僕らにとっての楽園を
ルイスは天界の中央を目指した。
アナスタシアの元を……
空から見るとそこでは戦火が上がり、多くの者の亡骸が転がっていた。
「酷い……」
ルイスはその惨状に言葉を詰まらせる。
その時、下の方で1人の女性に手をかけようとしている者を見つけた。
ルイスは急降下し、その者に斬りかかる。
その者は間一髪で攻撃を交わした。
その者はアナスタシアだった。
「くっ……まさかここにきていたとはな、ルイス」
アナスタシアは腰の剣を抜いてそう言う。
「アナスタシア……」
ルイスも剣を構える。
「お前は悪魔どもの始祖だ。俺が始末してやる」
アナスタシアはそう言い、斬りかかる。
2人は激しい攻防戦をする。
「どうだ! こんなものかルイス!」
ルイスはかなり押されていた。
人界で老衰によって死んだことが原因だろうか……
思うように体に力が入らない。
「なぜあなたは……人を支配するのですか……!」
ルイスが剣を交えながらそう言う.
「決まっているだろう! 全ては“使命”のためだ!」
アナスタシアはそう言い返して剣を振り続ける。
アナスタシアの大振りの一撃がルイスの腹を裂く。
「くっ……」
ルイスは剣を杖代わりにし、腹に手を当てながらなんとか立っている。
「あなたは……あなたはどうして……」
“どうして人を愛せないのですか?”
ルイスがそう言った。
その時、ルイスの頭の中に誰かの声が流れた。
“誰か”ではない。
それはルイスの声だった。
ルイスの頭の上に天使の輪が浮かぶ。
光の柱のような何かに撃たれてルイスは力を覚醒させた。
ルイスの羽は光を纏って巨大化し、体は宙に浮く。
空からは後光が差し、その姿はまるで……
「……神だ」
倒れ込んでいた1人の兵士がそう呟いた。
ルイスがアナスタシアに左手を向けると、
炎、氷、雷……いくつもの“物質”がルイスの周りに縁をを組むように現れた。
物質の創造……
触手などの簡素な物ではなく、明確なもの……
そのいくつもの物質はルイスの合図でアナスタシアに向けて放たれた。
無数の攻撃をアナスタシアはその身に受ける。
「なんだ……! これは……」
煙が舞う中、アナスタシアは上を向いた。
そこに輝く光に……目を向けた。
ルイスは剣を左手に添え、構えている。
剣の先に光が集まり、エネルギーが凝縮される。
次の瞬間、
一撃
剣より放たれた斬撃がアナスタシアの腹を思い切り貫いた。
アナスタシアはあまりの速度に反応できず、ただ痛みに声を荒げることしかできない。
アナスタシアは恐怖に満ちた顔で地を蹴り、ルイスに右手を向けた。
『破壊の力』を発動させて攻撃をするつもりだ。
対抗するようにルイスも剣を振る。
剣と手は激しくぶつかる。
普通ならば剣が粉々に砕けるはずだ。
しかし、剣は光を纏い、破壊の力が通用しない。
「なっ……!」
アナスタシアはそのまま地面に叩き落とされる。
アナスタシアが空を見上げるとそこには後光が差し、顔が影で覆われた圧倒的な……
その姿にはアナスタシアでさえ、神の片鱗を感じた。
アナスタシアは持てる全てを出し切る。
地面に力を発動して煙を立たせて、ルイスの目から姿を消す。
そして横からの……
意識外からの一撃。
これがルイスの腹に刺さった。
ルイスは力の覚醒が止まり、アナスタシアと共に地面に叩き落とされる。
「これで……終わりだ……!」
アナスタシアはそう言い、ルイスの胸に剣を差し込む。
「いや……!」
アナスタシアがルイスの魂を吸収する、
その瞬間、
ルイスの頭の中に呪いの言葉が浮かんだ。
ルイスはその言葉を放ち、アナスタシアの胸に呪いを放つ。
アナスタシアの胸から紅い紋章が浮かび、体の隅積みまで紋章が広がる。
「なんだこれは……!」
アナスタシアは声を荒げた。
ルイスは力任せに馬乗りになっているアナスタシアを退けようとする。
しかし、胸に刺さった剣が邪魔でうまく動けない。
アナスタシアは頭を抱えて発狂する。
その時、視界に映ったもの、
重症のルイスの民を解放する自身の子孫……
ふざけるな
何をしてる
そいつらを
殺せ
アナスタシアは自身の左目を指で潰して呪いの痛みを目に響く痛みで緩和する。
そしてルイスの胸に手をかけて魂を吸収する。
「記憶はそこで終わっている……」
エースはそう言った。
「なんてことだ……」
ヘラクレスは唖然としてそう言う。
「あぁ、まさかこんなことがあるなんてな……」
エースはその時、自身の胸の内を明かすことを決意した。
「2人とも……聞いてくれ。俺はルイスの意思も尊重してやりたい……あいつの夢……楽園を作りたいんだ……」
エースはそう言った。
「楽園……か」
ヘラクレスは顎に手を当てて考え込む。
「いいんじゃないか……争いの種はもういない……平和な世界を作ろう」
ヘラクレスはそう言った。
「私もそう思う……この天界をもっと平和な世界にしよう」
メアリーもそう言う。
「ありがとう……2人とも……」
エースはそう言い、目頭が熱くなる。
(ルイス……安心してくれ、お前の意思は俺たちが繋ぐ。この世界に楽園を築いてみせるさ……)
お読みいただきありがとうございます。
これにてルイスの記憶についてのお話は終わりです。
最後に、エースが言い出した“ルイスの意思の尊重”これについて少し解説を入れます。
まず、記憶を見るということはその人の感じたことや思想なんかが頭の中に流れてくる訳ですね。
そしていつしかそれが自分の身体の一部のようになります。
それが“意思”というものです。
つまりエースは記憶を見ることでルイスの“楽園の創造”という意思が自分の意思かのように感じるようになったということです。




