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ANIMA  作者: パンナコッタ
変わりゆく世界と新たな正義との出会い
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粘り着く薄汚い正義

 それからも、そんなウリエルの生活は続いていった。

  毎日のように何時間も勉強を強いられ、学校の勉強も程々に、いわば【アナスタシア教】と言われるものの勉強には力を入れているようだった。

 エースは毎日ただ、それを見つめているだけだった。


「これじゃまるで……」



「洗脳だな」


 その後、ウリエルが10歳を迎えた時、天界政府への加入審査に受かり、ウリエルは晴れて天界政府仮員にまでなった。


「それじゃ、行ってくるよ父さん母さん」


 ウリエルはこれから、天界政府で暮らすことになる。

 ウリエルは父と母に別れを告げ、家を出ていく。

 両親はたいそう嬉しいだろうな、息子がここまで成長したのだから。

 

 しかし、実際ウリエルの精神は非常に不安定なものだった。

 ウリエル自身は、ルイスの血族に恨みなど微塵もない。

 ただ親の言うことを復唱しているだけだ。

 しかし、何も無いウリエルにとってそれはもはや自分の正義となっていた。

 精神が不安定な状態で、自身の意思もなく生きることはただただ苦痛であった。

 人は誰かを悪魔と罵り、虐げることで自身と自身の正義を形を保って生きている。

 ウリエルの中にあるのは、親から押し付けられた偽物の正義であった。


「はぁ……今日からか」


 ウリエルは巨大な宮殿を見て、ため息を着く。

 中に入ると、豪華な装飾や、華やかな格好をした人々が紅茶を楽しんでいた。


「ここが……天界政府」


「面接の時も思ったけどやっぱり凄いや……」


 ウリエルは集合場所として知らされていた部屋に向かうために巨大な廊下を通っていた。

 そこには大勢人がいたのだが、急に人々が慌てて廊下の端による。

 何事かと思い奥を見ると、奥からはそれはそれは豪華に着飾った10人ほどの行列がこちらに歩いてきていたのだ。

 ウリエルも咄嗟に廊下の端に寄る。


 エースはその集団に覚えがあった。

 先頭にいるのはゼウス、後ろを歩く者たちも旧政府の壁画で見た事があった。

 そしてゼウスの少し後ろを歩いているのはメアリーだった。


 メアリーを見たウリエルは体が硬直する。

 父親が嫌という程言っていたことを思い出す。


「この天界で最も狂っていることはあの女、メアリーとかいう銀髪の女が最高幹部であることだ。あの女はルイスの純血だぞ? こんなことが許されてはならない。お前がその座を奪うんだ」


 ウリエルは無意識に腰の剣に手を置く。

 それに気づいたゼウスが行列を止めさせる。


「貴様、何をしている?」


 ゼウスがウリエルにそう問う。

 ウリエルは固まっていて何も喋らない。

 メアリーは心配そうな顔をしてウリエルのことを見ている。


「…… 」


 ウリエルはただ黙っているだけだった。

 その後、行列は再び歩き出し、ウリエルの横を歩いていった。

 ウリエルはその後集合も忘れ、外の巨大庭園のベンチに座り込んでいた。


「クソ……! クソ! 何がルイスの血族だよ! 僕は別にそんなもの憎んでない! それは僕の正義じゃない! 僕は……僕は……」


 泣き叫ぶウリエルの隣に誰かが座り込む。


「隣、いいかな?」


 メアリーだった。

 ウリエルは体が凍りつくが、何とか口を動かし、小さく返事をする。


「ありがとう、君さっきの子でしょ?」


 メアリーは笑顔でそう聞く。


「さっきはどうしたの?」


 その問いに、ウリエルは言葉を詰まらせる。

 ルイスの純血であるメアリーを見て、咄嗟に殺そうと思った、そんなこと本人に言えるわけが無い。

 ウリエルは完全な【アナスタシア至上主義】ではない。

 親からの洗脳により、根本的な部分にその思考を植え付けられているだけだ。


「えっと……その……」


 エースはウリエルが話を濁すと思っていた。

 しかし、ウリエルは正直に打ち明けたのだ。

 さっきあなたを無意識に殺そうとした、と。


「そう……」


「両親は……どんな人なの?」


 メアリーが少し辛そうな顔でそう聞く。

 分かっているのだろう。アナスタシア至上主義の両親を持った子供であるということが。

 メアリーが分かるほどまでにウリエルからは異常なオーラが漂っていた。


 ウリエルはその問いに涙を零す。

 辛い過去が蘇ったのだろう。

 横で見ていたエースの目元にも涙がにじみ出る。


「“俺の”親はクソだった。あんたらを悪だと決めつけて俺に殺すように言った」


 そう呟いたのは“エース”だった。

 その後、ウリエルも同じ旨のことをメアリーに話した。


「そう……あなたは、ルイスの血族が憎いの?」


 メアリーの問いに、ウリエルははっきりと答える。


「憎くない……憎くなんかない……! 誰も殺したくない……!」


 ウリエルの悲痛の叫びを聞いて、メアリーは泣き出すウリエルの背中をさする。


「君は優しいよ、君は君でいいんだよ」


 ウリエルはその言葉に涙が止まらなかった。

 横でエースも泣き崩れた。


「俺は、俺はメアリーを救うんだ……! この誰よりも優しい少女を……!」


 それから、数年が経った。

 ウリエルは最高幹部にまで上り詰め、九魂神の力を手に入れた。


 その力の名は【ユースティティアの眼】だ。

 ウリエルは最後までその力を発動させることは無かったが、その力の能力は力を発動させた状態で相手を見ることにより、相手の精神を破壊するというなんとも恐ろしいものだ。

 これを最後までウリエルが発動しなかったのは、精神を壊される恐ろしさを知っていたからだろうか。ウリエルは頑なにその力を発動しなかった。


 その代わりに、ウリエルは神器を中心として戦った。ウリエルに与えられた神器の名は【レムレースの玉剣】であった。

 剣の覚醒により、刀身が伸び、実態の無くなった刃で相手を切りつける戦い方を好んでいた。


「ウリエル良かったね! 最高幹部になれて」


「ああ、ありがとうメアリー。君のおかげだよ」


 ウリエルは巨大庭園のベンチで、メアリーとお昼ご飯を食べていた。

 エースもその横のベンチに座り込む。


「そんなことないよ、ウリエルの頑張りの賜物だよ」


 メアリーはウリエルにサンドイッチを渡しながらそう言う。

 あの日、ウリエルが全てをメアリーに打ち明けて以降、メアリーはウリエルのことを気遣ってくれるようになった。


 しばらくするとウリエルは自身の夢ができたとメアリーに話し、メアリーはそれを全力で応援すると言った。

 その夢というのが、“天界の秩序と民の幸せを守ること”らしい。


 俺は一瞬でそれが嘘だと分かった。

 ウリエルは嘘をついている。

 ウリエルは、今も自身の中に粘り着く薄汚い正義に心を蝕まれ続けている。


「このままじゃ、精神が崩壊しちまうぞウリエル」


 エースは小さくそう呟く。

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