クリスマスなぞない
こっちの世界もすっかり冬模様になってきた様子。
そんな中理津子が何かを思い出す。
どうやら元の世界だともうすぐクリスマスという事のようだ。
とはいえこっちの世界には言うまでもなくクリスマスなんてないわけで。
「りっちんなんかリストアップしとったね」
「なんか大きなイベントとかあったか?」
「特になかったと思うけど」
そんな中リストアップを終えた理津子が戻ってくる。
それについてアノットが聞いてみる。
「のー、今月って何か大きいイベントとかあった?」
「ああ、あたしの世界だとクリスマスなんだよ、こっちにはそんなのないけど」
「クリスマス?なんだそれ」
「ある宗教の教祖様が生まれた日だね、おごそかに過ごすのが本来なんだけど」
「それなら何をリストアップしてたの?」
どうやらクリスマスに用意する料理の食材をリストアップしていた様子。
とはいえ理津子にとってのクリスマスは聖なる夜というよりご馳走の夜らしい。
それは理津子の家ではクリスマスは決まって父親がご馳走を作ってくれたからとか。
「んでその生誕祭がクリスマスなのね、だからご馳走でも用意するとか?」
「うん、まあ宗教的なイベントだから実際はただのリア充が盛んになる日だけど」
「お前、そういう事を普通に口にするよな、女なのに下品っていうか」
「あたしは下ネタもエロネタも別に抵抗ないからねぇ、えっちな本とか読むし」
「守備範囲が広いとは思ってたけど、それこそそういう話に抵抗がないんだね」
理津子は別に下ネタもエロネタも特に抵抗はないし、それを口にする。
それは普段からのオープンな性格なのもなんとなく納得ではある。
思春期の少年の前で下着姿でうろつくような人だったとロザリオは納得した。
「んでそのクリスマスに出すご馳走ってなんなのさ」
「一応ケーキと七面鳥、あとは肉類とワインかなぁ、ワインは地下にあるのでいいか」
「七面鳥?そんな鳥いたか?」
「こっちの世界だと七面鳥が手に入るかは微妙かも、その時は普通に鳥の丸焼きにするよ」
「鳥の丸焼き…そんなものまで食べるんだね」
こっちの世界で七面鳥が手に入るかは正直微妙なところだろう。
なかった場合は似たような鳥を探すか、それか普通の鶏の丸焼きにする予定だ。
理津子は農業高校の畜産科に通っていた事もあり、鳥を絞めるぐらいは朝飯前である。
「まーケーキは食いたいかね、それも焼くのかね」
「うん、洋菓子も慣れてきたからホールケーキぐらいなら焼けると思う」
「お前、本当に物覚えがいいな、教えてるのがアノットなのに」
「教え方は上手いと思うよ?」
「それでケーキとお肉なんだ」
クリスマスに食べるのは本来は七面鳥でありフライドチキンではない。
そもそもクリスマスにフライドチキンというのは日本独自の文化でもある。
ついでに言うと日本では七面鳥が手に入りにくいから生まれた文化なのだろう。
「でも肉ねぇ、生誕祭に肉なのかいな」
「あたしの世界だとその傾向があったってだけだよ、あとローストビーフもかな」
「肉々しい生誕祭だな、お前の世界のやつは」
「とりあえず鶏肉とローストビーフ用の牛肉だね」
「ご馳走が食べられるならいいけど」
とりあえずはローストビーフ用の牛肉は手に入ると思われる。
七面鳥は正直微妙ではあるが、似た鳥や鶏ぐらいなら手に入るだろう。
飾り付けもしようかと考えるが、片付けの手間も考えてしまう。
「料理だけなんかね?そのクリなんとかは」
「クリスマスツリー…は流石にモミの木が手に入らないから、簡単なやつでいいか」
「ツリー?そんなものも飾るのか?」
「うん、ただ流石に手に入らないと思うからそれの形をしたオーナメントとかにする」
「生誕祭なのにずいぶん楽しそうにやるんだね」
そもそも日本のクリスマスはそれこそ聖夜改め性夜などと言われる日だ。
別に生誕祭とかそんな事でもなく、ただズッコンバッコンな日と皮肉られる。
それもあってなのか理津子の家では簡単なツリーとご馳走の日という認識だった。
「とりあえずリストアップはしたから、当日に近いうちに用意しなきゃね」
「まーご馳走が食えるなら楽しみにしとくわ」
「特別な日でもなんでもないけどな」
「こっちの世界でだとね」
そんな理津子の世界だともうすぐクリスマス。
こっちの世界ではそんなイベントは当然ない。
とはいえせめて料理ぐらいはと理津子も思っている。
クリスマスの豪華な料理だけは用意しようとするのが理津子らしさである。




