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転生少女は愛されている  作者: 海雪
第3章 交流戦
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苦悩



 学園の敷地内に建てられた建物、演習場の扉近くから中を覗く人物がいた。その人物はシギンス・エリント、多くの生徒たちからエリー先生との愛称で呼ばれている彼女が、その場所で一人立っている。



 いつもの、生徒たちに向けている表情とは違い。真面目な、それでいて無表情と言えるような顔をしていた。そんなエリー先生は演習場の中に入る事もせずに動くことなく、とある一画に集まった者たちを見つめていた。




「おや、エリー先生? こんなところでどうされました?」




 突如背後から掛けられた声に対して、エリー先生はゆっくりと振り向きその人物を確認した。




「………あぁ、天頭先生ですか。私に何か用ですか?」



「いえいえ、エリー先生が居たのでつい、声を掛けてしまいました。特に意味はありません」




 先程とは違い、振り向いたエリー先生の表情はいつも通りと言える優しい雰囲気のある顔へと戻っていた。



 そんな彼女に、声を掛けて来た者の正体は天頭先生だ。特に意味はないと言ったのもその通りだろう。本来なら、演習場で見かけるような教員でもなければ、誰もが気になり声を掛けてしまうのは当たり前だった。



 そうでなくとも、学園内の廊下等ですれ違った際には、挨拶程度に話し合ったりする事はあるだろう。



 まさに今の状況はそうだと言えた。だが今回の場合は廊下でも、ましてや職員室や用事などがあってではない。演習場という本来では見かけない場所で、しかも何かを見つめていた以上は気になって声を掛けてしまうのは当然だった。



 天頭先生からしてみれば、特に深い考えがあってではないのは明白だ。ただ気になってしまったという一点が理由なだけだろう。




「もしかしてですが、彼女たちを?」



「………」




 エリー先生の視線の先を予想して確認してみるが、彼女は一言も答えない。その結果的に天頭先生は、彼女が何も答えを返さないところを見て、図星だと判断したのか一人で納得しては頷いていた。



 視線の先にいたのは五人の人物たちだった。小鳥遊玲夏、雨宮詩音、宝泉滴、エリス・T(ティング)・トゥインクル、の四人ともう一人の美女、メイド服を着用した見知らぬ人物だ。



 明らかに一人だけ異彩を放つ者がいたが、学園の最高責任者である学園長と、秘書であるセイラの二人からは気にするなと教員たちは言われていた。その為に何があっても、メイドが学園内を我が物顔で歩いていたとしても、無視するようにと言われている。関わらないことが教員同士の間で、暗黙の了解として存在していた。




「なるほど、さすがは教師の鑑ですよエリー先生は、いついかなる時も生徒たちを案じて………ですが、(いささ)か過剰では?」



「………どういう意味ですか?」




 エリー先生が放った一言によって、先程とは違い雰囲気がガラッと変わる。表情は変わらないように見えているが、実際にはエリー先生の鋭い視線が天頭先生を射抜いていた。



 物腰柔らかい態度でエリー先生は言ったつもりだが、その瞳は今にも真意を問い質そうとしている。それが普通の視線であればの話し、人によっては恐怖で体が震えてしまう程だった。



 怒らせ勘違いさせてしまったと思ったのか、天頭先生は即座に両手を上げて誤解を解こうとしたのだ。




「誤解ですよ。生徒たちを見守るのも教師の務めですが、エリー先生の場合は入れ込んでいる気がします。特に、一部の生徒たちに………」



「そうですか? 」



「えぇ、別に構いませんがね? 個人に対して入れ込んでいても、ただ頑張り過ぎて見えます」



「………なるほど」




 言われた言葉の数々を聞いた上で、整理し考えているのだろう。本人からしてみれば当たり前の行いだが、周りからは頑張り過ぎているように見えた。



 エリー先生、彼女のことを知れば知るほど良心的な人物だと言えた。一部の生徒たちの相談に乗る事が多いだけに、今までの間で教え子となった者から、そうとう尊敬され慕われている。



 この学園でエリー先生ほどに優秀で信頼できる教師はいないと、教員の間では(もっぱ)らの噂と化していた。彼女の名が上がる度に偉い人物だと言われ、高い評価を受けているのだ。




「宝泉滴、確か家族関係において、最悪な事態になっていると聞きました。セイラさんが、何かあれば即座に行動すると………それに此処には居ませんが、山下君も魔力量の低さにそうとう悩んでいると聞きましたよ。エリー先生」



「そうですね。彼の場合は魔力量こそ低いですが、素敵な才能を持っています」



「そこですよ! 」



「はい?」



「特にエリス・T(ティング)・トゥインクル、彼女は魔法を使いたいと言っているみたいですが、未だに実現していないと………あれだけの身体能力であれば、魔法が使えなくても問題ないじゃないですか? 」




 魔法が使えなくとも問題にはならない、なにせ誰もがこの世界で知っている常識になっているのだ。魔法が全く使えなくても、問題にするような人はほぼ居ないと言える程だった。五種族いる内の獣人族が、魔法をあまり使わずに戦闘を行なっているのは常識だ。



 だからこそ、魔法が使えないとしても問題視されない。例え種族が違えど、現在のところは魔導具が普及していて生活を支えている。いくら魔法学園と謳っていても魔法を重視している訳じゃないのだ。




「彼女ほどの逸材であれば、此の国が所有している騎士団、円卓の十三騎士団(アヴァロン)からスカウトされてもおかしくありません………」




 つまり天頭先生が言いたいのは、要は魔法が使えないとしても気にする事はないということだ。確かにそうだと言える、あれだけの身体能力を持ってして売り込めば、入団することは確実だ。それに対してエリー先生の答えは違った。




「チッ! 何も分かってない癖に………」




 舌打ちの後に皮肉げな言葉、明らかに不満と言える態度のエリー先生がそこにいた。普段とはかけ離れた姿を見せた為か、天頭先生は驚きに目を見開いている。




「エリー先生? 今何か………」



「いいえ、何もありません」



「そうですか………」



「………」




 今の言葉が小さくて聞こえていなかった訳ではないだろう。天頭先生は、言葉の裏にある意味自体が分からない為に、聞き返した結果に過ぎなかったのだ。言った本人もそこを理解していて、何事もないように振る舞っているだけに過ぎない。



 人通りが多いというのに、その周囲は静寂に満ちてしまっている。先程とは違うが、同じように雰囲気が変わってしまった。さすがに場の雰囲気を壊してしまったと思ったエリー先生は、話題を変える事にしたようだ。




「ところで、天頭先生はどうして此処に? まさか………」



「魔法演習の担当を務めているんですよ。見回りですから、変な邪推をしないで下さいよ、エリー先生」



「そうですか? てっきりニア先生を追っ掛けているとばかりに思いました」



「ハハッ! ストーカーじゃあるまいし」



「なら良いんです。あぁ、そう言えば先程、ニア先生を見かけたような………」



「何処です! 何処で見かけましたか⁉︎」



「………」




 すぐさま食い付き天頭先生は辺りをきょろきょろと見回し始め、話しの話題になっていた(くだん)の人物を探している。あまりに簡単に引っ掛かってしまったせいか、エリー先生は片手を頭において呆れていた。




 

 

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