魔力制御 ①
演習場の一画を間借りして、詩音、エリス、委員長に集まってもらっている。そして本来であれば姿を見せない方がいいリヴィアもこの場にいた。私は手の平を上にして彼女を指し示した。
「はい注目、教材です!」
「「「………」」」
「あの、ご主人様。もしかしなくても私じゃないですよね?………」
「他に誰が? 」
「………ですよね〜」
私の答えに何処となく納得したと言いたげに言葉を発した。リヴィアは少しショックを受けたのか、目が若干虚ろ気味だが問題ないだろう。
教材という言葉通りに、彼女は最高の教材にしてサンプルだった。人型の悪魔は数少ない、大抵は山羊の頭に巻き角を持った両性具有の姿であり、バフォメットと呼ばれる悪魔が一番イメージが強い。
それに人と問題なく言葉を交わせる以上は、興味を引く研究者たちが出て来る。カーバンクルと同様に研究対象と見られ、捕獲される可能性があった。だがリヴィアがそう簡単に捕まるとは思えない、魔法や身体能力で敵う相手ではないからだ。
「なぁ、それよりも良いのか? 」
「良いって何が? 」
「その、彼女のことです。リヴィアさん? と言いましたか? 学園内にいて良いのですか、確か彼女は………」
リヴィアが学園内にいたらとしたら、不審に思う者が出てもおかしくない。悪魔の象徴である翼や角、尻尾については隠して見当たらないので、正体を見破る者はいないはずだ。
とりあえず私は彼女に対して、対策を講じている以上は問題なかった。今までに本人の努力もあってか、周りと友好関係も築けていたのだ。問題はないと満を持して言えた。
「大丈夫、問題ないよ。リヴィアは商店街の人達と顔見知りだから」
「そうですよ、周りには超絶完璧万能冥土のリヴィアちゃんとして知られていますから」
「それ本当に言ってないよね? ………まぁ、良いけど、とりあえずこれをセイラさんから貰ったから」
私が見せたのは、本人を確認する為の物でもある通行証、学園の中にいて歩く以上は持っていた方が良いと言われた。何かがあって急に来られた場合には必要になってくるはずだからだ。
もしも学園を襲うような輩が現れた際に、彼女の力は大きな助けにもなるだろう。そんなことがあればの話しだが、ないとは完全には言い切れなかった。
「なぁ、小鳥遊。此処に呼んだのは何故だ?」
「ん? あぁ、此処に呼んだ理由は魔法を教える準備が出来たから」
「準備?」
「そう、ちょっと知り合いの人にお願いして、作成してもらった魔導具があってね。それがつい先日ようやく届いて、魔法を教える準備が整った訳」
「ふーん、そうか、やっと教えてもらえるのか。楽しみだ」
今まで、エリス達に魔法を教える準備が整っておらず先延ばしにしてきたが、やっとその問題が解決した。私はある魔導具を取り出す、細長い棒状の形をした魔導具、一見すればどういった物かは分からない。
だが、エリスに魔法を教える際にはこれが必要不可欠だった。彼女が持つ魔力量が膨大である事と、放出量が尋常ではない程に多いのが分かっている事だ。
一般的な、それも市販で売られている魔導具であるならば、エリスの手によってものの数分でガラクタ同然の物体へと姿を変えるのは明白だった。出来る事なら壊したくないと思い知り合いの技巧師、魔導具を調整することができる人に改良してもらったのだ。
「玲夏さん。それは………」
「見たことありません。どんな魔導具ですか?」
「この魔導具ね、それよりも先にリヴィア、魔力制御については知ってるよね? 説明してあげて」
「かしこまりました。教材と言うのはこういう事だったんですね! 教えるようにと」
彼女の存在は必須といえる程に役立つ、今から教える魔力制御は、触媒が必要ではない悪魔であるリヴィアが最も適任だった。
