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時空空母”いずも”発進!  作者: 平谷 口(ひらたに こう)
3/8

酒井三郎中尉

ゼロ戦のパイロットの酒井三郎中尉が時空空母”いずも”に着艦した

彼はそこで未来と出会う。


 ”いずも”は長崎半島の沖合50kmの所、天草灘に出現した。周りに航空機は見えない。レーダーにも、それらしきものは全くうつらない。遠くに小さな漁船が2~3隻見えるだけだ。もちろん、”いずも”にとって、それらの漁船は何の問題もない。無害である。

 長崎造船所では、かつて戦艦武蔵が建造されたが、この終戦まじかの8月9日には何も建造されていない。度重なる空襲によって造船所は徹底的に破壊されていた。破壊されていなかったとしても、日本には、もはや何かを建造する余力はなかった。鉄などどこにも無いのだ。

「なんてやつだ! 無理やり着艦しやがった。救護班急げ!」

 平田艦長が言うまでもなく、救護班はすでに飛び出していた。

パイロットは操縦桿に覆いかぶさるようにして気絶している。

「火が出なくて幸いだ。ふむ、出血はしてないな。衝撃で脳震とうを起こしているだけかも知れない。よし、医務室に運ぼう。そっとな」

 ゼロ戦パイロットは気を失ったまま医務室に運ばれた。

「拳銃などは持ってないようです」

「気が付いたら暴れるかもしれん。手足をベッドに括り付けよう。可哀そうだけど仕方ない」

 他の医務員が、「あっちこちに打ち身があるな。念のために後でCTスキャンをしたほうがよいでしょう」

 また、他の医務員がジョークっぽく、「医療費は只で?」 

「当たり前だ! このパイロットは日本国のために必死で戦っている勇者だ。後世の人々は感謝しなければならない」 軍医が、穏やかだが真剣にしっ責した。

 そこにいる全員が、「そうですね」 大きく頷く。

 その時、「う~・・」 一声うなった後、ゼロ戦パイロットが目を開けた。

 医務員全員が、「おお、気づいた。よかった」

「貴様ら。いったい・・」 起き上がろうとしたが手足をベッドに括り付けられてるので、それは無理だった。と同時に体の痛みで顔を歪めた。打ち身がひどいのだろう。

「貴様ら、いったい何者だ。縄をほどけ! ちきしょう」

「私たちは敵ではありません。味方です。あなたに危害は加えません。安心して下さい」 

「味方だと? 嘘をつけ! 日本にこのような航空母艦は存在しない。それにはっきりと英語を聞いたぞ。貴様ら、何者だ! どこから来た」

「落ち着いて下さい。あなたが暴れないと約束すれば、すぐにでも自由にしてあげます」 

「今すぐだ!縄をほどけ!」

 カチャ。 そこへ平田艦長が入って来た。

「どうですかお体は。 痛みはありますか?」 

「お前が上官か。縄をほどけ! 早くしろ!」

 医務員が、「静かにしなさい。あなたが落ち着いたら自由にしてあげますよ」

「いや、今自由にしてもいいだろう。縄をほどいてあげなさい。無茶な着艦で体をひどく打ってるはずだ。ほどいても自由に動けないだろうよ」 

 平田艦長の言葉に、「そうですか。分かりました。じゃ、ほどきます」 パイロットに向かって、「暴れるんじゃないぞ」 と言いながら手足を自由にしてやった。

 パイロットは勢いよく立ち上がろうとしたが、「う~!」 呻いて再びベッドに倒れ込んでしまった。

 平田艦長の言う通り、動くのは無理のようだ。それでもこのパイロットは、何とか起き上がってベッドに座ることまではできた。

 「他の4機の零戦はどうした。俺の後に続いていたはずだが。どこにいる、無事か?」 部下の心配をした。

「着艦したのは君だけだ。君の機が大破して滑走路をふさいだんで降りられなかったんだろう」 嘘をついた。まさか、この空母が消えたとはいえない。

「我々は何もしていない。4機は無事なはずだ」

 しばらく考え込んだ後、つぶやくように、「そうか。無事ならいい」

