お礼はホワイトチョコレートにて
僕は、一人、大学のキャンパスを歩いていた。
右手には、薄型カバンを抱えている。
季節も秋になり、近頃では、木の葉もグリーンからオレンジへと色を変え、あちらこちらに“落葉絨毯”ができ始めていた。
「あっっ」
銀杏の実を踏んでしまった。
「おいおい、勘弁してくれよ。臭くてたまんない」
ナイキのスニーカーが嘆いた。
「ゴメンゴメン。これからは、もっと、気を付けて歩くよ」
「うん。頼むよ」
どうやら、ナイキのスニーカーは、納得し、勘弁してくれたようだ。
僕は、門から教室までの約4百メートルの“紅葉通り”を、校舎に向かって歩いていた。
「あぶなーーーいっ!」
声のした方を向くと、何かが飛んでくる。
‐‐バレーボールだ!
僕は、とっさに身を低くかがめ、3歩左へ避けた。
「ビチャッ」
………左足で、銀杏を踏んでしまった……。
「………」
僕には、つい最近まで、ひとみという恋人がいた。
その恋は、1週間前に、終演した。
原因は、長い交際の副作用で、お互いに積もり積もったものが最高潮に膨れ上がり、ついに、バブルのようにはじけてしまったことにあった。
携帯のデジタルを見ると、十二時二十分を表示していた。
食券を買い、カウンターに行き、食券と引き換えにカツカレーを受取る。
空いているテーブルを見つけ、そこに着く。
「いただきます!」
朝から何も食べていなかったので、一目散に、カツとカレーを胃へ送り込む。
水を二口飲み、また、カツとカレーを胃へ送り込む。
ランチタイムだけに、食堂は、ほぼ、満席である。
夢中でカツカレーを平らげていると、
「あの……スミマセン」
と、声をかけられた。
「‐‐ん?」
手を動かすのを止め、顔をあげる。
目の前には、同じクラスの女性が、トレーを持って立っていた。
「スミマセン……。何か、満席で、座るところがなくて……」
「あ、……そうなんだ?」
「相席させていただいても、よろしいですか?」
「あ、……うん。もちろんさ」
僕は、快く、“OK”した。
彼女〜真希〜は、ゆっくりと、サンドイッチセットを食べていた。
僕は、カツカレーの残りを食べている。
彼女は、可愛らしい顔立ちをしていた。
カジュアルなファッションで身を包んでいる。
「‐‐そういえば、僕らが話をするのって、初めてじゃない?」
僕が、そう言うと、彼女は、「ウン」と肯いて、
「そうだよね。クラスメイトといっても、大学じゃほとんど一緒になることがないし……。それに、なかなか話す機会もないしね…」
と言って、ストローでオレンジジュースを口に運んだ。
「そうだね」
僕も、軽く微笑んだ。
その後、僕らは、色々な会話をして楽しい時間を過ごした。
勉強の話、サークルの話、趣味の話に、ファッションの話(彼女の得意分野だということだ……)等々。
「おい、見たぜ。君、今日の昼、可愛い女の子と二人でランチ食べてたろ?」
午後の授業も終わり、僕と、親友のタケオは廊下を歩いていた。
「ああ、たまたま相席になったんだよ。同じクラスの子だった」
「なかなか、可愛い子だったじゃないか」
「そうかい?」
僕は、なぜか、少し嬉しい気分になって、微笑んだ。
「お似合いだったぜ」
「ハハハ、たまたま相席になっただけなのに、お似合いも何もあるかい?」
「それを、出会いっていうのさ。何事にも、初めに出会いがあって、それから、進展していくのさ」
「う〜ん、そういうものかい?」
「そうさ。人間関係の基本だよ」
僕は、タケオの話を、ただ、笑って聞いていた。
廊下の向こうから、一人の女性が早足でやって来た。
「ヒロコ」
タケオも、足を早める。
その女性は、笑顔でタケオの元へやって来ると、
「ねー、一緒に帰ろうよ」
と、嬉しそうに言った。
「ああ、そうだな」
タケオはそう言うと、僕を見て、
「じゃあ、また明日な」
と、その女性と一緒に行ってしまった。
‐‐ふう、やれやれ。
僕は、苦笑いをして、軽く頭をかいた。
僕は、窓の外を見ながら、ゆっくりと歩を進めていた。
秋の夕焼けは、オレンジ一色で、とても鮮やかだった。
キャンパスの木々も、オレンジ色に染められ、影を長く伸ばしている。
階段を降りようとした時、後ろから声をかけられた。
ゆっくりと振り向く。
夕日に染まった女性が、一歩一歩、こちらへやって来る。
‐‐真希だ。
「やあ、お昼は、どーも」
と、僕は軽く微笑んだ。
真希は、僕を見ると、
「こちらこそ」
と、嬉しそうに微笑んだ。
二人は、階段の前で向かい合い、足を止めた。
左から夕日に照らされる僕と、右から夕日に照らされる真希……。
「あの……」
と、彼女はショルダーバッグに手を入れると、
「これ、お昼のお礼に……」
と、何かを取り出した。
僕の目の前に差し出されたもの……。
それは、秋の夕日でオレンジ一色に染められた、新品のホワイトチョコレートだった。
‐‐秋の夕日は、二人に、新しい恋を運んできてくれたようだった。




