鉄の玉座
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アナスタシアはエースとの決戦に敗れ、地下監獄に入れられていた。
永遠とも言える拷問が続くある日、アナスタシアの元にエースが訪れた。
エースは何も言わずに拘束されたアナスタシアをじっと見つめる。
「その剣は……あぁ、あの男の剣か」
アナスタシアはエースの腰に携えられた《ユグドラシルの聖剣》を見てそう言う。
「あいつは確かに強かった……お前が受け継いだのか」
「あの女も強かったな……すばしっこくて、やりにくかった……」
アナスタシアは思い出に浸るようにそう言う。
「ただ、詰めが甘かったな……道の支配者たるお前がヘマをこいて、そのせいであいつらは死んだ」
その言葉にエースは激昂する。
思い切り檻を殴り、腰に携えた剣を抜いてアナスタシアに向ける。
「黙れ、お前は俺の質問に答えればいいだけだ」
「はいはい」
アナスタシアは落ち着いた様子で受け答えする。
「歴史の真実を話せ。ルイスの民とアナスタシアの民の関係を……」
「あーそれか、もう何回も尋問されてるよ」
アナスタシアは少し俯いた後、憎たらしい程の笑顔で、絶対に言わないと言った。
「俺は死んでも絶対に記憶を開かない……お前らは俺を殺せやしない……!」
「ほんと面白れぇよな、俺って。こんな牢獄で拘束されてても殺されねぇんだから」
エースは静かに牢の扉を開けて、剣を持ったままアナスタシアの元に近づく。
エースがアナスタシアの前に立ったその瞬間、アナスタシアの右肩から細い触手が勢いよく放たれた。
エースはそれを見切った様子で避ける。
その触手は細くて弱々しく、萎れそうなものだった。
「くそ……!一ヶ月は力を溜めてたのに……」
「この手錠のせいで……!」
アナスタシアは激しく暴れて、固定された手錠を軋ませる。
アナスタシアに使われてる手錠は《太陽の血》で出来ており、力の発動を抑える効力がある。
エースは床に落ちた触手を手に取り、アナスタシアの横腹にゆっくりと差し込む。
「調子に乗るなよ、何が俺は殺せないって?今ここで殺してやろうか?」
刺さった触手を抉るように抜き取った後、エースは部屋を後にした。
「クソ……! クソ……! クソ!!」
「舐めやがって……俺は世界の王だぞ……あいつより……あいつより……!!」
激しく取り乱して嘆くアナスタシアの牢の前に、携えられた蝋燭の明かりを遮る影が現れた。
「誰だお前は……!」
アナスタシアはその影の主に叫ぶ。
影の主はこう名乗った。
「タナトス」




