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2話

「あの家では記憶の書き換えが消えただろうから。こちらで少し休むといい」

なんでこの人は私に優しくしてくれるのだろう。

いや、なんのために私の元へ来たのだろう。

ベッドにおろされる。

ひどく優しい所作に泣きたくなる。懐かしい気がする。

「なんで」

思いのほか私の声は掠れてて、聞こえないぐらいか細かった。

それでも彼にはきちんと届いてたようで、ゆっくりそれはもう優しい手つきで撫でる。髪の毛を通り、頬を撫でる。

知っている。

この優しい所作を。

「……服は少ないけど用意してある。夜着でいいかな?」

彼はクローゼットから服をとりだして戻って来る。

体はあちこち痛いし、気持ちが悪かったけどベッド際へ腰かけた。

眩暈はまだ残っていた。


「…なんで、私を、ここへ?」

「……ここにいれば世界の魔法使いたちに君が異邦者とばれずにすむからさ」

どういうこと?

さっきもあの家の記憶の書き換えがと言ってた。

確かに私はあの家の娘ではなかった。記憶操作してあの家の娘として生活してた。

短い期間だったようだけど…姿を変えて記憶を変えて…そんな魔法を私は使えてたわけだ。

どうして?

さっき彼は私のことを異邦者と言った。

この世界の魔法使い…能力者たちに私の存在がばれたら、よくない。違うところから来た人…異邦者…異質物。

「君は自分を疑ってしまった。思い出し始めたら止まれない。彼女らにも直にすべて知られてしまう…なら、」

一気に次のステージにいくしかなかった。

私をバラけさせようとした妙齢の権力者が、あの程度の攻撃で終わるわけがなかったんだ。一度の綻びからすべてがさらけだされ、知れてしまったら私はもしかしたら殺されていたのでは?

いや、そもそもこの世界での死は個人の寿命だ。あるとしたら拷問としての永遠のバラけ。私の認識で考えたら一度受けたら死んでしまう分子レベルでの分解。

それは嫌だ。嫌悪感で体が震えた。

「…僕の責任なんだ…だから、きちんと責任はとるよ」

「どう…いう、こと?」

私の綻びは私自身の能力による。

彼は関係ないはずだ。

「…その内話すよ。今はゆっくりお休み」

彼が私の目元に手を添える。

途端眠気が全身を襲い、私は意識を手放した。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



夢を見た。

空と海との狭間。時間がとまったかのような時間。

遠くに感じる懐かしいなにかと、得体の知れない驚異。

「そんな…が…」

聞こえるはずのない声が途切れ途切れで聞こえる。うっすら映像としても見えてきた。

大きな屋敷で書類に目を通してた最中、私を感じとった優しい気配。

「……あの時の……ことを…」

焦っている。そして困っている。

「あなた、誰…?」

「……えて…かい?聞こ…も?」 

「…私、貴方のこと、知ってる?」

夢見心地とはいえ記憶にない。けど、知ってるような気がするのは何故なのだろう。

「……え?」

次に悪寒が走り、逆方向を見やる。

怒りとも恐怖ともつかない感情がぶつけられている。

私を拒否して壊そうとしている。

「…なに?」

彼方、何かがやぶってやってきたとか、侵入者がとか、驚異だとか、暗い感情と同時に攻撃的な言葉。

この世界になじむ前にバラけさせろと口々に言う。バラける?なにそれ?なじむって?


「…いけない、早…隠……」

さっきまで話してた声が私に言う。

それはわかってる。全身が逃げろといっているんだもの。

私は当たりを見回して、眼下にある島に建物があることを知ってすぐに島へ降り立った。窓から中を覗くと小さな子供と執事に侍女とおぼしき人、数名。

その姿が目に入ると、子供が伯爵家の子供で休みの期間、この島にきてることが見えた。形として見えてるわけではなく、認識として私の頭に入ってくる。

隠れるにはもうここしかないけど、隠れるにしてもどうしたら?

「…僕、……貸すから」

「え?」

「記憶……、……んで」

なんとなくそれが記憶をいじるということだとわかる。けど、どうやればいいの、そんなSFみたいなファンタジーみたいな力。

「僕と……」

時間がない。暗く黒い感情が大きくなって迫って来ていた。

とぎれとぎれの言葉から、手伝ってくれることがわかる。

私を助けてくれるの?なんで?私は貴方を知らないのに。

でも、ここは信じるしかなかった。助からないと。そう思った。


「……」

意識を彼方に向けた。

なにかふんわりした心地の中、なにをすればいいかがわかる。

室内にいる子供の肩書、記憶を私に移し替える。

この世界であの屋敷の子供は私、彼女は休み期間だけ私と過ごす友達。

世界の記憶の書き換えよう。

私は伯爵家の娘。

異邦者はいなかった。

「…った……で、…かせた」

「……」

薄れ行く意識の中、お礼を言ってないことに気づいた。

私が使えたこの力は貴方の力ね。



「お嬢様?」

目を閉じて開くと、私は幼女だった。


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