隠された魔力
「それでは、山下君。手を出して水晶にかざしてみてください」
「えっと?こうでありますか?」
何気なく手をかざした山下君は、次の指示をもらう為に顔を上げた。
「魔力を送る前に、深く息を吸って深呼吸………」
「す〜は〜す〜は〜………」
何故か呼吸するように言い出した先生は、山下君が忠実に指示を守ったことに満足している。
そして先生は先程の事がなんでもないといわんばかりに言った。
「まぁ、深呼吸してもまったく意味、効果もありませんから魔力を送っちゃっていいですよ」
「………」
今ので呆れてしまったのだろう、山下君は完全に緊張がとれたといわんばかりに先程とは違う表情をしていた。
早速とばかりに魔力を水晶に送った。その結果、早々に水晶の魔道具に変化が訪れたのだ。
徐々に茶色く輝き出した水晶に、教室の生徒たちは「おぉ!」と前のめりに身体を倒しその光景に魅入っていた。
「先生、これは?………」
「………土属性の魔力ですね?普通です」
「普通ッ⁉︎」
先生の言葉に驚き唖然としていた。誰でもいきなりそんな事を言えば驚いてしまうのは当然だろう、先生は山下君に優しく微笑んだ後に他の生徒に言った。
「それでは、誰からでも良いので順番に、鑑定しに来て下さい」
先生のその言葉に席から立ち上がっていく生徒たち、水晶に魔力を送っては先生に結果を尋ねていっている。
私は席に座ったまま傍観を決め込んでいると、誰かが近づいて来るのに気がついた。
やってきたのは詩音だ。話しでもしに来たのかおもむろに口を開いた。
「玲夏さん。鑑定しに行かないんですか?」
「詩音、まだ人がいるから私は後で良いよ………」
なにせ水晶の周りには人だかりが出来て、とても近づけないでいた為にこうして席に座って待っていた。
今もなお生徒たちは、手をかざして魔力を水晶に送っては先生に結果を聞いている。
「あっ!水色に光った⁉︎」
「水属性の魔力ですね、回復や支援に向いている属性です」
「エリー先生、これは?」
「赤く光りましたね、火属性の魔力です………攻撃、威力が高い属性ですよ」
結果を尋ねては満足していき、次の生徒と交代しては自分自身の属性を見極めていった。
その間、詩音は何か気になったのか唐突に私に聞いてきた。
「あのような魔道具が有るって知っていましたか?私はまったく知りませんでした。どこで作られたんでしょうかね?………」
「さッ、さぁ〜、有名なところの企業が作ったんじゃない?」
詩音の疑問になんとなくで返した私は知っている。あの魔道具がどこで、何のために作られたかを私は知っていたのだ。
なにせ、あの魔道具を作成したのは父親の会社だ。
色別の魔水晶を作成するのに私が力を貸してようやく完成した魔道具であった。
魔眼、私の持つ瞳には魔力量だけでなく属性を色として見る機能が備わっていた。もちろん魔眼には、それだけでなく状況を詳しく把握する力を持っているのだ。
「迷宮産………いえ、エリー先生はとある企業が作成したと言ってましたが、どのように作ったんでしょうかね?魔力をそれぞれの色に振り分けるには、どう考えても基準となる物が必要ですけど?………」
「っ⁉︎」
鋭い考察に驚いた。この魔道具は詩音が言った通りに基準となる物が必要になってくるのだ。
作成するだけであれば魔道具等の知識を持った技術者、技工師が造り出してしまうだろう。
だが、実験段階になると話しが変わってくる。基準となる元の能力が無ければ確認の仕様がなかったし、結果だけを見る、それだけであれば魔力を流して確認すれば良かった。
だからこそ私が持つ魔眼という異能があって初めて、色別の魔水晶が作れたのだ。
とりわけ、祖父である学園長が私に内緒で持って来たものだろう。あの魔道具はあまり使われておらず倉庫の肥やしになっていたはず、その為に私に話すことはなく父さんに許可を得て学園に持って来たのだ。
「どうかしましたか?玲夏さん?」
「んっ?いや、なんでもないよ」
「そうですか?それならいいんですが?何か私に関する事が聞こえた気がするんですが?………」
「………きっ、気のせいだよ!」
私は心のなかで、詩音は天然でポンコツだと思っていたが少しバレてしまっているようだ。なので平常心を保ちつつ話しを変えた。
「そういえば、詩音はどんな魔法が得意なの?」
「魔法ですか?そうですね、属性魔法の水と風が得意ですが………玲夏さんは?」
「私は氷属性の魔法が好きだから結構使ってる」
「氷属性ッ⁉︎って、あの上位属性ですよね?すごいです!」
手放しで喜び出した詩音、上位属性は基本とされる四大属性の上位互換である為に、能力的に強いとされていた。
水の上位属性である氷属性は発動速度が遅く扱いづらいとされるが、防御面に秀でているだけでなく、攻撃にも向いたバランスの取れた属性と呼ばれていた。
そのために上手く扱えば、攻守ともに優れた魔法が覚えられるのだ。
だから私は氷属性の魔法を好んで使っているが詩音には言えない、戦闘だけでなくその他にも使っているなんて口が裂けてもいえなかった。
蒸し暑い夏を乗り切る為に、氷属性の魔法を使い涼んでいたなんて言えない、なにせ魔法を使っていればすぐに魔力は枯渇してしまう為に、人は魔力を温存する傾向にある。
家にいるのであれば、専用の魔道具を使っては身体を冷やしているが外に出れば熱風が襲ってくるので重宝していた。
私は顔を下に向いて隠していると、教室内にいた生徒たちが騒めきだした。
その理由と原因は見た瞬間に分かった。
委員長である、彼女が魔道具に魔力を送ったことで白い輝きを放っていた。元々は魔力がそのような色をしていると分かっていたから予想していたが………
やはりこうなったと、あらためて確信した。
「エリー先生、これは一体?………どんな魔力ですか?」
「………すいません、私にも分かりません」
「えぇ?」
分からないと口に出した為かまたもや教室内の生徒が騒めきだしたが、すぐさま先生が生徒を落ち着かせて言った。
「落ち着いて下さい、この事は他言無用でお願いします。いいですね?」
生徒たちは何か言いたげだったが、察したのだろう全員が無言で頷いた。
先生は教室を見渡し鎮まった後、生徒の名が書かれた名簿に視線を落とした。まだ行なっていない者がいるか確認したのだろう、そして視線を前へと戻した先生は言った。
「雨宮さん、エリスさん、小鳥遊さんがまだ終わっていませんね?前に出てきて鑑定して下さい」