「ふ~」一息ついて、「貴様らは、いったい何者だ? 顔は日本人のようだが雰囲気がどうも違う」

「我々は、日本国海上自衛隊”いずも”の乗組員です。私が艦長の平田です。あなたと同じ日本人ですよ。ご心配なく」

「海上自衛隊? 何だそれ! ”いずも”だと? 本部に問い合わせたが、そんな空母は存在しないそうだ。いい加減なことをいうな」

「落ち着いて下さい」 言った後、医務員に向かって、「何か飲み物を・・。冷蔵庫にミネラルウォーターがあっただろう」

 部屋の隅にある小型の冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、この興奮しているゼロ戦パイロットにわたして、「さ、どうぞ飲んで下さい」

「ミ、ミネ・・ラルだと。こんな訳の分からんもの飲めるか・・」 といった後、放り投げようとしたが、

「何だ。冷たいぞ」 投げるのをやめて、まじまじとミネラルウォーターを見た。

 この時代、冷蔵庫は一般家庭には、もちろん普及していない。家庭の中の電気製品と言えば裸電球くらいなもので、これを電気製品と呼べるかどうか・・? 

 彼が驚くのも無理はない。

 ミネラルウォーター以外にも目はキョロキョロと、医務室内の見慣れない機器を見回している。

 天井からの灯りは、電球ではなく白い光を放つLEⅮライトだ。さらに不思議なものはパソコンのディスプレイである。鮮やかなカラー映像で、絵が動いてる。当時、映像と言えば幻灯機か映画しかない。もちろん白黒だ。

 昭和20年に生きるこの男には、それらが気になってしょうがない。

「不思議なものばかりだ・・」 そうとう頭が混乱しているのだろうことは、この部屋にいる全員にも分かった。

「我々は、あなたと同じ日本人ですよ。ご心配なく。ところで、あなたの名前を聞きたい」 といった後、すぐに、

「あ、聞く必要はないか。適当なところであなたをこの艦から下ろします。それまで体の治療に専念して下さい」

 彼はその声に反応せず、パソコンの映像を食い入るようにみている。カラー映像など当時、まだ無い。

 「ミネ・・ラ。君らは敵性言語を平気で話すんだな。はは~ん、分かったぞ。アメリカには日系人が大勢いる。君らは、その日系人だろ。日本人のふりをして工作活動をしてるんだな。どうだ!図星だろ」

いった後、一旦は放り投げようとしたミネラルウォーターを一気に飲み干した。

声には出さなかったが心の中で、(うまい!)

 そして、彼の気持ちも徐々に落ち着いてきたようだ。

 その彼が急に顔を上げ、静かだが太いこえで、「私の名前は、酒井三郎だ。大日本帝国海軍酒井三郎中尉だ」

 「え!」部屋の全員が驚き、言葉を失った。あまりにも有名な名だったからである。そして、酒井の顔を見入った。「この人が・・」

 この時、酒井三郎中尉は28歳の青年だ。血気盛んな帝国軍人である。

「どうした?私の顔に何かついてるのか」

「あ、あなたが、あの有名な撃墜王の酒井中尉ですか」

「うむ。世間ではそういうふうに言ってるようだな。悪い気はせん」

 このあまりにも有名な名は後世にも物語として、本になったり映画になったりと、2020年になっても十分知られている。

「それにしてもこの部屋にある機械は不思議な物ばかりだ。なんていうか、凄く未来的だ」 ちょっと間をおいて、「アメリカではここまで科学が進んでいるのか・・」

 さらに、まじまじと部屋の中を見回した後、「ひょっとして君らは未来から来たんだろ?」

 部屋にいる全員が固まった。酒井三郎中尉の方からそういわれるとは思ってもいなかったからだ。何て答えていいか窮していた。が、

「はっは、そんなことはないか。はっは。私はね」 気持ちが、さらに落ち着いてきたのか、笑顔も交え雄弁になってきた。

「空想科学小説が好きでね。君らや、この部屋の中を見るとHGウェルズのタイムマシンを連想させられる。おっと。敵の小説を読んでたなんて知られたら、まずいな。今のは内緒だ。はっは。まさか、未来からだなんて。そんなことはなかろう」

