無限領域
おそらくここにいる全ての者が自身の中で決意を固めただろう。
悪の根源である『天界禁忌法典』をこの世に産み落とした悪魔を倒すと…
アナスタシア討伐部隊は出発前,民に対し演説をしていた。
その中でガブリエルは強い意志を見せ,発足して間もない新政府軍の信頼を勝ち取った。
そしてエース達は召喚門にたどり着く…
「ここの奥の森にまだ…いるのか」
エースはそう呟いた。
あの日,悪魔と出会った日から数ヶ月が経っている。
やつはまだこの森の中にいるのだろうか…
討伐隊のそんな考えは一瞬にして吹き飛ばされる。
突如として爆音と共に森が爆発したのだ。
「なっなんだこれは!」
激しい爆風とともに木々がなぎ倒されていく。
更地になった森の中に1人の男が立っている。
「…まだここにいたか,アナスタシア」
エースは顔にかかった土零れを払い,そう言う。
「待ちわびてたよエース」
アナスタシアはそう呟いた。
エースは剣を抜き,アナスタシアに向ける。
するとアナスタシアが両手を上げる。
「待った,君は先走りすぎだ」
アナスタシアはそう言った。
「話したいことがあるんだ」
そう言うアナスタシアの腰には剣が携えられている。
エースは警戒する。
「君は…道の力について知っているか…?」
アナスタシアはそう聞いてきた。
道?そんなものは知らない。
「知らないな,俺たちはそんな話をしに来たんじゃない」
エースがそう言うと周りの兵士たちも武器を構える。
「本当に知らないんだね…実に勿体ない…」
アナスタシアはそうつぶやく。
「僕が教えてあげるよ,この力のことを!」
そう言い,アナスタシアがエースに右腕を向ける。
次の瞬間,アナスタシアに薄青色の後光が差し,
その光が加速し,世界を飲み込む。
「なんだこれは…!」
エースは光に飲み込まれていく。
差し出されたガブリエルの腕を掴もうとするが僅かに届かず,吸い込まれていく。
次に目を開けた時,
エースは砂の山の上に居た。
「ここは…」
砂以外に何も無く,ただ真っ暗な世界にいた。
その時,下から声がする。
「やぁ,エース」
アナスタシアのものだった。
エースはその声を聞き,腰に携えられていた剣を抜くがアナスタシアが,
「待て,ここでは攻撃はできない」
そう言う。
「ここはどこだ」
エースの質問に対し,アナスタシアは,
「ここは『無限領域』言うなれば神の世界だ」
そう言った。
「神の…世界?何を言っている…」
エースは困惑する。
道?無限領域?一体何を…
「口で言うより,こうかな」
アナスタシアはそう言い,右手を闇の方へと向ける。
するとアナスタシアの立つ地面から光の道のようなものが闇の方へと生まれ,奥の方で光の柱を形成した。
「これは…」
「今僕はあそこにいる人間の道と繋がった」
アナスタシアはそう言った。
「今僕はあそこにいる人間を意のままに操れる」
「これが神の力だよ,通常の人間や天界人はそれぞれに道というものを持つ,僕達無限領域に住む者はその道と繋がれる」
「人が生まれれば新たな道が生まれる,そうすればこの力は無限に強さを増していく」
「この力はこの世の全てを支配する,それは時でさえ…」
アナスタシアはそう言った。
「そんな…力が…」
「そして君は今僕よりも上の砂山にいるだろう」
そう言いながらアナスタシアがエースの立つ砂山に触れると砂に手を弾かれる。
「君はこの空間の頂点に君臨しているんだ…」
「それはつまり,この世界の頂点に君臨していることを表している」
アナスタシアはそう言った。
「世界の頂点…何を…」
エースは困惑する。
訳が分からない…
「この力を使えば,君の大切な人だって守れる」
アナスタシアのその言葉にエースは一瞬気が迷う。
「でも君はこの力を発動できない」
「何故なら君がこの力を自覚していないからだ」
「この力を使えば世界の全ての悪をも封じ込めることが出来る」
アナスタシアのその言葉にエースは突っかかる。
「悪…?それはお前だろ…アナスタシア」
エースはそう言った。
「違うよエース,本当の悪は他にいる…道の力を使えばそれもわかるよ…」
アナスタシアはそう言った。
道の力…本当にこいつの言ったことは正しいのか…
本当に大切な人を守れるのか…
「僕を引っ張り上げてくれ,共に平和な世界を目指そう」
アナスタシアのその言葉にエースの気が狂う。
こいつは悪だ…
でも,メアリー達を本当に守れるのか…
分からない…
分からない…
分からない…
でも,1度こいつの言う世界を見れば…
何かわかるかもしれない…
俺はアナスタシアの手を握り,引き上げようとする。
その時,全身に不快感が襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は叫び声を上げ,アナスタシアの手を離す。
俺は叫び声を上げながら頭を抱える。
「なんだこれは…!誰かの記憶…?」
誰かの記憶がエースの頭に流れ込んでくる。
とてつもない不快感。
誰の…
誰の…
記憶なんだ!
「エース…どうしたんだい?」
そう言うアナスタシアの方を見た時,
アナスタシアの顔を見た時,俺は吐き気に襲われた。
俺は呼吸困難のような状態になった後に立ち上がる。
俺はアナスタシアに向かって
「この…悪魔が…!」
そう言い放った。
「なっ何を言っているんだい?エース…」
アナスタシアは困惑する。
「今…俺はルイスの記憶と繋がった!」
エースがそう言った。
エースは激しい頭痛に襲われ,頭を抱える。
「なっ…あいつの記憶と…」
アナスタシアはそう言う。
俺は歯を食いしばりながらアナスタシアに左手を向ける。
そしてどこからか…きっと記憶の中から流れてきた言葉…
「どうしてあなたは人を愛せないんだ」
そう,アナスタシアに言った。
その言葉を聞いた途端,アナスタシアが豹変する。
「…ふざけるな!エース!なんだ,その言葉を記憶で聞いたのか!」
「その言葉は…僕がこの世で最も嫌いな言葉だ!」
アナスタシアはエース右手を向ける。
2人の背後から無数の光の線のようなものが加速しながら放出される。
そして世界は渦巻き,崩壊する。
次に目を開けた時,俺とアナスタシアは現実に戻っいた。
「エース!大丈夫か!」
頭を抱える俺にガブリエルはそう言う。
「大丈夫だ…」
俺はそう答える。
しかし,大丈夫なんてものじゃない…
未だにルイスの記憶が流れ続けている。
俺は息を飲み,ガブリエル達に言う。
「俺は馬鹿だった…今あいつが悪魔であると…再認識した…!」
そう言い,エースは剣を構える。
「エース…!君なら分かってくれると思ったのに…!あの女のせいで…!」
アナスタシアはそう叫んだ。
「黙れ!」
俺は頭を抑えながらそう言う。
こいつを殺す…!
もうこの意志だけは何があろうと曲げない…!