喧嘩も友情
いつものように食事を作っている理津子。
そんな中思わぬ来客がやってくる。
どうやらエミールと喧嘩したという帝。
とりあえず話だけでも聞いてみる事に。
「はい、お茶」
「ありがとうございます」
「にしても帝がうちに来るなんて珍しいな」
普段は基本的に神社に引きこもっている帝。
それについては理由はあるものの、外に出たりするのは問題はないようだ。
「でも帝があのエミールと喧嘩なんて意外な感じかも」
「そうですか?私だって喧嘩の一つぐらいしますよ」
「それで喧嘩の理由はなんなんだ」
「酷いんですよ、エミールが私が楽しみにしていたチョコ大福を食べてしまったんです」
「はぁ、なんか凄く簡単な理由…」
どうやら帝が楽しみに冷蔵庫に入れていた大福を食べてしまったとのこと。
要するに楽しみにしてたプリンを食べられたみたいな感じである。
やはり人の楽しみを奪うのは重罪である、慈悲はない。
「でもチョコ大福って、こっちにはそんなものもあるんだね」
「あれは期間限定なんです、来週には終売してしまうんですよ」
「それは怒るのも分からなくはないな」
「せっかく楽しみにしまっておいたのに、酷いです、だから家出してやりました」
「食べ物の恨みは恐ろしいって割と嘘でもないよねぇ」
しかもその食べられたチョコ大福は期間限定で、来週には終売してしまうという。
それを食べられたのだから帝の怒りも当然ではある。
食べ物の恨みは恐ろしいとはあながち嘘でもないのである。
「でもエミールも悪気はなかったと思うよ」
「それぐらい分かってます、でも許せないのです」
「普段は外にあまり出ない人なのに妙に頑固なんだな」
「別に頑固なんかじゃないです、食べ物の恨みです」
「これはどうしたものかなぁ」
そんな話をしているとキッチンからいい匂いが漂ってくる。
そもそも試作的に作っていたものがあったのだが。
そんな中で帝が訪ねてきたわけである。
「とりあえず試しに作ったものがあるから、それの味見でもしてよ」
「味見ですか?それは構いませんけど」
「あいつ人の家のキッチンをどんどん改造していくからな」
「料理がそれだけ好きなんですね」
「お待たせ、試作品のスープパイだよ」
理津子の試作品のスープパイ。
それは過去に某チキンおじさんのお店で売っていたようなもの。
要するにパイのドームにスープを入れたものである。
「熱いから気をつけてね」
「これはスプーンでドームを割ればいいんですよね?」
「お前、本当に奇抜なものを作るよな」
「凄い湯気…でも美味しそうです」
「パイを崩してもいいし、パイと一緒に食べてもいいよ」
食べ方は自由だが、少々食べにくいのは確かだ。
とはいえクリームスープがいい匂いを漂わせる。
オープンで焼いたものなので言うまでもなく灼熱だが。
「どうかな」
「ん、これは美味しいです、でも、あふい」
「まあこれで熱くなかったら嘘だろってなるもんな」
「でも、美味しいですね、こんな事まで出来るなんて凄いです」
「満足してくれたのなら何よりかな」
それはそうと神社には帰らないのかと聞いてみる。
エミールも一応心配はしているだろう。
とはいえ食べ物の恨みは恐ろしいようで。
「それで帰らなくていいの」
「帰りません、あと数日泊めてくださいね」
「あー、これは本気か」
「はい、いいですよね」
「仕方ないかな、連絡はしておくから」
泊める事についてはとりあえず了承する。
ただ一応エミールに連絡は入れておく事にする。
その結果少しの間任される事になった。
「泊めるのは構わないって」
「そうですか、では今夜は楽しくなりそうですね」
「元々そのつもりで来ただろ、タブレット持ってきてるし」
「絵を描くんですよ」
「そういえばそれが趣味なんだっけね」
帝は絵を描くのが趣味である。
それもイラストに属するタイプの絵が得意だ。
そういう所はオタクなのかもしれない。
「さて、では夕食も楽しみにしていますね」
「なんだかんだで帝とエミールって理解し合ってる感じは分かるよね」
「理解してるからこそ任せてきたんだろうしな」
とりあえず帝は数日屋敷で預かる事に。
結構頑固なのか、食べ物の恨みは恐ろしいだけなのか。
なんにせよ帝とエミールの信頼関係は伝わる話でもある。
この神様は思っているよりも凄い人のようだった。




