お店で食べた味
まだ冬の寒空が続くこっちの世界で変わらずに暮らしている理津子。
すっかり馴染んだものの今でも食材の旬については慣れない模様。
そんな中いろいろ作る中で美味しかった店の味にも挑戦しようとしている。
その味は理津子の世界で食べたファミレスなどの美味しかった味である。
「突然お邪魔してしまってすみません」
「サインって割とフラフラしてる人なんけ?」
「別に追い払う理由もないからいいんだけどさ」
そんな話をしていると理津子がお茶とお菓子を持ってくる。
甘い匂いがする揚げパンと緑茶のようだ。
「いい匂いですね」
「うん、せっかくだから揚げパンを作ってみたんだけど」
「揚げパン?パンを油で揚げたの?」
「うん、美味しいよ」
「とりあえず食べようか」
作ったのは揚げパンのようだ。
その甘い匂いははちみつのよう。
蜂蜜をかけた揚げパンという事のようだ。
「んー、これ美味いね、サクサクのパンで中はふわふわで甘いはちみつか」
「でしょ?アイスも乗せてみたよ」
「確かに美味しいですね、揚げたパンに蜂蜜をかけてミルクアイスですか」
「こっちだとバニラアイスってあまり見ないんだよね、ミルクアイスが定番みたいで」
「バニラって割と高級品だぞ?お菓子ぐらいにしか使わないだろ」
こっちの世界ではスタンダードなアイスと言えばミルクアイスらしい。
バニラアイスは割とお高いアイスらしく、バニラ自体も高級品らしい。
それもあり今回はバニラアイスではなくミルクアイスを乗せたとのこと。
「揚げパンって発想はなかったわ、甘々ハニーって感じで美味しいね」
「揚げパンだとカレーパンなんかもその仲間なんだけど」
「カレーパンですか?」
「こっちだとパンを揚げるっていうのは珍しいのか、カレーパンも見ないんだよね」
「そもそもふわふわのパン自体が珍しいのもあるからな、揚げパンなんてなおさらだろ」
こっちの世界ではふわふわのパンや揚げたパンは珍しいもの。
全くないというわけではないが、普通に行くようなパン屋ではまず見ない。
だからこそ理津子は自分で作ってしまうという事の様子。
「そういやサインはなんでうちに来たん?」
「確かに特に用事があるわけでもなさそうだよね」
「近くでエネルギー素材を採取していただけですよ、近くなのでせっかくと思って」
「エネルギー素材ってその辺の水とか草でいいものなのかな」
「僕は科学は専門外だから分からないぞ」
サインが言うには自然界にあるものの方が強いエネルギーになるらしい。
自然がほとんど人工的なものに置き換えられている世界でもある機界。
それもありこの世界のものだとその辺の水や雑草でも全然強い力になるとか。
「サインの言うエネルギーって全然違うもんなんだねぇ」
「でも機界ってそれこそあたしの世界で言うような未来世界なんだね」
「リツコの世界における未来がどんなものかは知らないですけど」
「まあそれについては伝えにくいしね」
「未来世界なんて想像でしかないんだから、なんとも言えないよな」
サインの出身である機界はそれこそ理津子の世界でイメージされるような世界。
とはいえこっちの世界の人に伝わるかは微妙なところだろう。
それもありあえて言わないようにしておく。
「にしても揚げパンなんて珍しいもん食えていい感じだわ」
「こっちだと珍しいのかな」
「全くないというわけじゃないらしいけど、珍しいものらしいとは聞きますよ」
「そうなんだ」
「話を聞く限りだとお前の世界だとバニラも普通に食べるものなんだろ」
こっちの世界と理津子の世界では食べ物の価値もそれこそ違ってくる。
バニラはそれなりに高級品だからこそアイスもミルクアイスが主流である。
定番のものが違ってくる辺りも世界の違いを感じてしまう。
「りっちんの世界って本当に異世界なんだなって感じるよね」
「あたしからしたらこっちが異世界だけどね」
「世界の違いは興味深いですよね」
「あたしの世界だと定番のアイスはバニラだもんなぁ」
「サインの機界もそうだが、世界の違いって感覚の違いでもあるよな」
そういう世界の違いも改めて感じるのは言うまでもない。
この世界が様々な世界と友好的に繋がっているからというのもある。
だからこそ珍しい食材なども手に入るのは理津子には嬉しいのだが。
「さて、ご馳走様、また近くに来たら寄らせてもらうから」
「お見送りしてくるね」
「サインって頭は確実にいいのにどこか自由だよな」
「天才ってのは分からんね」
サインも甘いものは大好きな性格だ。
頭を使う人にはやはり糖分なのだろうかと理津子は思う。
理津子も甘いものは好きではあるが、頭脳労働の人に甘いもの好きはやはり多い。
お菓子作りももっと覚えようと思ったようでもある。




