もしもの物語
こっちの世界にもすっかり馴染んだ様子の理津子。
そんな中テーブルにロザリオが大切にしている本を見つける。
なんの本なのか以前から気になっていた様子ではある理津子。
それと合わせてお客様も来たようである。
「この本って少年が大切そうにしてる…イフストーリーの本?」
「その本が気になるのか?」
「あ、ごめん、勝手に見ようとして」
その本はイフストーリーの小説のようだ。
そういえばと思い出した理津子はその理由をなんとなく察したようでもある。
「イフストーリー、少年はそういうのに憧れたりする?」
「そうだな、僕はイフストーリーは好きだ、その時だけは救いがある気がするから」
「今でも引きずってたり悔やんでたりする?」
「別にそんな事はない、でもそういう世界を想像したりはする」
「そうなんだ、若いのに大したもんだね」
それはロザリオの両親が亡くなっている事も関係しているのだろう。
だからイフストーリーを好むのだろう、という勝手な推察。
その時だけは救いがあるような気がする、それはイフストーリーのあるべき姿だ。
「なんで人はフィクションにのめり込むのか、それは現実では出来ない事もあるからだよね」
「それは分かる気がするな、フィクションだからこそ史実とは違う話が書けるんだ」
「あの人がもし死ななかったら、あの人がもし目的を成し遂げていたら、とかね」
「現実はどうやっても変えられないんだ、フィクションにハマる理由なんだろうな」
「少年ってその歳で結構ドライだよね、でもなんとなく分かるけど」
それは親が元気で存命な理津子だからこそ分かるのかもしれない。
若くして親を亡くしたロザリオにないものを持っているからこそ。
これで割とオカン臭いところもあるのが理津子なのだが。
「その本を大切にしてる理由もなんとなく分かったよ」
「結局は現実から目を背けてるだけなのかもな」
「でも人は現実から目を背けたくなるものだよ、あたしだってそういう事はあるし」
「現実は皮肉なものだっていう事だもんな」
「ん?チャイムが鳴ってる、少し待ってて」
何やら来客の様子。
理津子が玄関に出ていく。
その来客はどうやらレミリアのようではあるが。
「お邪魔するわよ」
「レミリア社長、うちなんかに何かご用ですか」
「なんか箱を持ってるけど、なにそれ?」
「えっと、飴?」
「うちで今度新しく売り出す喉飴よ、サンプルが出来たから持ってきたの」
レミリアが持ってきたのは喉飴のサンプルとのこと。
つまり試しに使ってみてくれとかそんなところか。
これからの季節喉飴は確かに欲しくなるものではあるが。
「つまりその喉飴はあたし達にくれるの?」
「そのつもりだけど、必要ないかしら」
「いや、くれるならもらっておくけど、喉飴だよな」
「そうよ、森の国の養蜂場と組んで作ったプロポリスキャンディね」
「プロポリスって、でも確かに効きそうだね、なら受け取っておくよ」
どうやらその喉飴はプロポリスキャンディらしい。
理津子の世界でも声優や歌手がよく愛用しているとは聞いた事がある。
喉を使う仕事をしているわけではないが、喉がイガイガする季節でもあるので。
「でもなんでうちに来たんだ?」
「うちの駄メイドのアノットをきちんと働かせてくれているお礼よ」
「はぁ、返してくれってわけでもないのかな」
「あんな甘いものを盗み食いする人は返してもらわなくて結構よ」
「でもあいつの素性とか知ってて雇ったんだよな?」
アノットの素性についてはレミリアも分かっているのだろう。
有能な怠け者で我儘というか、唯我独尊な感じもあるアノット。
国内のレミリアの会社で屋敷というのは本人が脱走したというのも納得なのか。
「レミリアはアノットの素性は知ってたんだよね?」
「一応知ってたわよ、有能だというのは理解したけど、あんな人だとはね」
「だからうちに押し付けたのか」
「押し付けたとは失礼ね、でもここの方が楽しそうにしてるしそれでいいのよ」
「はぁ、なら別にいいんだけど」
そんなアノットの事もなんとなくだがレミリアは分かっているのだろう。
それにここで働くアノットは結構楽しそうにしている。
レミリアも人を見る目はあるようではある。
「それじゃ私はそろそろ会社に戻るから」
「あ、うん、それじゃ玄関までお見送りするね」
「あの社長、意外とスパッと決めるよな」
そんなロザリオの大切にしているイフストーリーの本。
それは両親が生きている世界を想像するからなのかもしれない。
レミリアは思い切りがいいようでもあるのはなんとなく受け取れる。
プロポリスキャンディは冬になったらありがたく使う事にする。




