解放
「イブ……俺に全てを委ねろ」
エースはそう言い、イブに右手を差し出す。
『私はあなたを望まない』
イブはそう言い、エースを突き放した。
強制的に魂の終着点が閉ざされ、3人は現実世界へと戻される。
崩壊は既に始まっていた。
爆誕する生命の樹。それを根幹とした殺戮が始まっている。
「イブ……なぜ俺を拒む……」
その時、エースは自身の身体に違和感を覚える。宇宙空間にも近い、大気圏付近にて身体が以上に軽い。
まるで綿のような軽さだ。
「これは……」
直後、目の前にイブが現れた。
イブはこちらに右手を向け、何かを唱える。
すると、イブの後ろから光が加速し、エースはその光に包まれる。
「なんだこの感覚は……覚醒でもない……」
「まさか……力の解放?!」
エースはこの時、イブの介入によって道の力を解放した。
魂の終着点にて、道の力を表す柱が無限に伸びていく。
加速する光に包まれ、視界が真っ白になった。次に目を開けると、そこは森の中だった。
何処からか木こりの音が聞こえる。
「ここは……」
記憶の世界だろうか。
そう思ったが、どうやら違うようだ。
記憶にしては鮮明すぎる。
人は多くの情報を記憶することはできない。
なのに、草木の自然な動き、雲の動き、全て が現実味を帯びている。
「ならここは何処なんだ……」
エースが力を発動させようとするが、力が発動しない。やはりここは記憶の世界じゃない。
エースが辺りを見回し、後ろを振り返ると思わず腰を抜かしてしまう。
そこにあったのは、巨大樹……《生命の樹》であった。
「……な」
目の前の景色に絶句するエースに声をかける者がいた。子供が2人……。片方は見覚えがある。
「君、もしかして人間かい?僕たちと同じ」
男は興味津々の様子でエースに話しかけた。
「この世界には僕たちしかいないと思ってたよ」
誰だこの子供たちは……僕たちしかいない?
まさか、人類の祖先……。
「僕はアダム、こっちはイブ、よろしく」
それを聞いたエースは唖然とした。
まさか、ここは記憶の世界ではなく過去の世界……。
「そんなことが……」
「君たちはここで何をしてるんだ……?」
エースの問いにアダムは手に持っている斧を示して、
「木こりだよ、燃料になるから」
そう答える。
直後、エースが激しい頭痛に襲われる。
頭の中にぼんやりと景色が浮かぶ。
アダムとイブが生命の樹を切り倒してる様子……その木から子供達が……。
(エース、未来の君に記憶を送るよ。これが世界の、13の力の始まりだ)
それは道の声だった。
死んだ道の声から送られてきたものだった。
「お前らはこの木を切るのか……?」
エースは生命の樹を指差してそういう。
「え……?あぁ、切ろうと思ってたんだけど流石にこの木は大きすぎるし、君もいるんだし、僕たちの家を紹介するよ」
アダムはそう答える。
どういうことだ。
(木を切らない?そもそもこのサイズの木がこの子供達に切れるのか?俺がいるからって……まさか?!俺のせいで過去が変わってしまう……!)
「駄目だアダム! この木は絶対に切るんだ!」
エースはアダムの肩をがっちりと掴み、アダムにそう言う。
「えっえ?!無理だよあんな木を切り倒せる斧なんて……」
「ならお前の力を使え! 念じるんだ、どんなものでも切り倒せる斧がほしいって!」
エースは叫んだ。
イブの呪いがまだないこの世界ならそんな 無茶苦茶な概念だって作り出せるはずだ。
直後、アダムの手の中に巨大な斧ができた。
何処かで見たことがある、誰かが使っていたような斧。
しかし、エースはそんなことを考える余裕もなく、アダムに木を切るように言う。
「無理だよ!こんな重い斧僕じゃ振れない!」
「なら俺に貸せ!」
エースはアダムから斧を奪い、思い切り生命の樹に向かって斧を振るった。
巨大樹は一振りで吹き飛び、木の幹から光の柱が立ち、11人の子供が産まれた。
「はぁはぁ……これで過去は……」
その時、エースはあることに気づく。
本来過去に存在しないエース自身によって この木を切ったことこそが過去への介入になるのではないか。
道の力の本来の能力は過去への介入であり、エースが今、力の解放によって介入可能な状態になっているのではないか。
もしかしたらこの後アダム達は自分で木を切ったかもしれない。
これによって未来が変わったら……
怖くなったエースは斧を投げ捨て、何処かへと消えていった。