 そこにいる平田艦長と医務員全員が顔を見合わせた。その通り、未来から来ました。とはいえない。いいたいが、いってもどうせ信じない。SF小説のなかだけにしといた方がいいだろう。しかし、彼は、自分が今長崎にいるということを知らない。広島から長崎に瞬時に移動したことを知ったら・・。

 そこへ、医務員の1人が食事をキャスターテーブルにのせてやって来た。

「お粥とバナナを持って来ました。御馳走でもてなしたいんですが、体調がよくなるまでがまんしてくださいね」

 それを、ベッドに座ってる酒井の前に持ってきて、「さ、どうぞ。食べないと体が回復しません。おかわりはいくらでもありますから、遠慮なく」

 敵か味方か分からないような君らの施しは受けるつもりはない。と言いたかったが、「君らは、なんだか敵ではなさそうだな。そんな気がしてきた」 それに、かなり空腹を感じていた。

「敵ではありません」 医務員の何人かが同時に声を発したので、酒井は、ちょっと笑みを浮かべて、

「それじゃ、頂こう」 その後小さな声で、「いただきます」といって1口、口に入れると、「何だこれは。美味い・・」

 たかがお粥といっても戦争中のものとはレベルが違う。米はコシヒカリで、その真ん中に、これまた高級梅干しの南高梅がちょこんと鎮座している。酒井でなくとも、誰でも美味いというはずだ。

 そのお粥を一気にかっこんだ。そして、バナナに目をやり、南方の戦線から帰って来た奴から話には聞いたことはあるが、これがバナナというものか・・。

 現代ではどこにもある、とても安価な果物だが、当時では高価でほとんどの人が食べたことのない貴重品だ。ましてや終戦まじかで何もかもが不足していた時代である。

 酒井は興味津々でバナナを眺めたあと1口かじった。

「・・」 あまりの美味さに絶句してしまった。なんて美味いんだ。ほっぺたが落ちるとはこのことを言うんだろう。俺だけでなく皆に食べさせてやりたい。もちろん家族にも。

 お粥もバナナもあっという間に食べた酒井は、もっともっと食べたかった。「おかわり」 の言葉が喉まで出かかったが、それを飲み込んだ。

「ごちそうさま。ありがとう。美味かった」 

「おかわりは?」

 なんて意地の悪い言葉だ。おかわりしたいのは山々だが、なぜか酒井はできない。意に反して、「いや、もうけっこう」といってしまった。

 心の中で、「何で断る?」自問自答した。自分だけが美味いものを食ってどうする。 誰もが飢えている戦時中という状況が、彼におかわりをさせなかったのだろう。

「艦長、そろそろ時間です」

「お、そうか。じゃ、我々は部屋を出ますが、世話係を1人つけますので安心して下さい。さ、あと分からないことがあればシャオンに聞いてください。何でも答えてくれるでしょう。さ、みんな、持ち場に戻ろう」

「しゃ、しゃおん・・。何だ、それ?」

 酒井の疑問には答えず全員医務室を出ていった。

 廊下に出た平田艦長がポツリと、「彼は全てを知るだろう・・」

 1人部屋に残された酒井は、

「ふ~!」 大きく息を吐いた。「俺は夢でも見てるのか?」

 部屋の中を見渡して、またパソコンのモニターに目が止まる。

「不思議だ。何で絵が映ってるんだ? それに色まで付いている・・むむ」 小さく呟いた。

 突然、「お答えしまス」 シャオンは強力な学習能力によって、無機質な電子音から完璧な人間の声を話すようになっていた。が、語尾だけがちょっとおかしい。そこだけ電子音だ。

