平和の女神
それから数年が経った。
あの日、楽園の創造をルイスに誓ったエースは民に新都市【パラディリーズ帝国】の建造を発表した。
【パラディリーズ帝国】とは、帝国とは言うものの城下都市【ルネサンス区】同様に天界政府の管理下に置かれている。
エースの声掛けにより、天界に存在する多くの工業や職人が集まり、天界一の都市となった。
エースはヘラクレスとメアリーと共に【パラディリーズ帝国】に訪れていた。
「やっと完成したな、パラディリーズ帝国」
エースは街の中心部にある巨大な木のような形をした工場を見つめる。
街には多くの花や木が生えていて、“本当の楽園”のようだ。
「これが……楽園」
ヘラクレスは息を呑む。
眼前に広がるあまりにも美しい街に言葉が出ないのだ。
「あぁ、いい出来だ……」
エースはそう言う。
目には薄らと涙が浮かんでいる。
それを見てメアリーが、
「良かったね、ルイスの意思が継げて」
エースの顔を覗き込むようにそう言う。
エースはメアリーの笑顔を見てにこりと笑う。
「あぁ……ただ、まだ終わっちゃいない」
エースは後ろを振り返る。
「ルイスの意思は苦しみの無い楽園の創造だ……俺はこの天界を守り続けなきゃいけない」
エースは眼前に広がる巨大な像を指さす。
「それはルイスの意思でもあり、“俺の意思”でもある」
俺の意思……意思とは見たもの、聞いたもの、感じたものによって生まれるもの……
ならエースの言うルイスの意思でもあり、
俺の意思でもあるというのはエースがルイスの記憶を見て、
ルイスと同じものを聞いて感じたから、彼の意思ともなった……そういう事だろう。
エースが指を指した像をメアリーとヘラクレスが見上げる。
エースは蒼い瞳を輝かせて、
「この像……ルイスの像は……この世界の平和を表している……と俺は思っている」
そう言う。
「そうね、ルイスが私たちを見守ってくれている」
メアリーは風に吹かれた髪を抑えながらそう言う。
「あぁ、まさに“平和の女神”だな」
ヘラクレスは腰に手を当ててそう言う。
エースは腕をそっと下ろす。
「いいな……平和の女神……か」
エースは何かを見つめるようなそんな眼をしていた。
ルイスと同じ蒼い瞳で、エースはいったい何を見ていたのだろうか……
看守は思い切り檻に蹴りを入れる。
「どうだこの檻ん中の居心地はいいか? ディトル」
看守は檻に手をかけて檻の中でいくつもの拘束具を付けられたディトルを煽るようにそう言う。
ディトルはただ、看守の顔を睨むだけだった。
「それじゃあな、また1ヶ月後にくるよ」
看守はそう言い、檻の鍵を指で回してわざと見せるようにしてそのまま去っていった。
「くそ……アナスタシア様の……意思を! 悪魔どもめ……」
その時、突如ディトルの檻に巨大な影が刺す。
ディトルは静かに上を見上げる。
「なっ……お前は……」
ディトルの前には異形の何か……
エースがルイスの記憶で見たあの頭が巨大で胴体の小さい異形の生物がいた。
「よぉ、あんた俺の意思を継ぐ者か?」
異形の何かはそう言った。
「は……? 俺はアナスタシア様の意思を継ぐ者だ……」
ディトルは掠れた声でそう言う。
「……アナスタシアは俺の意思を継いだ者だ」
異形の何かはそう言う。
「あんたの意思を……」
ディトルは唖然とした顔でそう呟く。
「そうだ、もっと言えばあいつに“破壊の力”を与えたのはこの俺だ」
異形の何かはそう言う。
「あんたが……! アナスタシア様に……」
「あんたは……あんた名前は……!」
ディトルは声を荒げてそう言う。
「俺は……タナトスだ」
異形の何かはそう名乗った。




