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私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…

作者: 徒然草

文章を修正しました、内容は変わってません。番外編も徐々に修正していく予定です。この本編と番外編でセリフが違う部分がありますがご了承下さい(2025.5/30)

 私、アイネは伯爵令嬢です。今から約3ヶ月程前に婚約者が出来ました。名前はレオナルド、伯爵令息です。彼とは婚約者として紹介された時に初めて出逢いました。しかしレオナルドの方は私の事を知っていたらしく、経緯は不明ですがレオナルドの方から婚約を申し込んで来たそうです。私に好きな人はいなかった事と、彼の人柄は悪くないと思ったので婚約を結ぶ事に同意しました。

 

 …今は後悔しています。その理由は目の前の光景のせいです。


「もう、レオは何時もそうなんだから!」

「はははっ、ミオには敵わないよ。」


 現在、私とレオナルドはデートをしていて、とあるレストランで食事をしています。…そう、婚約者同士でのデートの筈です。しかし、もう一人居るのです。私の席の向かい側に座るレオナルドの隣で、楽しそうに話をしている方はミリオーレさん。レオナルドの幼馴染みで私と同じく伯爵令嬢です。レオナルドの婚約者になった数日後に、レオナルドから紹介されて知り合いました。


「初めまして、私はレオの幼馴染みのミリオーレと申します…あ、ごめんなさい。『レオ』って、レオナルドの事を昔から愛称で呼んでいるのです。私の事はミリオーレ、と気安く呼んで下さいね! 私もアイネと呼びますから!!」

「ミオはアイネと仲良くなりたいそうなんだ、よろしく頼むよ。」


 ミリオーレさんの第一印象は、良く言えば気さくで人見知りしない方。悪く言えばお互いの事を良く知らないにも関わらず、馴れ馴れしい態度で私に声を掛けてきた方だと思いました。貴族の令嬢としてその態度はどうかと思いもしましたが、婚約者(レオナルド)の幼馴染みである彼女とは、今後も何かしらの付き合いがあるのだと思いましたし、仲良くなろうとして下さるのは嬉しくもあったので私も頷きました。


 ですがその後、レオナルドとのデートには必ずミリオーレさんがついて来るようになりました。ミリオーレさんは「偶然ね!」と毎回言うのですが、そんな偶然が毎回続く訳がありません。そしてレオナルドも、ミリオーレさんがついてくる事に反対する事なく嬉しそうに承諾しました。その結果、二人だけで楽しそうに話をして、私はそんな二人をただ眺めているだけでデートは終わるのでした。これではもう、誰と誰がデートをしているのか分かりません。


 私も黙っていた訳ではありません。仮にも婚約者という立場の私に対して酷い対応だと思い、レオナルドに何度も言いました。しかし、


「あはは、もしかして嫉妬してるのかい? ミオとは昔から仲が良いだけだから気にしないでね。」

 

 レオナルドは笑うだけで何も変えようとしてくれませんでした。ならばせめて、二人で話をしたいなら私が居ない時に予定を組んで欲しいとお願いしました。


「僕には婚約者のアイネが居るのに他の女性と二人きりなんてなる訳ないよ。それに、ミオはアイネと仲良くなりたいと思っているんだ。アイネも居てくれなきゃ意味がないよ。」


 と言われて何も変わりませんでした。私は、“ミリオーレさんが私と仲良くなりたい”という、レオナルドの言葉が分かりませんでした。私と仲良くなりたいのであれば、なぜ毎回私を除け者にするのか理解できません。


 その後色々と考えた結果、本当はレオナルドとミリオーレさんはお互いが好きなのではないかと思いました。しかし、私との婚約を言い出したのはレオナルドの筈です。家柄も私達は同じ伯爵家です。政略的なものが絡んでいるとは思えず謎は深まるばかりです。お互い想い合っているのに私と婚約した理由は何故でしょうか…?


