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ずぶ濡れ科学者

相変わらずの雨が続く港町。

ロザリオ曰くこの辺りは平地続きなので雨がよく降るのだそうだ。

街の漁師達もそんな晴れ間を見たらこの機を逃すなとばかりに海に出る。

そんな今日は思わぬお客が来ているようで。


「はい、タオルと温かいお茶」


「すみません、近くにあったので助かりました」


「しかしこの雨の中レインコートも傘もなしに何をしてたんだ」


先刻のほど雨でずぶ濡れのサインが訪ねてきた。


外で少し採集をしていたら大雨に降られたらしく、雨宿りがしたいという。


「はぁ、服がずぶ濡れです」


「とりあえず替えの服探してくるから」


「はい、お手数をおかけします」


「なあ、なんで僕の周りの女はそうやって当たり前のように脱ぐんだ」


「別に見せたところで減るものでないですからね」


理津子やアノットもそうだが、思春期の少年の前で普通に服を脱ぐ。

ロザリオも慣れてきたのか、今では反応もあっさりだ。


見せたところで減るものでもないから、それは確かにそうではある。


「ロザリオさんは思春期ですよね」


「だからなんだよ」


「当たり前のように目の前で女の人が脱いでもなんともないのですか?」


「もう慣れた、やめろって言ってもその反応でやめようとしないし」


「見せたところで減るものでもない、ああ、まあ確かに減りませんよね」


減らないから別に気にしない。

その理由はどうかとも思うが、抵抗がないのも問題のような気がする。


ロザリオの心労もサインはなんとなく察したようだ。


「お待たせ、こんなものしかないけど」


「充分ですよ、ラージサイズのシャツなら下を乾かすまで下も必要ないですし」


「そういえばサインって目が悪いからメガネなんだよな?」


「そうですよ、裸眼の視力はそれこそガチの近眼です」


「サインはメガネの方が似合うのかもね、コンタクトってイメージはないや」


その言葉にサインはなんとなくが鋭く反応する。

コンタクトなんて死んでも使いたくないとの事。


理津子もそれについてはなんとなく分かるから困るのだが。


「コンタクトなんてないですね、メガネに勝るものはありません」


「それは分かるかな、あたしの世界だと眼科医とメガネ屋は全員メガネだし」


「それは実に分かっていてよろしいですね、特に眼科医は必ずメガネ、素晴らしいです」


「サインってメガネには並々ならぬこだわりでもあるのか?」


「コンタクトは悪魔の発明です、異物を目に入れるなど恐ろしい限りです」


サインはどうやらメガネには相当なこだわりがあると思われる。

本人曰く、視力が悪すぎるのでオーダーメイドしか使えるものがないという。


メガネは基本的に測ってから作るものではあるのだが。


「でもあたしもメガネは使うよ、料理にハマるうちに活字中毒になったみたいで」


「理津子さんは視力は悪いのですか?」


「こいつの視力は悪くないと思うぞ、でも原材料表示とか見る時はメガネしてたな」


「ほう?それは興味深い」


「今じゃすっかりなんだよね、原材料表示から栄養表示まで全部読むからさ」


理津子は元々陽キャという感じではなく、背伸びした陰キャである。

料理が好きなのとは別に本もよく読むので、視力はよくはないが悪くもない。


ちなみに何を読むかといえば、昔の料理に関する本がほとんどらしい。


「リツコさんは活字中毒と言っていましたが」


「うん、昔の料理に関する本とか原材料表示とか栄養表示とか一字一句読むよ」


「それで活字中毒ですか、料理に関する情熱は凄いのですね」


「こいつ原産地とか結構気にするタイプなんだよな」


「ふむ、私とは違う方向での熱意の持ち主ですね」


理津子曰く料理にハマっているうちに活字中毒にもなってしまった様子。

店で買物をする際には原産地から原材料表示、栄養表示まで全部読むのだという。


それは理津子の世界で過去にそういった関係の事件なども起きていたからなのかもしれない。


「活字中毒、料理にハマる人ならではの宿命でしょうか」


「あ、乾燥機終わった、今持ってくるね」


「ロザリオさんもいい人に出会えたようですね」


「少しお節介だけどな、まあ寂しくはない…かも」


「リツコさんも大層な人ですね」


それから少しして乾いたサインの服を持ってくる。

乾燥機は雨の日の救世主だ。


雨もどうやら上がったようだ。


「雨が上がったみたいですね、そろそろ失礼します、お茶は美味しかったです」


「うん、また遊びに来ていいからね」


「今度は濡れるなよ」


そう言ってサインは家に帰っていった。

夢中になると周りが見えなくなるタイプのようだとは分かった。


ロザリオの反応もすっかり淡白なものになっているようで。


別に減るものでもない、アーイエバ・コーイウである。

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