校内放送
入学式初日、無事式を終えて集まった生徒たちはクラスで決め事等つつがなく終えていた。
大抵は委員長を務めたがる生徒はいないが、このクラスはどうやら違ったようだ。
とある女子生徒が早々に委員長に立候補してくれたおかげで問題が起きる事がなく、進められることが出来た。
そのためかクラスの担任を務めている。眼鏡を掛けた優しそうな先生は終始、穏やかな笑顔を絶やさなかった。
もしも委員長のような生徒がクラスに居なかったとしたら、率先してくれる存在はおらず、先生や生徒たち(私自身も含め)は非常に困っていた事だろう。
そう言った意味で言うのであれば、彼女には感謝しきれないほどだ。私は委員長という役職も、クラスをまとめる事も苦手であり荷が重かった。
今後の予定や明日の内容を話し終えた先生は、クラス内の生徒たちを見渡しある言葉を放った………
「………それでは皆さん、帰って構いませんよ。明日元気に登校して下さい、さようなら」
その言葉を残し早々に教室から去っていった。
先生が教室から出た事を確認し、生徒たちは三者三様に行動し始める。二つあるパターンの内の一つは早々に配られた資料をまとめ上げ教室から去っていくというもの。もう一つは、グループに固まっての友達らしきもの達とのお喋りだ。
「さあって、私も帰りますか」
そう思いたった私は、資料をまとめ上げ鞄に入れた。話をするような相手もいないので教室に居ても意味がなかった。なので席から立ち上がって帰ろうとすると………
「すいません、玲夏さん一緒に帰りませんか?」
「………詩音。分かった、ちょうど帰ろうと思っていたし予定も無いから問題ないよ」
「良いんですか?なら一緒に帰りましょう!」
私に声を掛けてきたのは艶やかな黒髪をした彼女、詩音だった。会って早々に彼女から下の名前で呼んで欲しいと言われた。
笑顔溢れる詩音は、一緒に帰れると知って嬉しそうにしていた。
だが、教室から出ようと動き始めた直後、設置されているスピーカーから音が響いてきた。
『………あー、生徒の呼び出しをします。一年B組、小鳥遊玲夏さん。至急学園長室までお越しください、繰り返します。一年B組、小鳥遊玲夏さん。至急学園長室までお越し下さい』
「「「………」」」
そのような放送が校内に流れると、途端に教室内が鎮まりかえった。周りを見渡してみるとなぜか突き刺さる視線の数々に、冷や汗が出てくる。
それもそのはず、二、三年の上級生が校内放送で呼ばれるならまだしも、入学初日に一年の生徒が呼びだされているのだ。
しかも、一度だけだが自己紹介を行なっている為にどの人物かすでに面が割れている。
後は、教室内にいる生徒達の視線と思考を想像してみれば自ずと自分自身が置かれている状況がよく分かってしまう。
「玲夏さん。安心して下さい、わたしは分かっていますから。貴女がそんな人ではないと………」
「………えっ?ちょっと待って詩音。多分それは誤解だから、勘違いだから!」
何故か?詩音は私を見て微笑んでいる。彼女の考えていることが手に取るように分かってしまった。誤解をしている上に、最悪の想像をしていることに………
それは、私が悪い事をもしくは何かやらかしてしまったとか考えているに違いなかった。そのように思われても仕方ないだろう。
学園長室に、しかも入学初日に呼ばれた。それを踏まえて考えてみると、いい方向に考えている人は何か人助けを行なった結果呼ばれたと思い。反対に最悪の結果を考えている人は悪い事をしたと思うだろう。
彼女、詩音の考えた予想は後者であり、誤解をしている。そうでなければそんな事は言わないし成り行きを見守る為に黙っているだろう。
周りの生徒達も少しでも情報を集める為に、その場にいる全員が鎮まり耳を傾けていた。冷たい視線を向けてくる人こそはいないが………
「………詩音。私は大丈夫、何も心配しなくていいから」
「えっ?でも玲夏さんに何かあったら?………」
「もし、怒られる事だったら学園長室じゃなくて職員室に呼ばれるはずだから。それに………いや、何でもない」
呼ばれた理由こそは分からないが、一瞬の間にふと思った事があった。その為だけに呼ばれ校内放送をかけてきたのではと………
「だから、今日は一緒に帰れないかもしれないから先に帰って」
「そうですか………」
「んっ?」
何故だか?詩音は考えるそぶりを見せはじめた。そして考えがまとまった彼女は、ガッシリと私の両手を掴むとある言葉を放った。
「わたしも学園長室に行きます」
「えっ⁉︎」
「わたしが最初からこう言えば良かったんです!」
詩音は考えた結果、付いていけばいいと結論を出したようだ。別に構わないのだが面倒な事になった。鼻息を荒くした彼女は言った。
「ドンと来い!」
「………」
私は不安で仕方なかった。