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MIB 1st contact  作者: 光輝
■第5話 カブル救出大作戦編 (4P)
17/42

1.母星の願い

《今夜、流星群が見頃を迎えます。本日の天気は、流星の観測としては好条件となり……》


ニュースかたわら、エレナはせっせとパンのカッターシャツのボタンを縫い付けていた。先日の幽霊屋敷の際に、ジュリアがパンから無理矢理引きちぎったものだ。

パンはゴミ箱に捨てていたのだが、エレナのもったいないおばけが顔を出して今に至る。


「へー! 大したもんだな」

寝起きのゴハンがその様子を感心に見入っていた。

エレナは懸命にボタンをつけつつ呟く。

「手縫いはやっぱりちょっと不恰好かな……新しく買った方がよかったかも」


それをゴハンは微笑ましくも、なんとも言えない心持で見守った。

パンはブランド志向で、高級なものしか身に着けない。本部では洗濯は全部クリーニングだし、軽いほつれでも買い直すか、わざわざブランド店に仕立て直しに出すほどなのだ。引く手あまたの女性からの高価なプレゼントも、〔気持ち悪い〕と処分してばかりいる。

そんなパンが一度捨てたゴミ、しかもド素人が修繕したものにいい顔をするわけがなかった。しかし、早起きしてせっせと作業するエレナに口ぞえなんてとてもできない。ゴハンができることといえば、パンの対応にエレナが傷つかないよう配慮することだけだった。

ゴハンは気まずげに、ソファで寝るパンを見た。見てちょっと驚いた。

いつからだろう、パンは肘置きに肘をつき、ゆったりとエレナを眺めていたのだ。なんだか、どこかちょっと嬉しそうに見える。


「……よし、できた!」エレナは一息つき、広げてみせた。

「う~ん、ちょっとシワになっちゃったかな」

難しい顔をするエレナの手から、するりとカッターシャツが消えた。エレナが顔を上げると、いつの間にか起きたパンがカッターシャツに袖を通す。

パンはボタンをとめてみた。ボタンの向きはバラバラだし、位置もちょっとズレてるし、玉どめは団子だし、固く縫った部分が寄り皺になっている。素人仕事とはいえ、ひどいものだった。

「ありがとう、エレナ。大事にする」

パンはそう穏やかに言って、エレナをなでた。頬を桃色に染めるエレナが満足げに頷く。ゴハンは目を丸くして、杞憂に安堵したのだった。


洗濯を干すエレナを横目、ゴハンは皿を洗いつつ、朝食を作るパンに言った。

「てっきり突っ返すかと思ってた」

パンはそれに少し眉を上げ、ゴハンを見た。

「自分でも驚いてる」

そう言って、パンは上機嫌にホットケーキミックスを混ぜたのだった


今日はとても気持ちのいい快晴だった。雲ひとつない、抜けるような青空だ。エレナはバルコニーで大きく深呼吸をした。ニュースでは今夜は流星群が見れるらしい。今夜は屋上で空を眺めるのもいいかもしれない。

(そうだ、京やジュリアも誘ったら、きっともっと楽しいわ!)


エレナが意気揚々に洗濯籠を持って部屋に入った時だった。そばのデスクでパンの携帯が鳴り響く。

パンがホットケーキを返しつつ言った。

「すまない、出てくれ」

それにエレナが頷き、携帯を手に取る。番号表示は〔NOBODY〕のみ。非通知でもないそれは、初めてみる表記だ。

不思議まま通話ボタンを押した瞬間だった。まるで役者のように抑揚のある声が、マシンガントークをかます。


『いいかCIAが電話を盗聴している。妨害できるのはせいぜい120秒だ。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!

ファッキンなメガ・パピィ(どでかい犬ころ)が、発掘禁止区域を掘り起こして、例の石を持ってトンズラしやがった! お空のママはたいそうおかんむりだぜ! このままじゃ地球がバーベキュー会場になっちまう、ファ×ク! 今どこだ、ハワイか? グアムか? サイパンか? ローストチキンになりたくなけりゃ、今すぐ奴らのケツにぶっ放しに行くぞチキン(臆病者)野郎共!』


エレナは突如のそれに豆鉄砲をくらった。通話先はファッキンとかケツにぶっ放すとか言っている。

「ええと……何の話?」

『おいおいMIBはいつのまにこんな可愛いキティ(子猫チャン)を雇ったんだ……? アイスクリームを買ってやる、いい子だから今すぐ黒服共に電話を代わるんだ』

エレナの様子に、パンが手を拭きつつそばに立つ。首をかしげたエレナは、携帯をパンに手渡した。

「なんかハワイとかローストチキンとか言ってるけど」

それにパンがものすごく面倒くさそうに生返事し、携帯を耳を当てた。

「セリオンのトリプリシティ、アストラル地区です。転送ポッドでどうぞ」


その瞬間の事だった。寝室が勢いよく開け放たれ、ムサいオッサンが大股でリビングに現れる。「さっきの話の続きだが」とか言いながら。それにエレナは思わず仰天の悲鳴を上げた。


