14話
1ヶ月、1ヶ月も経って私はまだもやもやしてる。
「だから何度も言ってるじゃない!」
「僕は嫌」
「仕事なのよ?!」
「その程度で僕の仕事がなくなるわけじゃない」
「問題はそこじゃないのよ、先方との約束はリスケの上のリスケなんだから!」
「リズは真面目すぎだよ」
しかも、頑固、臨機応変にいきなよと、言われる始末。
私もやむを得ない事情なら再々リスケも仕方ないと思うでしょうけど、今回の理由はお粗末だ。
朝起きていきなり、晴れてていい天気だしデートしよう、なんて…デートは嬉しいけど、スケジュールこなしてからもできるもの。それを最優先する?
「…なんか前にもこんな会話してた気がする」
「そう?」
「…いいわ、貴方引かないでしょうし」
「そもそも僕会いたくないんだよね、カーリス女史」
私もあの女性はまだ怖い。バラされる恐れ、見抜かれるかもという緊張感、あちらがある程度疑いを晴らしたとしても、彼女のこと可能性として頭の隅にはあるだろう。
けど、私は前の世界に帰るつもりはない。この世界が能力に目覚めた私たちには定着しやすいと考えてる。
もちろん前の世界でも生活はできるし、能力のコントロールはできるだろう。場合によっては私の能力は消えるかもしれない。
「気持ちはわかるわ。けどこのまま絶縁というわけもいかないでしょう」
私は自分の能力がある方がいいと思ってる。彼は前の世界で力ある故に孤独だった。人に恵まれなかったわけでもなく、金銭や物に恵まれなかったわけでもない。
ただ安心して存在できない。これは私が能力を知っていてもいなくても同じだった。
となれば、コントロールの有無に問わず、能力が当たり前に存在する世界にいた方が未来は明るいと思う。
「ティムが相手してるさ」
「…まぁ、彼は公爵と仲良いけどね」
「リズもわかってるなら話が早い!ティムには連絡したから遊びに行こう!」
「え?!連絡?!」
電話もしてる素振りなかったのに。
「能力使った」
私が何を言いたいかわかった上での回答。あぁ、もう使いこなせるようになった途端の使い方が子供だわ。遊びたいから、即連絡するための手段なんて。
「子供…」
「なんとでも」
気にしませんとばかりに開き直ってる。彼が大丈夫ということは大丈夫なんだろうけど、それでも納得できない。先方との約束は約束だし。
「そうだ」
「どうしたの」
「旅行行こう」
「いきなりなに?デートじゃなかったの?」
「ここきてずっとリズと出かけてない」
あくまで私用でのことらしい。確かに社交界がどうとか、領地がどうとか、仕事がどうとかで出たことはあっても、私用はない。彼が街の様子を教えてくれるぐらいだった。
「…そうね。旅行いいかも…」
私の言葉にぱっと顔を明るくする。あぁ本当いい顔するようになったわね。
「じゃぁ」
「ただし、日帰りにしましょう。最初言ってた通りデートよデート」
明日は商談相手と取引が3件も入ってる。事務仕事を後回しにしても、なかなか外せない約束だし、いきなり3件もリスケするのは難しい。
私用で一日使うなら今日がいい。
「泊まりでもいいじゃないか」
「…それはさすがに」
案の定、宿泊で行きたいらしい。
そこはきちんと約束するが今じゃないことを伝える。
私の意思が固いことを察して彼がおれた。日帰り決定だ。
「よし、じゃぁ、準備しよう」
行動早く、周りに手早く指示を出しはじめる。
馬車の用意、事務仕事の簡単な引き継ぎ…彼は完全ではないものの取り戻しつつある。
私はまだあぐねている。
彼と自然に話せているし、前の世界の私と彼の会話そのままだ。
私自身もそれに違和感を感じていない。
けど、落ち着かない。
彼とのやり取りを他人事として見ていることが、自分でないと言ってる気がして、置いて行かれてるような気さえしてる。
私はこのままでいいのだろうか。
必要なことは思い出せた。
私たちは進むことが出来ていると言える。
けど、これらすべてが解決して、だからと言って夫婦として仲良く暮らしましためでたしめでたしを受け入れることが出来るのだろうか。
そうなのだと自分に入れ込めばそうなるのだと思う。
ただどうしてももう1押し、私が納得する何かが欲しかった。
きっともう戻る必要はないし、彼自身は解放されている。
あとは私だけだ。




