誰にとっての楽園
エースはヘラクレスの問いに頷く。
「確かにそうだな、知恵というものが元からあったとはな……」
人界に生まれた2人の人間……
2人が持つ知恵……
考えても答えは見つからない……
謎は深まるばかりだ。
「その後は……どうなったの?」
メアリーがそう聞く。
「あぁ、その後新生ルイス帝国ではルイスの血もアナスタシアの血も関係なく、平和な国となった。
中には2つの血の混血の子供も生まれた……その子供の子孫が今の世界の一般的な血筋だろうな……」
エースはそう言った。
今現在、天界ではアナスタシアの純血はほぼ確認されておらず,ルイスの純血も絶滅に瀕している。
「その後、初めに生まれた子供たちが歳や病で死んでいった。そんな中でもルイスは500の暦を刻むまで生き続けた」
エースがそう言うとメアリーが口を開く。
「なんでそんなに長生きできたんだろう……天界人の平均寿命は100歳なのに……」
「わからない……」
エースにはその答えが分からなかった。
「その後は……ルイスはどうなったんだ……?」
ヘラクレスはそう聞く。
「あぁ、子供たちに看取られながら息を引き取ったよ……」
「……問題はそこからなんだ」
エースは顔色を変え、そう言う。
「ルイスはその後、現在の天界にもある召喚門で目を覚ました」
その言葉に2人は驚愕する。
「召喚門って……ルイスは天界人じゃないの?」
メアリーはそう言う。
「あぁ、人間が力を手に入れた場合、明確には天界人ではないのかもしれない……」
事実、ルイスは羽を生やさなかった。
「なら……俺も一度死ねるのかもな……」
エースはそう呟いた。
すると、メアリーが手を握ってくる。
「死んじゃダメだよ?」
エースはその言葉に頬を赤らめながらもごめんと謝る。
「話を戻そう……そこでルイスは倒れている1人の人間を見つける」
「その男は見間違えようもなく、ルイスの民の者だった」
ルイスの民……ルイスの純血を貫く者たちの総称だ。
「その男は酷く怪我をしていて今にも事切れそうだった」
ルイスが心配して近寄ると、
「ルイス様……アナスタシアが我々ルイスの民を虐殺しています……あいつは天界禁忌法典なるものを作り、我々を支配しています……我々は反旗を起こしたもののあいつの力の前には太刀打ち出来ません……どうか、どうか……我々ルイスの民を“楽園“に導いてください……」
男はそう言い、息絶えた。
「そんな……」
ルイスが言葉を詰まらせて男の手を握っていると何かが流れ込んでくる。
“魂“だ。
死を遂げた男の魂がルイスに流れ込んできた。
ルイスは男の記憶を見る。
「これは……あの時、あの少女から力を受け継いだ時と同じ……記憶……?」
ルイスはそう呟いた。
ルイスは決意を決め、立ち上がる。
男が持っていた剣を取る。
その剣は後にアナスタシアの住処から見つかった剣とよく似ている……いや同じものだろう。
(あなたの意思……継いでみせます。私がここに楽園を築きます)
ルイスは背中に羽を生やす。
白く美しいその羽を広げてルイスは空へと飛び立った。
作中に出てきた“楽園“についての補足説明をさせていただきます。
ルイスは僅かに流れ込んだメアリーの記憶
『苦しみから解き放たれる術は創造のみである』
という言葉から新生ルイス帝国を築いた後にあることを思いつきます。
アナスタシアとの戦争後、もしまた争いが起きたら、また誰かが苦しむ世界ができたら……
そう考えているうちにルイスは、苦しみという概念のない世界を創造すれば良いと思いつきました。
その事を帝国の民に伝えていました。
ルイスはその世界を“楽園“と呼び、楽園創造が自身の使命であると悟りました。