「有機ELが発光して映像をつくりマス」 このパソコンはシャオンに繋がっていて、質問には全て答えるようにプログラムされている。酒井が何気なくいった独り言にでも答える。

「うわ! 誰がしゃべったんだ! どこにいる? 出てこい!」

「私は シャオン デス。 酒井さん ヨロシク」

「無線で誰かがしゃべっているんだな。目の前に出てこい!」

「喋ってるのはハ 私です。何でも聞いて下サイ」

「わたし? 私って誰だ。とにかく、姿を見せろ!」 キョロキョロとあたりを見回すが誰もいない。

「私はハイパーコンピューターデス。あなたが見ている、目の前のパソコンが私です」

「パ、パソコ・・? 何だ!それは」

 当時の人にこれらの状況を説明するのは、ハイパーコンピューターのシャオンでも無理だ。いくら頭脳明晰の酒井でも理解は不可能なことだろう。

 しかし、酒井は徐々に、これら全てが現代のものではなく未来のものではないのか?と、うすうす思い始めた。信じ難いことだが、つじつま合わせようとするとそう思うしかない。

「話す機械か・・。人工頭脳ってやつだな。まるで空想科学の世界ではないか。はっは」 笑うしかない。

「シャオンとかいったな」

「はい。ヘブライ語で時計という意味です」

「そうか。分からないことがあればお前に聞けと言われた。お前は何でも知っているのか。なら、教えてくれ。この”いずも”とかいう航空母艦はいつ建造されたんだ」

「はい。2020年でス」

「そ、そんなに未来にか! むむ・・。 そもそもこの艦の目的は何だ?なぜこの時代にいる?」

「広島、長崎への原爆投下を阻止するためでス」

「何!原爆だと! アメリカは完成したのか。なんてことだ。日本も開発してると聞いていたが、後れをとったのか・・」

 酒井は天を仰いだ。

「で、どうなった。原爆は広島に落とされたのか?」

「”いずも”が阻止しましタ」

「阻止した? 原爆は落とされなかったのか。広島は無事なのだな。そうか・・。それはよかった」 酒井は安堵の表情を見せた。

「酒井さんの家族は広島に住んでいますネ」

「私の家族よりも、広島市民が助かればそれでよい」 

 当時の軍人はあくまでも建前で生きている。軍人は私心を捨て、天下国家のために命を懸けねばならぬ。武士道に相い通じるものがある。実際、多くの将校が自ら命を絶っているが、これは大変な損失だ。1人の優秀な将校を育てるのにどれだけのコストがかかっている事やら・・。それに今までの経験も貴重な財産だ、それらを無駄にすることもなかろうに。

「お前は未来のことは何でも知っているのか」 シャオンという人工頭脳に話しかけている自分を妙だなと思いながら、あえて真剣に聞いた。

 酒井は知りたいことが山ほどある。1番知りたいのは、この戦争の勝敗だ。だが、酒井は感じていた。勝てないと。いろんな状況がそう思わせる。大本営さえ、最近では威勢のいいことを言わなくなった。言うのは精神論ばかりだ。

 一般人でも、「もう、だめだ」 と思っているが、口には出せない。非国民扱いされるのがおちだ。ましてや、軍人は負けのまの字も言えない。

 なので、酒井は勝敗は聞かず、終戦日を聞いた。

「シャオン、この戦争が終わるのはいつだ? 来年か、再来年か」

「お答えします。終戦日は昭和20年8月15日デス」

 一瞬間をおいて、

「そうか・・、1945年8・・。おいおい、ちょっと待て! それは9日後じゃないか。冗談を言うとゆるさんぞ!」

「6日後です。 今日は8月9日デス」

 またまた、一瞬間をおいて、こんどは静かな口調で、

「なあ、シャオン。今日は6日だ。いくらなんでも俺は3日も気絶していない。お前は修理が必要なようだな。どこか故障してるんじゃないか? 日付を間違えるなんて時計という名前が泣くぞ」

