絶望、その先に見えるものは
エースは無数に体を取り囲む白い人間たちに体を押しつぶされながら、天へと向かう。
「メアリー!」
エースの中に仲間を、大切なものを失うというトラウマが湧き上がってくる。
2人に誓ったんだ、もう何も失いたくない!
エースの腹から無数の触手が現れ、メアリーをタナトスの元まで運ぼうとする白い人間に向かって触手による連撃を構える。
触手は一点に集まり、加速する。
「うおおおおおおお!!!」
エースの蒼い目に、ガブリエルとミカエルの姿が映る。
2人の意志を!2人の願いを!
俺が成し遂げる!!
触手が白い人間まで迫った瞬間、タナトスが投げた槍が触手の纏まった一点を貫き、エースの腹を貫いた。
「あっ……」
エースの口から血が飛び出る。
槍は先端から無数の黒い触手を吐き出し、地面と結合し、エースを空中で捕える。
「フゥ……やはりお前はこの女のこととなると理性が失われるな」
タナトスは投てきフォームから戻り、エースの元へと近づく。
「それとも、何かがお前にそうさせているのか? 例えば……誰かの意思がーー」
俺はタナトスの言葉を無視して腹に刺さった槍を抜こうとする。
「無駄だ、それはお前らの言う太陽の血のような成分が含まれている、体を再生することも、力を行使して破壊することも出来ない」
お前の負けだ、と言いたげなタナトスの視線が俺により一層の焦りを与える。
肌で感じる死の予感、それ以上の何かが俺の事を襲っている。
その時、世界が光に包まれた。
後光が差し、頬に手の感触を感じる。
俺が後ろを見ようとすると、その手は俺のことを包み込み、光に包まれた顔が俺の右に現れる。
その顔はどこかあどけない、少女のものだった。
「お願い、貴方にしかみんなを守れないの、世界を、みんなを守って」
俺にはその声がミカエルの声に聞こえた。
そして俺の目には白い人間に捕らえられたメアリーの顔が映る。
俺は、俺は戦うんだ。
もうこんなことはやめだ。
もう挫けない、もう諦めない、
「メアリーを……返せ!」
俺の目には闘志の色が浮かぶ。
2本の剣は強力な黒い霧を纏い、俺の背後からは光が加速し、重低音が響く。
その風圧に、白い人間は吹き飛ばされメアリーは宙に舞う。
『戦え! 戦うんだ!』
俺は自分を鼓舞するように叫ぶ。
鼓膜が敗れるほどの重低音が響き渡り、
腹に刺さった槍は、消し炭となり消えていく。
腹の傷は再生し、体は軽くなる。
『メアリー! 君を守ってみせる!』
俺は歯を食いしばり、大きく口を開ける。
『タナトス! お前なんか死んじまえ!』
そう叫び、斬りかかろうとした瞬間、青い水晶体が現れ、俺の体に青い雷を放つ。
俺は意識が飛ぶ様な感覚と共に体から力が抜けていく。
その時、タナトスがこちらに右手を向け、黒と赤に包まれた何かを放ってきた。
その何かが俺に直撃する寸前、誰かが俺の前に立った。
俺の前に立ち、身代わりなったのはメアリーだった。黒と赤の何かはメアリーの体を包み込み、メアリーの背中に黒と赤の十字架の形が形成されていく。
「あ……」
俺の喉から掠れた声が漏れる。
十字架は宙に固定され、次の瞬間に爆音とともに空へと打ち上がった。
「は……」
俺の目から完全に闘志が消えた。
俺は何を……メアリーが、メアリーが、メアリーが
そんな、嫌だ、嫌だ、嫌だ……
死んだ……死んだ……死んだ……
「クソ……身代わりになりやがったか……」
タナトスは顔を歪ませてそう言う。
まただ、また大切な人を失った。
俺は、俺は、俺は、一体何を……
感情で動いて道の力を発動させて、青い水晶体に体を焼かれて、俺は大切な人を身代わりにさせた。
そんな、そんなのって……
「ごめーー」
天へと上がる十字架に伸ばした手を、タナトスが放った槍が貫いた。
その槍は胸まで貫き、俺の魂の真下を貫いた。
奴はまた槍を……
でも、もう何もないんだ。
俺にはもう何もない……
ここで命を絶って俺はもう……
俺の意識は消えていった。
体は塵となり、消えていく。
魂はどこかへと飛んでいく。
次に目を覚ました時、俺は焼き焦げて更地となった森の前に君臨する召喚門の前にいた。
「あ……そうか、俺は1回だけ死ねたんだっけ」
頬を涙が伝う。
でも、もう戦う気にはならない。
もう、何も、何もないんだ。
何が楽園だ、何が、何が意思を継ぐだ。
馬鹿馬鹿しい、
俺には何も出来なかった。
ずっと、ずっと何も、
あぁそうか、俺はもとから何も出来ないんだ。
だから、仕方なかったんだ。
俺のせいじゃない、いきなり、こんなことになって……
【天界】だとか、【ルイスの血】だとか、
俺には荷が重すぎたんだ。




