の使い手とカード会社の社長とダダダダに囲まれて、殿下は下半身ビシャビシャになっていた。


 私は安全な位置から殿下にエールを送る。


「殿下ー、ファイトー」

「ふざけんなや!俺初期レベル初期装備のままやぞ!勝てるか!」

「負けても与えたダメージに応じて経験値が入るから、このステージで死に戻りし続けるのがダウンロードコンテンツ以外で一番効率の良い稼ぎなのですわー」

「そうかー、ほなら、ぶんぶん丸するわ。ちなみに、プレイヤーキャラとしての俺の能力はどんな感じなんよー?」

「全ステータスが盛蕎麦くんより下ですわー」


 結局、殿下はボス軍団にマトモに攻撃を与えられずレベル1のままだった。それから数日後、このゲームを遊び尽くしたプレイヤーの手によってゲームは中古屋に売られ、殿下のリンチの日々は終わりとなった。


「めでてぇですわ!」


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