「レオ、これ美味しいわよ! 食べさせてあげる!!」


 二人の会話を聞きながら食事を進めていた私は、ミリオーレさんの言葉に驚いて顔を上げて二人を見ました。ミリオーレさんはフォークに挿したメイン料理をレオナルドの口元に運ぼうとしていました。


 …意味が分からない。此処は庶民も利用する事があるレストランだったので、貴族同士の正式な社交場ではありません。礼儀作法やマナーを厳しく守る必要はないと思います。ですが仲の良い幼馴染みであっても婚約者の前でする行為とは到底思えませんでした。唖然とする私とレオナルドの目線が合いました。流石に私という婚約者を認識し、断ると思いました。


「ありがとう、頂くよ。」


 しかし、レオナルドは私との目線を外すとミリオーレさんに差し出されたフォークに齧り付きました。


「…うん、確かに美味しいね!!」

「ね、そうでしょう!!」


 …馬鹿じゃないの? 私は驚きのあまり、何も言えません。ニコニコと微笑むレオナルドとミリオーレさんをただ眺めるしかありません。レオナルドは口元をナプキンで拭くために少し俯いた時、ミリオーレさんは私を見ました。























 ニヤリッ、という小説によくある表現が浮かぶような黒くて、敵意を感じさせる笑みを向けてきたのです。


「…ミリオーレさん。少しいいですか?」


 ミリオーレさんのその笑みを見た瞬間、考えるよりも先に言葉が出ていました。不思議と私は冷静で、恐怖心も無ければ傷付いてもいません。


「今、私を見て笑いましたよね? どういうつもりですか。」


 ただ…ただ、もう許せないと思ったのです。


「へっ?」


 ミリオーレさんの笑みは無くなり、驚いたような顔をしました。そして少しだけ黙り込んだあと、いつも通りの明るい笑顔になりました。


「ど、どういうつもりって……ただ楽しくて笑っていただけですよ?」

「“楽しい”? どんな風に楽しければあのような笑顔になるのですか?」

「え、ちょっと、アイネ!? どうしたんだい?」

「ミリオーレさん、貴女はこのような笑顔をしていたのですよ?」


 私は、ミリオーレさんを意識して笑顔を作って真似をしてみました。あの黒くて敵意が込められている、ニヤリッ笑みを。ですが顔の真似なんて初めてで、似ていない可能性の方が大きく、ちゃんと伝わるのか心配になってきました。


「はっ、ちょ、ちょっとやめて下さい! そ、そんな顔してません!! アイネの勘違いです。」

「そ、そうだよアイネ。ミオがそんな…嫌な笑顔をする筈がないよ。」


 ミリオーレさんは少し焦ったような、怒ったような顔をして否定しました。そう言えば、私はミリオーレさんと出逢ってから、彼女の楽しそうな笑顔しか見ていなかったなと思いました。そんなミリオーレさんの焦ったような顔を見て、何だか不思議な気分になりました。そんな気分を抱えながらも、私は二人と改めて向かい合いました。


「レオナルドには言った事がありますがミリオーレさん。もう私とレオナルドのデート中に来ないで下さい。今のやり取りは流石に度が過ぎてます。私が彼の婚約者だからといって気を遣う必要はありませんので、レオナルドとお話がしたいのでしたら私が居ない別の日に予定を立てて下さい。レオナルド、勿論貴方にも言ってますよ。」


 今後二人きりで交流して、二人が婚約する事になっても構いません。正直、レオナルドの婚約者でいることに疲れていました。既に私の中で、レオナルドに対する好意は微塵もありませんでした。


「…ごめんね、アイネ。僕達を見て不安になってしまったんだね。でも、僕とミオにとっては特別でも何でもない行為なんだ、幼い頃はよくやっていたんだよ。だから気にしないで欲しい。僕は絶対にミオと二人きりにはならないよ、安心してね。」


「も、もう、アイネったら心狭すぎますよ! そうそう、食べさせ合う事なんて私達は今までも何回もあったんですから!!」


 レオナルドは微笑み、ミリオーレさんは少しぎこちなさそうな様子で笑いました。…あぁ、またしても私の主張は聞き流されたのだと、結局今までと同じように変える気がないのだと分かりました。


