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5話

彼の話はいまいちよくわからない。

私は過去や未来、ましてや違う世界の私に会ったこともなければ話したこともない。かろうじて夢を見た内容が該当したとしても他人事だ。

そもそも違う世界があることは今身をもって体験してるからあると言えても、違う世界の私とはなんだろう。

もはや別人では?

いや、そんなことよりも私と彼はなんだったのか。

恋人同士だったというのもまるで実感が湧かない。

少し頭が痛くなる。

「大丈夫?」

眉を寄せた私の表情から頭痛を読み取ったのか、彼が心配そうにいう。

「……格好悪いなんて、あなたは言わない」

なにを言ってるのか自分でもよくわかってなかった。

彼は驚いたように瞠目していた。

「……自分が最高だって格好いいって自分で言って笑うような…いえ、なんていえば、」

頭が痛い。

私は彼をまだ知らないのに何を言ってるのか。

「思いだしたい?」

彼はいう。辛いよと。忘れたままのがいいこともあると。

ないほうがいい?

それはいやだ。ないほうがいいと決めるのは私だ、彼じゃない。

「…私が…決めるわ…」

耐えられなかった。視界は歪み、反転する世界。

倒れる、と思ったところに世界が斜めで止まる。彼が抱き留めてくれたのだと、この時は気づけなかった。

「……君は……」

「……」

「……少しお休み。立てつづけすぎたんだ」

そこで私の意識はついえた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



夢の中、私はいろんな世界へいった。かならず彼もいた。

時には研究者同士、時には主人と従者、人でないこともあった。

そしてこの世界。

彼いわく300年前のこの世界、私は今の顔と同じ容貌で、彼の容貌もこの世界にいた彼と同じだった。

私たちは家柄のいい家庭でそれぞれ育ち、ライバル関係にあったにも関わらず結ばれたらしい。

そうだ、彼はどの世界でも私の近くにいて、私の愛の対象だった。

彼もまた私を好いてくれていた。

見た目は違えど、彼の本質はどの世界でも同じだった。

時に不遜で自分に絶対的な自信を持ち、鼻持ちならない彼にいらつくこともあったけど、私はそんな彼が好きだった。

今の彼は何?

ここで見ているたくさんの彼とは全然違う。

私の記憶をいじった彼。

泣きそうになって別れを告げた彼。

あの日本にいた彼と私の、その世界だけ見られてない部分がある。


最後に見えたのは私がこの世界にくるときのこと。

勤務の帰り、バスから降りたら地面がゴムのように柔らかくなって私の足が体が沈んでいった。

頭が痛くて吐きそうだった。

余程顔面蒼白だったのだろう、見知らぬ親切な女性が大丈夫かと声をかけてきて、私は巻き込むわけにはいかないと大丈夫ですと足早にその場を去った。

けれど足元の柔らかさは変わらずひどくなる一方だった。

沈む。

あぁもうだめかも、と思ったのは下半身が全部埋まったときだった。地面のうねりは増して泡だつ波のよう。それに飲まれ私はあの世界から姿を消した。

目を開くと空にいた。

文字通り身一つで。

青空と少しの雲、下を見下ろせば広大な海、いくらか小さな島が見えた。

頭痛は残っていたけど、吐くほどじゃなった。そしてひどく冷静だった。

空に浮かびながら、いろんなものが見えた。

私の存在を察した世界の能力者、近くの島にすむ人々、どこか遠くに感じた彼の気配。

追われると反射的に察した。見を隠さないとと本能が告げた。

急いで近くの島へ降り立つ。そこには大きな屋敷に小さな女の子と執事や侍女。なぜここにこの人たちがいて、どういう人たちなのかもすべて見えた。

私は記憶を書き換えて、自分の姿を変え、ここに身を寄せた。

その時、自分の記憶まで誤魔化してしまったとを悟る。能力者としては最高峰の力になり得る程の書き換え。これは彼の力だ。


「……」

目が覚めたときはやっぱり天蓋着きのキングサイズのベッドの上だった。

頭痛はもうなかった。

時計を見やる。あれから2時間ほど経っている。思ったほど時間が経っていない。いやまさか1日かかってるとか?さすがにそれはなさそうだけど。

「……」

扉を開けて外に出る。廊下には誰もいない。

屋敷には最低限しか人がいないのだろうか。下の階に降りてようやく掃除をする侍女をとらえた。すれ違うときに会釈される。

さらに進むと朝に彼の側にいた執事を見た。

「あの」

「はい、奥様。お目覚めになられましたか」

ん?奥様?

言葉のニュアンスに違和感を感じつつも私は用件をすませることを優先させた。

「あの人は?」

ここでの彼の名前が何かを知らないことにいまさら気づいた。まさか前の世界と同じ名前ではないだろう…私は300年前の私の名前を使ってるから、彼も同じだろうかと思ったけど確実でないのに適当にいうわけにも行かない。

彼の名を言わなかったことに執事は何も思わなかったみたいで(それか隠してたか)、変わらぬ口調と態度で答える。

「旦那様は商談で外に出ております。お戻りは昼過ぎと」

「そう…ありがとう」

戻るまでまだかかるか。


私は時間を潰すがてら屋敷内を散策することにした。

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