16話
後日、幸いなことに領地境の残党は無事確保された。
あのあたりの治安は大丈夫、確保された残党については今後適正な処遇があるが、その後は隣領地との話し合いの元、新しい職の斡旋がある。そこで元の強盗に戻るか、仕事を得て働くかはあちら次第。
「フィル」
「何?」
「前月の経理処理終わったわ」
「ありがとう」
時計を見れば1時間後に商談相手との面会がある。
彼にそれを伝え、30分で終わらせると返事が返ってくる。
今日はもうやっておきたい仕事は済んだから、私は彼に一言伝えて庭に出ることにした。
前に庭師と話してバラの拡充をしたけど、見事に咲いてくれた。家庭菜園も並行して庭は前より騒がしくなったと思う。かといって、散らかってないのはここの庭師の力だろう。
「奥様」
庭師に呼ばれ、話を聞く。庭に問題はなく、順調に育っている。
庭師に感謝して、バラ園を超えた先のお手製のブランコにたどり着く。傷みをみてまだ使えることを確認する。
私もたまに漕いだりするけど、これはこれからも補強しつつ残しておくのがいい気がする。
さらに奥、私が好きで作った場所。
ガーデン用テーブルと椅子を揃えて、紅茶を飲める場所を作った。
外で食事をしたり、紅茶を飲んだりするのが好きだからこうして天気のいい日は庭に出て一人で楽しんでたりする。
自分で紅茶をいれるのは寝室にいる時ぐらいしかない。
たまには誰にもお願いせずに自分でやりたいときはここにくることにしてる。
紅茶をいれるだけなんだけど、それで充分だった。
「……」
心地好い風を感じながら、多くの映像が見えた。
過去現在未来平行世界全ての世界にいる私。
白昼夢…というよりは思い出す作業みたいだった。
たくさんの世界が流れて私の中に集約される。
日本という世界にいた私も。
「リズ」
「…フィル」
珍しい、彼がここに来るなんて。
「僕もいい?」
「えぇ、どうぞ」
彼が紅茶を自分でいれている。
見たことがある。いろんな世界で、前の…日本という世界でも。
全ての世界で私達はこうして日常をすごしている。
「…仕事は?」
「終わらせた。一杯頂いてから商談に行くよ」
「そう」
風が吹く。
あたたかい光が木陰から覗く。
たくさんの世界の私と、今の私。
たくさんの世界の彼と、今の彼。
「…そっか」
この世界の私は私しかいない。
全ての私が存在しても混ざらない。
私は私だ。
前の世界の私がこの世界に来た時点で今の私は私になった。
同じでも違う。
違うけど共にあるのが私達なんだ。
あぁ、やっと、わかった。
「どうかした?」
「…ねぇ、フィル」
「うん」
「これからは一緒よ」
「…それ、は」
「そうね。まずはプロポーズからでもしてもらいましょうか」
今の世界の私は、今の世界の貴方が好きよ。
この世界に来たとき、私も貴方も今の私達になった。
けして、どちらかだけが前の世界からそのまま来たわけじゃない。
「ね、フィル?」
最初から始まってるなら、何も聞いてないのに、夫婦っていうのも。
いろいろすっ飛ばしてるし、少しくらい形あるものを提供してもらってもいいでしょう。
「…はは、そうだね」
「私が遅れてただけかしら?というより、やっと起きたとこみたいな感じかしら?」
「目覚めた?」
「えぇ」
瞳を見る。
彼の瞳は他のいろんな世界と同じで自信で輝いてる。
そこにうつる私もまたしっかりとした形で彼を見ている。
私が見たかったのはこれだ。
ずっと待ってた。
ずっと探してた。
「リズ」
「えぇ」
「僕と結婚してくれる?」
「もちろんよ」
始まった。
回り道してたかもしれないけど、思い出して、納得して、認めることができた。
これで私はこの世界にいるって決めることができた。
超えるというのはこういうことなのかもしれない。
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