「ほら、食事が冷めてしまうよ。食べようよ。」


 レオナルドは中断していた食事を再開し始めました。ミリオーレさんも食事を始めたのを見て、私はもう一度ミリオーレさんが何処かであの、ニヤリッとした笑顔をするのではないかと思い、ミリオーレさんを見つめる事にしました。


「……………………………。」

「…!?、あの、どうかしたのアイネ?」


 暫く観察していると、私の視線に気がついた様子のミリオーレさんが食事をやめて私を見てきました。


「…別に、気にしないで下さい。」

「“気にしないで下さい”って……」

「どうしたのです? いつものように私の事など気にせずにレオナルドとお話しになって下さい。」


 レオナルドと話をしなければ、ミリオーレさんはあの笑みを浮かべないかもしれないと思いました。今までの態度でレオナルドとミリオーレさんは両想いであり、あの笑みでミリオーレさんは私の事が気に入らないと思っている事を確信出来ました。でも言ったところではぐらかされてしまうかもしれません。なので、また私を笑ったタイミングで指摘すれば…いや、それも可笑しいですね。指摘したところで気の所為だとはぐらかされれば結局終わりますし、あの笑みではミリオーレさんのレオナルドへの好意を証明出来る訳ではありません。では、私は何故……?


「ちょ、ちょっとアイネ。どうしたんだい?」


 レオナルドの言葉に我に返りました。ミリオーレさんの顔の観察を怠ってしまいました。いけないいけない…再びミリオーレさんの顔を集中して見ると、不安そうに、少し怒ったように私を見ていました。どれも初めて見る表情です……


「じ、じーっと見つめるのやめて下さい! た、食べにくいではありませんか!」


 どうやら、私は考え事をしていても目線はミリオーレさんから逸れていなかったようです。


「気にしないで下さい、どうぞ、続けて下さい。」

「ちょっと、だからやめて欲しいと言ってるでしょ!」

「アイネ、ミオが嫌がっているよ。一体どうしたんだい? とにかくやめるんだ。ほら、僕の方を見て。」


 ミリオーレさんの怒りの表情を見ていると、その隣からレオナルドの声が聞こえてきます。


「ですから、気にしないで下さいよ。」

「アイネ! 今話をしているのは僕だよ、ちゃんと僕を見てくれ。」

「嫉妬ですか?」


 ミリオーレさんから視線を外さずにいる私にレオナルドが怒ってきたので、私は普段レオナルドが私に言ってきた言葉を返しました。


「私がレオナルドではなく、ミリオーレさんばかりを見ているから嫉妬したのですか? 大丈夫ですよ、私とミリオーレさんとの間に何かがある訳ではありませんから、気にしないで下さい。」


 ミリオーレさんが呆然とした顔になりました。レオナルドの顔は視界に入らないので分かりませんが何も言ってきません。ミリオーレさんにはあの、ニヤリッ笑顔をして欲しいのに……あぁでも、この驚きと戸惑ったような顔も中々悪くありません。


「それに、“嫌がっているからやめろ”と言われましても困ります。だって私がデート中にミリオーレさんが来ないようにして欲しいとお願いをしても聞いてくれませんでしたよね? “気にするな”と言われただけでした。ならば私だってやめるつもりはありません。二人が私の事は気にしないでいればいいだけですよね。」


 そう言うと、ミリオーレさんは絶句して何とも言えない戸惑った顔をしたまま目を見開いて固まってしまいました。かちゃり、とミリオーレが手にしているフォークが皿と接触する音が響き、ミリオーレさんが食事中であったと思い出しました。


「ほら、ミリオーレさん。気にせずに食事を続けて下さい。」

「っ……、ア、アイネこそ、食べてないじゃない。」


 ミリオーレさんにそう言われて、私も食事中だという事を思い出しました。ミリオーレさんの顔を観察する事で頭が一杯で正直お腹は空いていません。しかし残すのは勿体ないと思いました。