「酒井さんが気を失ってる何十分かの間に、6日から9日にタイムスリップしました。それに、今いる場所は広島ではなく長崎デス」

「何い~! 何を言ってるんだ、お前は!」

「今、酒井さんは8月9日の長崎にいマス」

 酒井の頭が、また混乱した。この空母自体がタイムマシンということは何となく理解し始めていた。なので、シャオンの言うことは、あるいは本当かも知れない。が、実際、自分がタイムスリップしただなんて・・。やはり信じられない。

 酒井は頭を整理するためにしばらく沈黙した。

 そしてその後、ポツリと、「なぜ長崎にいる?」


 そのころ、テニアン島から6機のB-29が飛び立ち小倉に向かっていた。指揮を執るのはチャールズ・スウィーニー少佐である。途中からP-51ムスタングが護衛のために合流する。広島での二の舞を防ぐためだ。

 原爆投下の当初の目標は長崎ではなく小倉であった。 


「今日午前11時2分、長崎に原爆が落とされマス。1時間後デス」

 酒井は飛び上がらんばかりに驚いたが、体の痛みでそれはできない。

「長崎にも・・げ、原爆が落とされるのか! なんてことだ・・」

 両手で顔を覆った。そして、パッと顔を上げてシャオンのパソコンを睨み付け、

「広島同様、原爆投下を阻止できるんだな」 問い詰めるように叫ぶ。

「そのために長崎に来ました。F-35B2機がそろそろ発艦します。その様子をプロジェクターに映し出します。観てくだサイ」

 途端に、酒井の目の前の白い壁が300インチの巨大なスクリーンになり、甲板で発艦を待つF-35Bが現れた。海は穏やかで空も真っ青だ。それらの光景が凄い迫力で酒井の目に迫ってくる」

 酒井は度肝を抜かれて声も出ない。只々目を見開いてスクリーンを食い入るように見つめている。

「何だ?、この映画は」 酒井はライブ映像というものが理解できない。映画だと思っている。それも仕方がないことだ。

「酒井さん。この映像は今の甲板の様子デス。戦闘機が飛び立ちマス」

 酒井が凝視するスクリーンに、物凄い轟音と共に、恐ろしい程の加速で滑走し、飛び立つF-35Bが映し出された。その2機は長崎市上空に向かい、B-29を、待ち受けるのだ。

 酒井は瞬きもせず、2機が見えなくなるまで目をいっぱいに見開いてスクリーンを見つめていた。

「なんてことだ・・これが未来の戦闘機か・・」

 この医務室で、気絶から目を覚ましてからの短時間に、次から次へと不思議なものを見た酒井は、この”いずも”も乗組員も自分とは同じ時代のものではなく、未来から来たということを確信した。もう疑うべくもない。

 凝視していたスクリーンから目をはなし、

「小便がしたい。便所はどこだ」

「出てすぐ右です。歩けますか。もうすぐ誰か来るはずですが、今呼びまショウ」

「いや、いい。大丈夫だ」 顔を歪めながらも立ち上がった。

 シャオンが心配そうに、「トイレ・・、いや、便所の使い方は分かりマスか」

「バカにするな!子供じゃあるまいし。便所なんていつの時代も同じだ」

 酒井は、帝国海軍ゼロ戦パイロットの服装そのままである。まだ着かえていない。そんな恰好で壁によりかかりながら、よたよたと医務室を出て行く。

 しばらくして、「うわ~!なんだ、この便所は」

 シャオンにはこの展開を予測できた。

「救護班の方、誰か医務室のトイレまで至急来て下サイ」

 といった後、感情の無いはずのシャオンが、ぷっと笑った。強力な学習能力を持つシャオンは感情まで身に着けたようだ。人間同様の喜怒哀楽をすべて理解するのも近いかも知れない。




➃ 長崎へ  につづく
















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