婚約破棄
「そうですね……確かに、この世界での記憶は裏山からですね。」
大したことではないというようにアルフォンスは言った。
「!」
「本当か?それは……。」
ごくりと息を飲む生徒会メンバー。
「そうですねぇ、あの方々は、親と言うより、師匠的存在ですし、子供として育てて貰った記憶は希薄ですね。」
公爵夫妻の恩を仇で返すとはこのことだとメンバー達は憤る。
「直ぐ様、生徒会室から出よ!ミカエラとの婚約もなかったことだと心得よ!」
王子の声、蔑むような王女の目、公爵夫妻を気遣う声が飛び交う。
「えっ?じゃあお邪魔しました。」
生徒会室から出ていくアルフォンスの耳に声が聞こえる。
「直ぐに、父上と母上に伝えよ!あの男はやはり、森で拾われた公爵家の血など一滴も入っていない者だと!」
「ここまで育てて貰った恩を忘れ、公爵夫妻を貶すなど!夫妻がいないことで本性を現したのでしょう!」
扉は閉まり、歩き出したアルフォンスは笑っていた。
(好きなように、都合のよいように考える方達だ。)
教室に戻るとカインが心配そうな顔をして出迎えた。
「大丈夫か?」
アルフォンスはニッコリと笑う。
「カイン、これから、少し周辺が騒がしくなります。あなたにも迷惑が掛かるでしょう。」
静かに座るアルフォンスと眉間に皺を寄せているカイン。
「ど、どういうことだ?」
「退屈していたので、丁度良かった。」
「へっ?」
「まぁ、暫くカインとは会えなくなると思いますが、元気に過ごしたいので、弟達をよろしくお願いしますね。」
意味が分からぬまま承諾させられるカインであった。
「なんと!それは真か!」
国王は浮かしかけた体を再びソファに凭れさせた。
室内にいるのは国王、王妃、側妃、宰相、王太子。熱弁を振るうのはミカエル王子。母である側妃に体を預けて悲しい顔を浮かべているのはミカエラ王女だ。
「そうです!父上!あの男は自分の口で最初の記憶は森の中だと言いました!生徒会メンバーの誰しもが聞いています。そして、育てて貰っておきながら、公爵夫妻を親とは思っていないなど!だいだいおかしいと思っていたんです。あいつは、夫妻にまるで似てないですし、成績上位者でもない。」
怒りながら訴える王子に、
「公爵夫妻の御子だと思って我慢しておりました、あの方は、私に贈り物一つしてくれませんの、誕生日だって、祝って貰った覚えはありません!」
泣き声で訴える王女、そして、可哀想と抱き締める母。
「公爵夫妻の威光を嵩にきてるのです!王家を馬鹿にしておりますわ!何処の馬の骨とも知れぬのに!」
側妃が怒りの表情で訴える。いかにミカエラ王女が蔑ろにされてきたか、切々と語る側妃。つまりは、婚約を白紙にしてほしいのだと訴えた。
「我が国に必要なのは、公爵夫妻の血を魔力を受け継いだ者との縁にございます、陛下。」
宰相も後押しをする。
暫く唸っていた国王はチラリと正妃、王太子を見た。
彼等は沈黙している。王太子に至っては目を瞑った状態だ。
「よかろう、ミカエラとアルフォンス・レジェンドシーン公爵令息との婚約は破棄とする。」
側妃と王女が抱き合い、ミカエル王子が小さくガッツする。
「公爵夫妻には、今年5歳になる子息がいただろう、まだ、相手は居なかっただろう、レティシアとの婚約を打診せよ。」
3年前生まれた正妃の姫の名前が出た。そのことに側妃が慌てた。
「陛下、それなら、ミカエラと公爵夫妻の双子の兄との婚約を……。」
「何を言っておる。ただでさえ嫡男よりミカエラの方が年上なのだぞ、10歳の子供には負担だろう。宰相、ミカエラの相手を至急探せ、国外の同盟国へ打診を。」
呆然とする側妃達を他所に話は進んでいった。
「私達を仲間はずれにするなんて、酷いわ。」
あの後、側妃と双子は自身の宮へと帰された。
「公爵夫妻の末っ子とカルディナ様の姫が婚姻だなんて!」
側妃ユーコリは歯痒そうな表情を隠さない。
「ごめんなさい、お母様。私がもっと早く、あの男の正体を暴いていれば、」
ミカエラが母に侘びる。
「いいのよ、そもそも、あの婚姻を言い出したのはカルディナ様なのだから、きっと、カルディナ様は令息の正体を知っていて陛下に勧めてきたに違いないわ、いずれ私達が気付いて、婚約の白紙を求めてくることだって想定していたに違いないもの!その次の手を考えてなかったわ。でも、出来損ないよりは、良い相手を陛下は見つけてくれるはずよ、」
鼻息の洗い側妃達だった。