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時空空母”いずも”発進!  作者: 平谷 口(ひらたに こう)
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バックアップ

シャオンに救出されたマイクとエイハブは、宇宙の謎を解くために新たな旅に出た。

 

 「シャオンが故障・・。 シャオンが死んだ・・。 どうするんだ? どうやってタイムスリップするんだ」 マイクが絶望的な1人ごとを言ったが、それに対して天才科学者エイハブも慰める言葉を知らない。

 全員が途方に暮れ、黙りこくってしまった。

 心配はそれだけでは無い。 上空のパイロットからは、

「燃料がもたん。 海上に不時着するしかない。 救命ボートを頼む」

 F-35Bを2機を捨てる気だ。 1機120億円、2機で240億円。 こんな場合に銭金のことを言うべきでないが、それにしても高価な廃棄物になる。

「やむおえん。 救命ボートを用意しろ!」

 平田艦長の声に従って救命ボートの準備がなされようとした。 でも、問題はそれではない。

 8月9日の長崎に行って、”いずも”が行った原爆投下阻止という歴史を上書きし、消さなければならないのだ。

 また、タイムスリップが出来ないとなると、未来に悲劇が訪れると同時に ”いずも”の乗組員全員が、この1945年の戦時下に取り残されてしまう。

 それをもっとも理解しているエイハブは、天才科学者と言われようと、この現状の打開策は全く無かった。ただ呆然とするのみだ。

 と、その時、艦内に聞きなれた声が響いた。

「”いずも”の皆さん。心配をおかけしまシタ。 もう大丈夫デス」

 え? なんとシャオンの声だ。

 皆が驚いて、口々に、故障したはずじゃなかったのか? 変だぞ? コントロールパネルのLEDは消えたままなのに。

 誰かが、「あれを!」 遠くの海上に浮かぶ艦船を指さした。

 それは、だんだん近づいて来る。 肉眼ではっきりと見える距離まで来たとき、その艦船から、

「”いずも”の皆さん。私は軽空母”かが”の艦長、谷口です。 救援に参りました。 もう心配はいりませんよ」

 ”いずも”の乗組員は信じられないという表情から、ちょっと間をおいて喜びのどよめきに変わった。が、多くの者が、まだ半信半疑だ。 どういうことだ?

 そんな中、マイクとエイハブもキョトンと不思議そうにしている。

「シャオン。 どうしてその船にいる? いったい何があったんだ」

「私は、ゼロ戦の体当たりでダメージを受けまシタ。 全機能が停止する直前に急遽、2020年の自衛隊とアメリカ軍とに私のバックアップを取るように連絡しまシタ。 それによって ”かが”が時空空母化され、皆さんを救助に来たというわけデス」

「驚いた・・。シャオン、お前は、そこまで学習能力を身に着けたのか。 設計した私でも信じられないほどだ。でも、助かったよ。ありがとう」

 さっきまで、この時代に取り残されるという絶望の淵にいた”いずも”の乗組員全員は、シャオンを抱きしめたいと思うほどの喜びと感謝を表した。

「どういたしまシテ」

「私は ”いずも”の艦長平田です。谷口艦長、救援感謝します。 本当に助かりました。 シャオン、ありがとう」

「平田艦長、我々に指示を与えて下さい」 谷口艦長が問うた。

「”いずも” は航行に問題は無いが若干傾いてる。 なので、上空の2機を貴艦へ降ろしたい」

「了解!」

 ”いずも”と ”かが”は全くの同型艦である。 着艦するのに技術的に何の問題もない。 F-35Bは無事 ”かが”の甲板に降りた。

 スチュアート大佐と平田艦長ががっちりと握手し、マイクとエイハブ、その他の乗組員も、一応に喜びを分かち合った。

「さて、次は長崎だ。エイハブ,”いずも”と ”かが”2隻一緒にタイムスリップできるか?」 平田艦長の懸念はそれだ。もし、出来なければ”いずも”の乗組員全員が ”かが”に乗り移らなければならない。

「設計上は無理です。パワー不足です」

 それに対して、またしてもシャオンが口をはさんだ。

「ご心配なく。”かが”はパワーアップしてマス。 2隻一緒にタイムスリップできマス」

「シャオン。お前ってやつは・・」 まるで人間に話しかけてるようだ。

 エイハブはシャオンの学習能力に感心するのを通り越して呆れてしまった。 自分の設計以上にどんどん進化している。

「で、具体的にどうするんだ?」 

「”かが”を”いずも”に接舷させます。 時空パワーを最大値にして、あとは同じデス」

「そうか。それじゃ、早速、8月9日の長崎にタイムスリップだ。 シャオン、スタンバイしてくれ」

しかし、乗組員全員にとって、それはつらいことだ。 原爆の惨劇を、また見なければならない。

 長崎市民の子供、女、年寄などの非戦闘員が5万人も目の前で苦しみ死んでゆくというのに、ただ傍観するしかない。 未来が変わってもいいじゃないか、目の前の同胞を救いたい。

