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パン屋の跡取り

いつものように買い物に出た帰りの理津子。

その帰りに閉店を予定しているパン屋を見つける。

それは個人経営の店で、どこか寂れかけている店。

気になったのかそのパン屋に入っていく。


「ここのパン屋閉店するんだ」


「そういえば先月辺りまではここもお客さんが多かったような」


「少し覗いてみようかな、小腹も空いたし」


そのままパン屋へと入っていく理津子。


中は閉店間際という事もあり、最低限の品と少しの客が見えた。


「どれもそれなりにいい値段で美味しそうだね」


「閉店間際ですから叩き売りをしているだけですよ」


「あ、えっと、ここの店員さんかな」


「はい、とは言っても父が倒れて来月には無職ですけど」


「先月まではお客さんも多かったのになんか薄情だね」


どうやら父親が体を壊してしまったという。

彼はその息子で本来ならこの店の跡取りなのだとか。


だが父親のような味が出せずに悩み、相談して許可を得て閉店を決めたとか。


「お兄さんはここを閉めるんだよね」


「はい、今まで来てくれていたお客さんには悪いですが」


「別に続けろとは言わないけど、お客さんが減った理由ってさ」


「僕に父のようなパンが作れないから、パン作り自体は好きなんですが」


「本人の問題かな、こればかりは」


彼は父親のようなパンが作れない事を悩んでいたらしい。

ただパン作り自体は好きで、職人としても認められている。


だからこそこの店を閉める事を決めたのだとか。


「あたしに口を挟む権利はないけど、諦めてるの?」


「はい、仮に続けても父の味を求めるお客さんには申し訳ないので」


「うーん、ねえ、もし少しでも続ける気があるなら名物とか考えたら?」


「名物ですか?」


「うん、このお店でしか食べられないパンみたいなやつ」


それは本人の目にはまだ熱がある事を感じたのだろう。

ただ父親のように出来ない事を悩んでいる。


名物の提案は彼の個性を出せという事なのだが。


「もちろんあたしに責任は取れないし、勝手に言ってるだけなんだけど」


「そうですね、でも提案としては面白いとは思います」


「あたしにはそれぐらいしか言えないから、決めるのは自分なんだよ」


「直接関わっていないなら責任を取る理由もないですよ、ただ少し考えてみます」


「あ、意外とやる気なんだ、えっと、ここからここまで三つずつもらえるかな」


少し迂闊だったかとも思う理津子。

責任が取れないという事はきちんと伝えた上で言っただけ。


とりあえず気になったパンを三つずつ買って帰る事にした。


「どうぞ、こんな閉店間際のお店でありがとうございます」


「うん、あとあくまでも言っただけで、本当に責任は…」


「分かっていますよ、あなたがそういうパン屋を見ているから言っただけとも」


「はぁ、ならいいんだけど」


「ではしっかり食べてくださいね」


そのままパンを買って屋敷へと帰る。

その帰ったあとにその青年は何か考えていたようだがそれが分かるのはまたあとで。


屋敷に帰ってそのパンを食べている理津子。


「普通に美味しいじゃん、でもこっちの世界のパンは少し固いかも」


「りっちん、美味そうなもん食ってるね」


「アノットか、こっちの世界のパンって美味しいんだけど少し固いんだよね」


「そういやりっちんの世界だとパンは柔らかくてふわふわなんだっけ」


「うん、バゲットとかでも結構柔らかいものだし」


理津子の世界というか日本の話でもある。

パンは基本的に柔らかくてふわふわのものという認識。


こっちの世界のパンは固すぎではないがそれでも固めなのだと。


「柔らかくてふわふわのパンに慣れてるとやっぱり固く感じるかも」


「まあ固いパンって基本的に保存が効くようにしてあるもんだし」


「そうなんだよね、私の国だと柔らかいパンは数日しか持たないもん」


「マジ?たった数日なの?」


「保存料とか使ってあっても一ヶ月持たないパンが普通だったかな」


それはパンというものへの考え方の違い。

そしてパンの美味しさなどを追求した結果でもある。


まさにお国柄という言葉になるような話だ。


「食べる?」


「いただく」


「好きなの食べていいからね」


「どもっす」


ちなみにそのパン屋は翌日から閉まっていたらしい。

ただ閉店したという話は聞いていない。


彼がやる気になったのか、それとも閉店を早めてしまったのか。


責任は取れないと言ったものの、少し気になっている様子の理津子だった。

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