なにせ私自身が魔法を、魔力制御という技術を用いて説明したとしても、分かり辛い上にイメージしにくいのだ。リヴィアであれば魔力制御に関した魔法の一つや二つ使えても不思議ではなかった。
早速とばかりに三人の目の前へと移動したリヴィアは、得意げに魔力制御についての説明をし始めた。
「まず、魔力制御についてですが、これは魔力を自由自在に動かす魔法技術です。この魔力制御を習得すれば、大抵の魔法を思い通りに行使できます」
「技術? 魔法とは違うんですか?」
「あたし、魔法を学びに来たんだけど………」
「まぁ、落ち着いて。エリスが魔法を使う為には、この魔力制御の技術を習得して利用するしか、手はないんだよ」
「ん? どういうことだ? 」
不思議そうな表情をしたエリスは未だに、この技術を習得する意義が分かっていないみたいだった。それは仕方ない、彼女が今後、魔法を使いたいと言うのであれば必要な事になってくる。実際にその為の準備を今までして来たのだ。
時間はかかるが、何もしないよりかは良いと思い調整、作成してもらった魔導具を持ってきた。これさえあれば、魔力制御の技術を習得しやすくなるはず。
「エリスの魔力量は多い上に、放出量も共に大きい。だから大抵の魔導具は耐えることが出来ずに、壊れてしまうんだと私は思ってる」
「あーなるほど、それで魔力制御だったか? それの利点はなんだ?」
「とりあえずリヴィア、頼める? 」
「かしこまりました」
この技術の最大の利点はいくつかある、一つ目が放出量自体のコントロール、魔導具に送る魔力を抑えることによって壊さないようにする。そうすることで触媒に向かない魔導具でも、魔法を使えることが出来た。エリスが無意識のうちに壊さないようにするには必要な技術だ。
二つ目は、魔法の強化を行う為に必要な事だった。エリスにはまだ必要にならないが、魔法師から見れば魔法自体の強化を行う方法は少ない。この技術は通常の魔法自体の威力を上げる効果もある。
そして最後に存在するメリットは、魔力消費を抑えることが出来るという点だ。魔力量の多い私やエリスからしてみれば必要ないが、長期戦を想定していれば有用な技術であった。
「ふぅ、凝縮剣」
リヴィアが腕を横薙ぎに払うと同時に、突如出現した光剣に全員が驚いてしまう。まるで光を押し固めたような剣の魔法、淡い青の輝きを放った光剣は、綺麗と言える程に魅力的だった。
彼女は調子を確かめているかのように、上に下そして斜めへと斬り下ろしていっている。その度に、ブォンという空気を裂く音を周囲に響かせていた。
「ザッとこんなもんですね。この魔法はただ、魔力自体を押し固めただけの魔法ですが。魔力制御の典型的な技術を用いているので分かりやすいかと」
「………凄い!」
「凄いだなんて、悪魔からしてみればこれくらい常識で当たり前ですよ。初歩的な魔法による技術になりますが、自分自身の戦闘に適した魔法にすることは良くある事ですから。特に今使った魔法は、姿形を自由自在に変えられるメリットがあるんですよ………」
詩音の一声で褒められたせいか、リヴィアはすぐさま魔法を解いて、頬を両手でおさえて悶絶していた。
そうとう嬉しいと感じたみたいで、聞いてもいないのに次から次へとペラペラと喋っている。
衝撃的に思ったのは詩音だけでなく、エリスと委員長も驚く程であった。エリスは私の前に顔を近づけると目を輝かせ、期待に満ちた表情で言ってきた。
「なぁ、小鳥遊。もしかしてあたしも魔力制御を覚えれば、あんな風に魔法を使えるのか?」
「えっ? あっ、うん、多分?」
「そうか、楽しみだなぁ!」
どうやら今のでエリスの心に火が付いたようだ。だが、触媒なしであれほどの芸当が出来るのは、この世界にいる者ではほとんどいなかった。




