授業の中止
今回、行なわれる予定だった魔法工学の授業は中止になった。
まさか魔法工学の担当であるニア先生と、山下君が意気投合し始めてしまうなんて。誰が予想出来たのか知りたいくらいには不思議だった。
その後の二人は、序列第八位に関する事を話し合っていた。
「序列第八位。やはりあの人の素晴らしさは、自身で魔道具を作り出してしまうところですよね。本来であれば戦闘用の魔道具を求めては、鍛冶屋もしくは魔道具専門店に買いに行ったりすることが普通なんです。そこから魔法工学の知識を元に、新たに様々な改造等を魔道具に施すのが一般的であり、当たり前なのですが。我らが敬愛する第八位は違いました。己自らが魔物の素材を収集しては魔道具を作り出しているんですよ!まさか委託といった手段に頼る事なく、素材を収集して新しく作り出してしまうとは恐れ入りました。本人自身は魔道具を開発することが専門と、おっしゃっているらしいですが。それと同時に対魔物だけでなく対人での戦闘に長けているんですよね。通常であればどちらかに傾いてしまうのは明白なんですが、魔道具の開発と作成さらに戦闘、よほどのセンスがなければどちらかは必ず挫折してしまいます。まさに神そのものと言った人物があの人、序列第八位ですね。出来ればお会いしたいですね〜」
「そうなんであります。まさにそこなんであります。序列第八位の素晴らしさがそこにあると言っても過言ではないのでありますよ。なにせ第八位は魔法省だけでなく、様々な企業から依頼や引き込みのオファーを受けるほどの人材である上に、頼まれた仕事はきっちりとこなす義理堅い人物なんであります。大抵の者たちであれば、魔法省からの依頼を受けてしまう為に、ほかの大企業を後回しにしてしまう傾向があるのであります。ですが、かのお方は違ったであります。魔法省、大企業の者たちに分け隔てなく接しては、それぞれの依頼を受けて片付けてしまうのであります。魔法省の依頼は魔物の討伐が多い為に、通常の者たちに依頼を頼むと、使えない魔物の素材が出てしまうであります。そうなると今後に役立つはずだった魔道具は、早期の段階で故障もしくは修理をしなければ使えなくなってしまうでありますが。第八位によって依頼された素材は最高の状態で届くのであります。どんなに珍しい物であっても、大企業からしてみればキズが大量にあるのは不良品に見なされる場合が多いのであります。なので第八位の仕入れてくる素材は一種のブランド品と化しているので、知っている人であればこぞって買ってしまうのは明白でありましょうなー」
「ええ、その通りです。まさにそこが第八位の魅力なんです。私の家にある魔道具は、すべてあの人の手によって仕入れられた素材から作り出された物ばかりです。本来であれば数日と経たずに早々に売り切れてしまいますから、生活用品の魔道具を集めるにはとても苦労しましたよ。冷蔵庫、エアコン、ベッド、本棚といった家具にカーテン、そして小物の類いもあるので、今まででそうとうな金額が財布から飛んでいってしまいました。これからは、将来の事を見越して金を使わなければ、明日にでも出るかもしれない新作の魔道具が最悪、買えなくなってしまいますから。」
「「「………」」」
教室にいる生徒たちは全員が黙ってしまっている。二人の会話に口を挟むつもりはない、という訳ではなく挟む事が出来ないので黙っているつもりだ。
私も彼らの会話に混ざろうとは思わない。かれこれ三十分ほど話していた。そんなに時間をかけて話していれば、話題が尽きてしまう上に聴いていれば疲れてしまうはずだ。
至近距離で二人の会話を聴いて、参っていたのが分かったのか詩音が心配してきた。
「大丈夫ですか?具合が悪いなら、保健室に………」
「あぁ、大丈夫、心配しないで」
問題ないと断っておいた。とりあえず詩音には無垢なままでいてほしいと思い、忠告しておくことにした。
「詩音。あれが狂信者の末路だよ、ああはならないでね?」
「分かりました!」
「もしかしたら、将来、エリスもあの二人の会話に混ざる日が来るかもしれない」
「来ねぇーよ!そんな日は、まったく!失礼だな」
「分かりました!」
「雨宮⁉︎ 何が分かりましただ!なにも分かってないだろ!」
さすがのエリスでも、あの二人の会話に混ざろうとは思わない上に、混ざれる気がしないのだろう。
いまだに二人の会話の内容がこちらに流れてくる。どうやらまだ話し込んでいるらしい、そろそろ授業が終了する時間帯になっているが、この会話がいつ終わるのか私たちは気が気でならないのだ。
そう思っていると、ふとニア先生が顔を上げて時計を確認しだした。時間を確認したということはそうゆうことだろう、もしかしなくても先生の口から期待通りの言葉が出てきた。
「あれ?もうこんな時間ですか?ついつい話し込んでしまいました。山下君。あなたとこの様な会話ができるとは思ってもいませんでした。楽しかったですよ」
「こちらこそであります。有意義な時間を過ごせるとは、思っても見なかったであります。次は魔道具の話をしたいでありますなー」
「ええ、そうしましょう。放課後は出来る限りあけときますよ、美味しいクッキーとコーヒーもありますから。魔道具の基礎、改造等の事についても、あともちろん第八位の事については必須ですね」
「了解であります!」
ニア先生はその言葉を最期に教室を出て行った。生徒たちは、やっと二人の会話と授業が終わった事に気を緩ませ緊張をほぐしている。
まさか授業が終了してしまうほどだとは思わなかった。しかも放課後に話しをする予定からまだ話し足りないようだ。
その事から他の生徒がどう思っているかわからないが、二度と長話しを聞きたいとは思わないだろう。その事だけは確実に言えた。
そして私が思ったことはただ一つだけ。
「私、次の魔法工学の授業。休もうかな」
周りで私の一言を聞いていた生徒はなにも言わずに頷いた。