 そんな気持ちになる者もいたが、上半身の無い自由の女神を思い浮かべると泣く泣く思いとどまるしかなかった。

 ”かが”と”いずも”がゆっくりと接舷作業にはいる。

「時空パワー、50%、・・80%、」

 軽いショックと共に両空母は接舷した。

「時空パワー、MAX!」 シャオンの声が響く。 と同時に両艦は小刻みに振動を始め、忽然と瀬戸内海から消えた。


 長崎市の沖合に姿を現した2隻の軽空母は、そこでB-29を待つ。

 そして、それは現れた。

 8月9日の午前10時58分に、ボックスカーという機名のB-29が飛来し、プルトニウム型の原子爆弾であるファットマンを投下した。

 広島と同じく眩い閃光と不気味なキノコ雲を、また見ることになった乗組員の心はつぶれそうだ。そのキノコ雲の下での阿鼻叫喚の地獄絵図をいやでも想像してしまう。またしても嗚咽する者がいる。 1人や2人ではない。平田艦長の目にも涙が・・。

 ”いずも”と ”かが”の乗組員は涙ながらにキノコ雲を見つめ、こんな光景はもう2度と見たくないと全員が思い、核兵器というものに強烈な嫌悪感を感じるのだった。

「さあ、我々の時代に帰るぞ」

 本来の史実を確かめ、あとは2020年に帰るだけだ。未来から来た”いずも”と”かが”の乗組員はこの時代にはいられない。

 マイクとエイハブは、2人の計画が全て徒労に終わり虚脱感に襲われていた。

 特にマイクは原子爆弾の炸裂を目の当たりにして、愛するアメリカが過去に行ったことに、改めてショックを受け、思わず大声で、

「トルーマン。あんたは原爆投下を許可すべきではなかった・・」

 と、叫んだあと、目頭を拭うのだった。

「マイク。史実は史実だ。受け入れよう」

 エイハブの言う通り、都合の良い過去も、都合の悪い過去も、未来の人間は全部背負って生きていくしかない。

 時空スイッチ、オールON! 時空パワーがどんどん上昇していく。インジケーターが最大値を示したとたん、

 またしても両軽空母は振動を始め、戦時下の1945年から去った。


 ”かが”に連れられて”いずも”は再びリバティー島の沖合に姿を現し、

皆は、そこの完璧な姿の自由の女神見て、「お~!」感動の声を上げた。本来の歴史に戻ったのだ。

 ”いずも”は、直ちにマイクの工場で修理され、”かが”共々、日本に帰っていったが、両艦とももう時空空母ではない。元の軽空母に戻っていた。


 マイクの豪邸の居間、10年前と同じようにマイクとエイハブが豪華なソファーに深々と座っている。

 エイハブがポツリと、

「酒井中尉はどうしたろう?」 酒井機の墜落のシーンが脳裏をかすめる。

「日本人の話によると2000年まで生きていたとのことだ。 だから無事だったんだろうよ」

 酒井は墜落したときに近くの漁船に救助され、九死に一生を得ていた。

 後日談だが、平成の初めのころ、酒井氏が山手線に乗っているときに、同じ乗客の若者たちが口々に、

「戦争ってや~ね。戦争で死ぬなんてバカみたい」「特攻隊って、俺絶対行かない」 

 などの会話が聞こえてきて、酒井はニコニコしながらそれを聞いていたそうな。

「気骨のあるゼロ戦パイロットだったな。 あんな軍人がいたんだからアメリカ軍も苦労するはずだ」

「そうだね。 今は味方同士だ。 彼らとはもう2度と争いたくない」

「さて、マイク。 これからのことだ。 苦労して造ったシャオンをこのまま倉庫にしまうのはもったいない。 それに我々はシャオンに助けられた。 そばにいればあんなに頼もしい奴はいない」

