キースとアベル
アルフォンスが帰ってくると思われた屋敷に訪れたのは、王都の治安を守る警ら隊だった。
「アルフォンス・レジェンドシーンの身柄は拘束された。罪状は王家を謀り、公爵夫妻への侮辱罪だ。王家からの指示である。アルフォンス・レジェンドシーンの部屋を改めさせてもらう。」
使用人達は呆然とした。
王家を謀った?
公爵夫妻を侮辱?
騒然とした屋敷の雰囲気を察したのだろう、双子がエントランスへと出てきた。
ドタドタと入ってきた警ら隊に顔を引き吊らせる双子。ヨハンは駆け寄り目線を合わせる。
「アベル、兄様が、どうしたの?」
ヴィンセントがまず頼ったのはアベルだった。しかし、言葉を続けたのはヨハン。
「詳しくは……、ただ、アルフォンス様は罪を犯し、拘束されたようです。王家の命に逆い、不敬罪を犯したようです。」
ヴィンセントは、すがり付いてくるヴィヴィアンの手をぎゅっと握った。
「至急、アーノルドに連絡して、何があったか調べるんだ。レジェンドシーン公爵家の嫡男である兄上を捕まえるなんて、許されることじゃない!」
ヨハンは凛々しいヴィンセントにうっとりする。
しかし、ヴィンセントが自室へ戻るために手を差し出したのはアベル。
「アベル……兄上が戻るまで側にいて……。」
しかし、彼が頼りにしているのが直ぐ側にいる自分ではなく、アベルやアーノルドであったことに苛ついた。
「では、ヨハンさん、アーノルドへの連絡を、」
「……承知致しました。」
この時、ヨハンはアーノルドへの連絡を怠った。
アルフォンスが公爵夫妻の血を引いていないなら、後継からも外されるはず。森で拾われてきたのなら、捨てられた孤児であり、平民である可能性が高い。純血こそ公爵家の後継となるべきだ。
何故、公爵夫妻があの出来損ないを嫡男に据えているのかは謎だが、公爵夫妻は慈悲深い方だ、ヴィンセントが成人となるまでの繋ぎとしたのではないか。
一人夢想するヨハンであった。
アルフォンスは、王城から出て、馬車に乗り、門から出た途端、周りを王城の警ら隊に囲まれた。
急停車した馬車に前のめりになったが、何とか姿勢を保った。従者兼、御者が何やら揉めていたため、どうするかと思っていた矢先に馬車の扉が開けられ伸びてきた屈強な腕に外へと引き摺り降ろされた。
のんびりした性格のアルフォンスもさすがに驚き、なすがまま地面に倒された。
「アルフォンス・レジェンドシーンだな。王家への侮辱罪、及び公爵夫妻への不敬罪にて逮捕状が出ている。立て!」
これまた強い力で立たされる。
「アルフォンス様!」
従者のキースがアルフォンスの前に出ようとするが阻まれる。彼は、アルフォンスの一つ上のアーノルドの息子で乳兄弟でもある。
「レジェンドシーン公爵家嫡男であるアルフォンス様に対して何たる仕打ちか!」
抗議するキースに警ら隊の隊長らしき男が鼻で笑う。
「王城内では、他の貴族方の目に触れるであろうと言う王家の方々の配慮だ。それに、これは、公爵夫妻の血など引いていないただの平民だ!」
警ら隊の鉄格子のある護送用の馬車にアルフォンスは入れられた。
キースはあまりの展開に唖然としたが、馬車に向かって叫んだ。
「アルフォンス様!待っていて下さい!これは、間違いだ!」
キースも警ら隊により、尻餅を付かされたが立ち上がり、公爵家へと馬車を走らせた。
屋敷内は騒然としていた。
「キース!兄上がっ!」
屋敷には警ら隊がズカズカと入り、アルフォンスの私物を運び出している。
「ヴィンセント様!」
アベルが警ら隊に噛みついているが、彼等は既に収監されているアルフォンスの刑は確定しており、苦情は受け付けないといた。
いきなりの刑確定にアベルも呆然となった。
「アベル!」
「キース、戻ったのか!アル様は!」
キースがアベルに状況を伝えた。
駆け寄ってきたヴィヴィアンを抱き上げるアベル。先程まで泣きそうだった双子の涙腺は崩壊していた。
キースを見るなり、アベルが警ら隊の対応をしているに託つけて側にいたヨハンの腕を振り払い駆け出した双子。信頼度の差である。
「ヨハン、何故、彼等に好き勝手させてる。」
低い声でヨハンに詰め寄るキース。アーノルドの息子と言うだけで、次期公爵家の家令は自分だとでも思っているのかとヨハンは年下のキースも毛嫌いしていた。
あの出来損ないを主と認めている時点でヨハンにとって、軽蔑対象である。
「罪状がハッキリしているんだ、止められる訳がない。」
「父への連絡は!」
「もちろん、済ませている。」
ヨハンがキースのことを嫌っているように、キースもヨハンのことが嫌いだ。
選民思想が強く、公爵夫妻から王都のタウンハウス以外に関わることを禁止されているのを都合よく考え、父であるアーノルドへの態度も悪い。
自分の思考だけで物事を捉えてばかりで、アルフォンスへの態度とヴィンセントやヴィヴィアンへの態度が明らかに違うことも嫌いな要因だ。
(後で、確認しよう……。)
キースはアベルと頷き合うと、大きくため息を吐いた。