突如現れたムサいオッサンはウィンクし、2本指でF-1レーサーのように挨拶をしてみせた。

金髪蒼眼といえば聞こえはいいが、妙に濃いオッサンだ。時代遅れのドロップ型サングラスにうっすら見えた瞳はきらきらしていて、まつ毛はラクダのようにふさふさだ。顎は尻のようだし、筋肉質なのに短パンというあられもない格好で、むき出しの胸毛も腕毛もスネ毛もふさふさしている。特にホットパンツの股間の主張はひどいものだった。どうしてあんなにもっこりしているのか。

ムサいオッサンはふと鼻をヒクつかせ、あたりを見渡した。

「なんだこの香りは? 女神の匂いがする。それとも神のつくりたもうたエンジェルか……?」

言って、硬直するエレナを見た。オッサンはすぐさま王子のように跪き、エレナの手をとって見上げる。


「ここは大聖堂か、初めましてマイエンジェル。俺はマイケル・ラスベガスだ。マイキーでいい」

言ってマイケルがエレナの手に押し付けるようなキスをブチュッと落とす。

「ギャッ」

エレナが総毛立ち、とっさに隣のゴハンの服に手を擦り付けた。ゴハンは慣れたもので苦笑している。

「ずっ……随分と個性的な人ね。どうして私の寝室から出てきたの?」

パンが大きく息をつく。

「本部の先輩だ。転送ポッドで来られた。Aの時のように転送可能にしてある」

それにエレナが目を眇め。「人の寝室を勝手に改造しないでよ……!」


「で、一体どうしたんだよ、急に」とゴハン。ゴハンのいつもの陽気さは失せ、どこか真剣な面持ちだ。

それにマイケルがご機嫌な口笛をふき、場を制した。

「カブル・ママが、宣戦布告を仕掛けてきやがった」

長い睫毛でまばたきひとつ。

「よりによって奴らは例の石を引き渡さないと、103時間後にパーティー(開戦)するとか抜かしてやがる。ケツに火ィついちまったってわけよ! いいかキッズ共、奴らがトンズラした石を回収して、カブル・ママに引き渡すまでがミッションだ」


ひとつ間があった。

「……何言ってるのか全然頭に入らない言い回しね」とエレナがゴハンに耳打ちする。

パンが咳払いひとつ。

「先輩の話をまとめるとだな、どこぞの人間がこのカブル……いわゆる無機物型エイリアンを発掘したんだ。それに気付いた母星が、カブルの返還を求めている。事あろうに103時間以内に返還されないと、地球を焦土にすると息巻いてるんだ」


それをさらにゴハンがまとめた。

「マイケルは俺たちにカブルっていうエイリアンを回収して、母星に返還してほしいんだよ」


マイケルはそれに口笛をひとつ。パンとゴハンに無理矢理ハイタッチをし、向き直る。

「ああそうさ、ありがとうよトゥラァンズ(翻訳家)共。……クソッもう時間だ。あとは頼んだぜ、兄弟(ブラザー)! グッドラックだ!」

マイケルはハリウッドスターよろしく、寝室のドアを勢いよく開け放ち、帰っていった。余韻静かに、エレナは怪訝にその背を見送る。


「返して欲しいっていわれても……そのカブルとやらはどこにあるの?」

パンがリモコンをTVに向けた。TVではなにやらビッグニュースが流れている。そこには牛乳パックほどの大きさの石が映っていた。


《歴史に残る大発見です。世界最古のオーパーツが発掘されました! ご覧ください、一見ただの石ですが、一定の振動数を加えますと……》

石が小刻みに震えたかと思うと、どんどん金色に発光し、浮き上がってとんでもない勢いで回転を始める。

《なんと、石が光って! 浮かんで! 回っています! 信じられません! 専門家によりますと……》


ゴハンが腕を組み、視線をTVままに言った。

「俺たち本部ではな、宇宙生物保護法ってのがあるんだ。絶滅のおそれのある種を守りましょうってやつ。カブル型は生きる宇宙遺産でもある。寿命は長いが脆いんだ、壊されでもしたら一巻のお終わりだぜ」


TVは意気揚々にお喋りを続ける。

《このマジックストーンは、本日からセリオン博物館で一ヶ月間の限定公開のち、研究施設で分解・調査を行うとの事です。皆さんもこの機会にぜひともセリオン博物館へお越し下さい!》

TVはそういって、また似たようなVTRを流し始めた。


「……103時間以内に返還されないと、地球を焦土にするって本当?」

パンがそれに首を横に振った。

「いや、よくある脅し文句だ。〔宇宙の法則〕により実際に開戦はできないが、それほど向こうも必死なんだろう。なぜならカブル型エイリアンは基本、繁殖に限度がある。数は年々減少の一途を辿っていて、絶滅を危惧されている。母星は少しでも仲間を生かしたいんだろうな」

エレナがそれに眉を下げた。

「かわいそう。そしたらカブルを回収して、早く返してあげましょう? 母星の石たちもきっと安心するわ」


パンはTVを切って、ゴハンとエレナに向き直った。

「よし。では俺は発掘ルートを探ろう」

それにゴハンが指を鳴らす。

「したらカブル回収は夜だな。俺はその準備をするよ」

エレナが前に出て、2人に言った。

「じゃあ私は、今から現場の様子を調査しに行くわ」

3人は見合い、大きく頷いたのだった。


セリオン博物館に保管された、無機物型エイリアン〔カブル〕の回収。本部からの初の依頼だ。エレナの胸元のレンズは、いつものような虹色にゆらめいていた。

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