カイン
「良く分かったね。」
ニコニコと微笑むアルフォンスにカインは呆れた。
しかし、何故とは聞かなかった。
面白いと思ったからだ。
「面白いな、アルといると飽きないし、楽でいい。」
アルの目の前で本を枕にカインは頭を伏せる。
「働かざる者、食うべからず。カイン、次の数学、当たるから真面目に。」
勢い良く頭を上げる。
「まじ!アル、ドコ?」
アルフォンスは教え方が上手い。けれど決して答えをそのまま教えることはしない。
カインは、アルフォンスと言う家庭教師を得て、成績を上げていった。
カイン・アスベル伯爵令息は、自分と言う者をよく理解している。やればできるタイプだが、兄より目立ってはならないと常日頃から思っていること。テストは程々の成績を修めていれば家族は納得してくれる。なまじ兄より剣術に長けていたのがいけなかった。兄弟での模擬試合中に、思わず本気になってしまったのがダメだった。貴族特有のプライドの高さを持つ兄はカインより背が低く、其ほど見た目も良くないとの評判で、
成績は上の下を何とかキープしている状態だ。
騎士団の参謀本部に勤める父親は兄の性格もカインの性格も良く理解しており、二人に合った褒め方、叱り方をする。しかし、母親は違う。彼女は、嫡男こそ全て。カインはオマケ、スペアに過ぎないと兄とかなりの差を付けている。夫である伯爵に注意されても何処吹く風。
家に居ないことの多い父親よりも家庭で母から、ネグレスト的扱いを受けていたカインは色々拗らせたまま学園に入った。母親からは、『お前は成人後に伯爵家を出る人間だ、旦那様の持つ爵位は全て兄のもの。貴族で居たければ実力で爵位を取りなさい。』と言われ続けた。母親の言うように貴族位を得るために頑張るなんて馬鹿馬鹿しい。平民でよい。カインはそう思って勉強はサボった。
剣術など体を動かすことはストレス発散にもなったから続けたが、兄以上の実力を発揮することは母親と兄、そして、母方の親族から非難されるだけのため、試験の時は手を抜くようになった。
そんなある日、母親とそして、父親からもアルフォンス・レジェンドシーン公爵子息との縁を繋げと命令が来た。公爵家の嫡男なら兄が相手するべきでは?と尋ねると母親が大きなため息を吐いた。
「全く、お前は知らないの?レジェンドシーン公爵の嫡男が出来損ないだと言うことを、」
母親の言葉に父親が不敬だと注意する。
「あら、あなた、あなただって、ご存知でしょう!あの子息が我が国の剣と盾とまで呼ばれる公爵夫妻が何処かで拾ってきた戦災孤児だと言うことを!子供がなかなか出来ない夫妻が、」
「それ以上は、口を慎め。」
戦災孤児。
「夫妻には、その麗しい見た目を受け継いだ双子の御子様と乳幼児がおりますのよ!彼等が成人すればきっと、家督は長男から移されます。そのような男児にノインが関わる必要はありません!」
母親のヒステリックな物言いに父親はため息を吐いた。
「カイン、公爵令息は穏やかな気質の御子だ、色々な噂はあるが公爵夫妻が大切に思っておられるのは間違いない。交流を深めていて損はない。」
母親はともかく、父親の言葉は素直に聞くカインは、件の令息に接触し、理由も隠さずに述べた。
「君、面白いね。」
穏やかに笑う奴だとカインは思った。それから、色々あって公爵邸へ招かれたりするほどになっていた。
母親は、公爵夫妻とは会ったのか、公爵夫人からのお茶会への招待とかは受けてないのかなど色々詮索されたが何のことか等とはぐらかした。
「どうして、父上は、あの女とって時々思うよ、政略って怖いね……。その点では次男で良かったと思えるかな。」
いずれ家を出る。
尊敬する父親との関係はともかく、母親と兄、二人とは縁を切りたいカインであった。