咆哮
直後、タナトスの意識は現実へと戻った。
鮮明に浮かぶニーナの悲しい顔。
それが彼を奮い立たせた。
《悪魔の叫び》と言えるものだろう。
天へと己の怒りを、心を叫んだ。
体は血肉を纏い、姿は人ではない何かに変わっていく。
「ママ……、ママとニーナは東洋人じゃない! 俺達と同じ西洋人だ……!」
目から溢れる涙を拭いながらタナトスは空を見上げるママに言う。
何故こんなことをしたのかと、ママは何がしたかったのかと。
「全部、頭に流れてくる……記憶だ! ニーナの記憶が……少しだけ……!」
タナトスは完全に《悪魔の姿》に変わって いた。しかし、その目から涙は消えていない。
ただ、タナトスを見つめるママに、タナトスは問いかける。
何故、ニーナに力を託したのか、と。
「……全ては、この時の為……誰かが破壊しなければならなかった……」
「もうすぐ、鍵がここに現れる……終焉の音色を奏でる為の……」
ママは無情にそう言い、両手を広げる。
タナトスはママの胸を裂き切った。
そして、《魂》を吸収した。
直後、再び何かが流れ込む感覚に襲われる。
力……さっきと同じ感覚。
「ママも……力を持っていた……。《概念創造の力》……!」
タナトスは暴虐を尽くした。
地表は赤く染まり、屍の山が立つ。
その時、空から光が差し、白い髪の女と、フードを被った男が現れる。
女は背中に2人、子供を背負っている。
急接近してくる2人にタナトスが攻撃を仕掛けようとした時、男が右手をタナトスに向ける。
直後、男の背後から光が加速し、世界が闇に包まれていく。
タナトスは砂浜の上にいた。
さっきと同じ場所だ。
目の前には女と男がいる。
「ここで決着をつけよう」
男はフードを深く被り、そう言う。
決着……?タナトスは疑問に思った。
しかし、すぐに理解する。
自分が悪魔であること、男達は正義のヒーローであること。
「あぁ、いいだろう」
大勢殺した。
あの場にいた奴全員殺した。
偉そうな格好した奴も、タナトスを止めに来た翼を生やした奴らも。
そいつらを殺したときに、再び体に力が流れてくる感覚に襲われた。
これで終わりだ。
女とタナトスの拳が接触する寸前、世界が大きく揺れた。水の上に浮かぶいくつもの柱が発光する。あまりの揺れに全員倒れ込んでしまう。タナトスが上を見上げると、男が天井を見つめていた。
「これで、良かったのかな……」
直後、意識が現実に戻る。
タナトス達の遥か上に、何かが生まれていた。その瞬間、その何かを中心に大爆発が起きた。
タナトスは翼を広げ、遥か遠くへ逃げた。
しかし、どこまで逃げても爆発が追ってくる。タナトスはその内、《雲の上》へと逃げついていた。そこでタナトスは願った。
『どうか殺さないでください』と。
すると、寸前まで迫っていた爆風がどこかへ消えてしまった。驚いたタナトスが雲の端から下を見ると、そこに地表はなく、無限に続く空があるだけだった。
「なんだこれ、どうなってんだ……」
タナトスの願いが叶い、世界は形を変えたと言うのだろうか。明確に言えば、この時、《雲の上の世界》……後の《天界》は現実空間とは別の空間へと転送された。
それはタナトスの持つ、概念創造の力によるものだ。言うなれば、天界はタナトスに呪われた。
そこでタナトスの記憶は途絶えた。