 私は仕方なくミリオーレさんから視線を外して、手元にある食事を見ました。残りの量は多くない、ナイフを4回入れて口に運べば終わるだろうと予測出来ました。私は再びミリオーレさんの観察を始めました。手元を見ずに食べるのは初めてでしたが、うまくいきそうです。


「!?っひぃぃ…。」

「アイネっ!?」


 ガタンッ、と音を立ててミリオーレさんは席から立ち上がりました。レオナルドの声も聞こえますがどうでもいいです。ミリオーレさんの顔は私を見て怯えていて…なんだか、私はとっても気分が良くなりました―――。





◇◆◇


 あのレストランの食事から1ヶ月が経ちました。私は相変わらずレオナルドとミリオーレさんの三人でデートをしています。


 レストランで食事をした日から5日後、レオナルドとデートがあったのですがミリオーレさんが来なかったのです。


「アイネ、今までごめんね。もうミオは来ないから。」


 レオナルドにそう言われた時、ミリオーレさんが来ないなんてありえない、ミリオーレさんが居ないとつまらないと思いました。なのでレオナルドに、ミリオーレさんがいないのであればデートはしないし婚約破棄も考えると言いました。


 だって私は……ミリオーレさんの追い詰められた顔を見るのが何よりの楽しみとなったのです! ミリオーレさんに私を笑った事を指摘した時の少し焦った様子が楽しくて…。だからあの時、またニヤリッとした笑顔を見せてくれたらまた指摘をして、もっと焦ってくれるのではないかと思ったのです。


 最初は婚約者である私を蔑ろにする二人が許せないとしか思いませんでしたが、今は違います。何故かレオナルドは私と婚約破棄したくないみたいなのです。レオナルドはミリオーレさんの事を好きだと思うのですが…まぁ、理由なんてもうどうでも良いです。とにかく私はミリオーレさんにもっと会いたいのです。その為にレオナルドにミリオーレさんを説得するようにいいました。


 ですがミリオーレさんがもうデートに来る気がないとレオナルドが言いました。レオナルドは役に立ちそうになかったので、私が直接会いに行ってミリオーレさんを説得しました。


「ミリオーレさんが私達のデートに来ないのならば、私はレオナルドと婚約破棄したいと私の両親、レオナルドの両親、そしてミリオーレさんの両親に言います。そしてミリオーレさんがレオナルドと私のデートを邪魔する為に割り込んできた、と噂を広めますがよろしいですか?」


 そう言うとミリオーレさんは顔を真っ青にさせて、泣きそうなとてもいい顔をしながら説得に応じて下さいました。


 




 今も私の目の前には怯えたような、何とも言えない顔をしたミリオーレさんがいます。私はそんなミリオーレさんを観察する事が生き甲斐となってます!




 

 ふと思い立って書いてみた小説です。悪女、ライバル側の女は不敵な笑みをヒロインに向けること多いですが、正面からその顔を真似されたら結構嫌がるんじゃないかなと思いました。

 ずっと見られ続ける、というのはただ不快感があるだ

けでなく、恐怖心も湧いてくると思います。見られ続けて、観察され続ける…相手からは何も言われずに。

 この主人公は最後に、虐める側の快感に目覚めてしまった。私に嫌な想いをさせたんだから私が虐めてもいいよね? 的な感じです。賛否両論あると思いますが、主人公はそれだけ嫌な想いをしたという事です。自分は何もしていない、悪くないのに蔑ろにされるのは恋愛感情抜きにしても許せないと思います。


 もしかしたら、レオナルド視点とミリオーレ視点の短編も書くかもしれません。ミリオーレ視点だと後半はホラー小説かもしれませんね 笑


 お付き合い頂きありがとうございました!


※追記、婚約者視点の番外編が出来ました。広告下にリンク先を用意しました、もし宜しければどうぞ!


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― 新着の感想 ―
このまま結婚するのかしら? それはそれで主人公だけが楽しい地獄ですねw
[良い点] 予想外の展開で楽しかったです
[気になる点] ホラータグつけ忘れてますよー
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