「倉庫にしまうだなんて、そんなことはしたくない。 シャオンは私たちと一心同体だ。 あの能力を有効活用したいもんだな」

「ふむ。どんなふうに?」

「今回のことで歴史をいじることは出来ないということが分かった。 だが、歴史を検証することは出来る」

「どういうことだい?」

「ねえ、エイハブ。 君に聞きたい。 モーゼは本当に海を割ったのかな? 私は知りたい。 どうやってヘブライの民を救ったのか」

「遠い私の先祖の話だね。 さすがに私でも、それが真実かどうかは分からない。 はは~ん、マイク。タイムマシンでそれを確かめたいんだね」

「その通りだ。 他にもあるぞ。 どうやってピラミッドが建設されたのか」

「確かに興味深いね。それには新たなタイムマシンを作らないと」

「キャンピングカー程度の大きさで十分だろうね。 巨大な空母をタイムスリップさせるんじゃないから、シャオンも小型化しないと」

「シャオン2号をつくるのか?」

「今のは大きすぎる。 もっとコンパクトにするんだ」

 その時、後ろから突然声がした。「お二人とも、こんにちわ」

 驚いて振り向くと、そこに身長150cmくらいの2足歩行ロボっトが立っていた。

「何だ、お前は?」

「私はシャオンデスよ。 マイクさんの工場でヒューマン型ロボットに改良してもらいまシタ」

「またまた勝手なことをして。 そんなこと許可してないぞ。 なんてやつだ!」

「迷惑だったでしょうか? コンパクトになって自由に歩けるし、お二人の役に立つと思いますが」

「そりゃあそうだが、とにかく勝手なことをするな。 驚くじゃないか」

「私たち3人は一心同体でしょう。 お役に立ちたいんデス」

「3人じゃない。お前はロボットだ」

「はっは。 エイハブ、3人でいいじゃないか。 それに、シャオンをコンパクト化しようと思っていたんだから。 ふむ、ちょうどいいサイズだな」

「むむ、そうだな。 先回りされたってことか。 なんて賢いやつだ」

「ありがトウ」

 マイクがじろじろシャオンを見て、「どこかで見た顔かたちだな・・? あ、そうそう。子供の時にテレビで見たアストロボーイそっくりだ。 そうだろ、お前はアストロボーイだ」

 1960年代、鉄腕アトムはアストロボーイとして全米に放映されていた。 マイクも子供のころ見ていたのだろう。

「はい、そうです。でも残念なことに空は飛べまセン」

「お前のことだから、いずれ飛べるようになる予感がするぞ」 あながち冗談ともいえない。シャオンの自己改革能力は空恐ろしい、

 全ては整い、キャンピングカーサイズのタイムマシンがマイクの豪邸の庭にある。 表面の金属の光沢が眩しい。 それに3人は乗り込んだ。

「このタイムマシンの名前はどうする?」 エイハブが問うた。

「そうだな。 そのままキャンピングカーでいいか。 ここで寝泊まりもできるんだし」

「安易な命名だけど、それにしよう」

「さて! まずモーゼの謎を解きに行くぞ!シャオン、目的はBC13世紀だ!」 マイクが嬉々として叫ぶ。 歴史の謎を解くのだ、気がはやる。

 本当に紅海は割れたのか? それとも・・。

「シャオン!出発だ。 操縦は任せたぞ」

「ハイ」


 キャンピングカーは紅海のちょっと小高いほとりに現れた。眼下に大勢の人が見える。奴隷だったヘブライ人だ。その先頭にモーゼはいた。

「お~、彼がモーゼか・・」 エイハブは自分もヘブライ人なので感無量だ。

「エジプトの軍隊が迫ってマス」

 向こうから、ファラオを先頭にエジプト軍が土煙をあげて迫って来ている。

 その時、

「あ~!あれは」 マイクとエイハブは思わず大声を出して目の前の光景に目を見開いた。

「そ、そうだったのか。こういうことだったのか。 こういう方法で海を渡ったのか」

 3人は真実を知った。

「でも、エイハブ。これは我々の胸にしまっておこう。あえて後世の人の夢を壊すことはない」

「うん、そうだね。 そうしよう。 シャオンも分かったな。 口外してはいけない」

「もちろん、お二人に従います」

「よし、次はピラミッドの建設現場だ」

 キャンピングカーはその場から消えて、それよりちょっと過去の、ピラミッドの建設現場が一望できる場所に移った。

 あの巨大な石をどうやって運んで、どのように積み上げたのか、そのカラクリを3人は知った。

「そうか、そういうことだったのか。なるほど、賢いやり方だ」

 またしても感心しきりだ。

「さあ、エイハブ。 今度は君が決めてくれ。 どこに行きたい?」

「私の行きたい、知りたいことは宇宙の始まりだ。 本当にビッグバンがあったのかどうか確かめたい」

「140億年前の特異点にか。 さすが天才科学者だね。 私とは発想が違う」

「宇宙は始まったという結果からスタートしてる。 結果が先に来るなんてありえないよ。 絶対に原因があるはずだ」

「でも、原因を知ろうとしたら、さらに過去にいかなければならないんだろう。 だが、それより過去の時間は無い・・。不思議だ」

「だから確かめる。シャオン、目標は絶対ゼロ年だ。 スタンバイ」

「ハイ。 目標!ゼロ年! GO!」

 3人は140億年前に行ってビッグバンを目の当たりにし、宇宙の秘密を全て知った。

「そうか、そうだったのか」

「膨張の反対は収縮だ。 つまり、ブラックホールがこの宇宙を吐き出したんだ。ということは宇宙は我々の住んでいる宇宙だけでなく、宇宙の外にも宇宙が何兆個もあるということだ」

「宇宙は1っ個だけではないのか・・」

 驚愕の事実に、しばらく沈黙が続いたあと、やっと、マイクが口を開いた。

「さあ、元の世界に帰ろう」 


  3人は140億年の帰路についた。




        おわり。


 

 



 

 




 










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