↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

お礼はホワイトチョコレートにて

作者: 桜井健一
掲載日:2009/05/23


 僕は、一人、大学のキャンパスを歩いていた。

 右手には、薄型カバンを抱えている。

 季節も秋になり、近頃では、木の葉もグリーンからオレンジへと色を変え、あちらこちらに“落葉絨毯”ができ始めていた。

 「あっっ」

 銀杏の実を踏んでしまった。

 「おいおい、勘弁してくれよ。臭くてたまんない」

 ナイキのスニーカーが嘆いた。

 「ゴメンゴメン。これからは、もっと、気を付けて歩くよ」

 「うん。頼むよ」

 どうやら、ナイキのスニーカーは、納得し、勘弁してくれたようだ。

 僕は、門から教室までの約4百メートルの“紅葉通り”を、校舎に向かって歩いていた。

 「あぶなーーーいっ!」

 声のした方を向くと、何かが飛んでくる。

 ‐‐バレーボールだ!

 僕は、とっさに身を低くかがめ、3歩左へ避けた。

 「ビチャッ」

 ………左足で、銀杏を踏んでしまった……。

 「………」


 僕には、つい最近まで、ひとみという恋人がいた。

 その恋は、1週間前に、終演した。

 原因は、長い交際の副作用で、お互いに積もり積もったものが最高潮に膨れ上がり、ついに、バブルのようにはじけてしまったことにあった。


 携帯のデジタルを見ると、十二時二十分を表示していた。

 食券を買い、カウンターに行き、食券と引き換えにカツカレーを受取る。

 空いているテーブルを見つけ、そこに着く。

 「いただきます!」

 朝から何も食べていなかったので、一目散に、カツとカレーを胃へ送り込む。

 水を二口飲み、また、カツとカレーを胃へ送り込む。

 ランチタイムだけに、食堂は、ほぼ、満席である。

 夢中でカツカレーを平らげていると、

 「あの……スミマセン」

 と、声をかけられた。

 「‐‐ん?」

 手を動かすのを止め、顔をあげる。

 目の前には、同じクラスの女性が、トレーを持って立っていた。

 「スミマセン……。何か、満席で、座るところがなくて……」

 「あ、……そうなんだ?」

 「相席させていただいても、よろしいですか?」

 「あ、……うん。もちろんさ」

 僕は、快く、“OK”した。


 彼女〜真希〜は、ゆっくりと、サンドイッチセットを食べていた。

 僕は、カツカレーの残りを食べている。

 彼女は、可愛らしい顔立ちをしていた。

 カジュアルなファッションで身を包んでいる。

 「‐‐そういえば、僕らが話をするのって、初めてじゃない?」

 僕が、そう言うと、彼女は、「ウン」と肯いて、

 「そうだよね。クラスメイトといっても、大学じゃほとんど一緒になることがないし……。それに、なかなか話す機会もないしね…」

 と言って、ストローでオレンジジュースを口に運んだ。

 「そうだね」

 僕も、軽く微笑んだ。

 その後、僕らは、色々な会話をして楽しい時間を過ごした。

 勉強の話、サークルの話、趣味の話に、ファッションの話(彼女の得意分野だということだ……)等々。


 「おい、見たぜ。君、今日の昼、可愛い女の子と二人でランチ食べてたろ?」

 午後の授業も終わり、僕と、親友のタケオは廊下を歩いていた。

 「ああ、たまたま相席になったんだよ。同じクラスの子だった」

 「なかなか、可愛い子だったじゃないか」

 「そうかい?」

 僕は、なぜか、少し嬉しい気分になって、微笑んだ。

 「お似合いだったぜ」

 「ハハハ、たまたま相席になっただけなのに、お似合いも何もあるかい?」

 「それを、出会いっていうのさ。何事にも、初めに出会いがあって、それから、進展していくのさ」

 「う〜ん、そういうものかい?」

 「そうさ。人間関係の基本だよ」

 僕は、タケオの話を、ただ、笑って聞いていた。

 廊下の向こうから、一人の女性が早足でやって来た。

 「ヒロコ」

 タケオも、足を早める。

 その女性は、笑顔でタケオの元へやって来ると、

 「ねー、一緒に帰ろうよ」

 と、嬉しそうに言った。

 「ああ、そうだな」

 タケオはそう言うと、僕を見て、

 「じゃあ、また明日な」

 と、その女性と一緒に行ってしまった。

 ‐‐ふう、やれやれ。

 僕は、苦笑いをして、軽く頭をかいた。


 僕は、窓の外を見ながら、ゆっくりと歩を進めていた。

 秋の夕焼けは、オレンジ一色で、とても鮮やかだった。

 キャンパスの木々も、オレンジ色に染められ、影を長く伸ばしている。

 階段を降りようとした時、後ろから声をかけられた。

 ゆっくりと振り向く。

 夕日に染まった女性が、一歩一歩、こちらへやって来る。

 ‐‐真希だ。

 「やあ、お昼は、どーも」

 と、僕は軽く微笑んだ。

 真希は、僕を見ると、

 「こちらこそ」

 と、嬉しそうに微笑んだ。

 二人は、階段の前で向かい合い、足を止めた。

 左から夕日に照らされる僕と、右から夕日に照らされる真希……。

 「あの……」

 と、彼女はショルダーバッグに手を入れると、

 「これ、お昼のお礼に……」

 と、何かを取り出した。

 僕の目の前に差し出されたもの……。

 それは、秋の夕日でオレンジ一色に染められた、新品のホワイトチョコレートだった。

 ‐‐秋の夕日は、二人に、新しい恋を運んできてくれたようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。