串焼きの好み
キッチンにパン焼き窯も増設した理津子。
そんな今日の食事はパンではなく串焼きのようである。
以前溶接で作ったものは焼き鳥だけでなく他の肉の串焼きも焼けるようで。
タレと合わせて今回は串焼きでお昼ごはんである。
「いい匂いが漂ってくんねぇ」
「あいつ、無駄にスキルだけは高いよな」
「溶接まで出来ちゃうって凄いよね」
そんな話をしているとお昼の串焼きが運ばれてくる。
焼き鳥だけでなく他の肉の串焼きもあるようで。
「この香ばしい匂い、たまらんねぇ」
「タレは普通のやつと塩ダレとあとあたしが配合したスパイスを用意したけど」
「お前、スパイスの配合が出来る時点で凄いよな」
「カレー用のスパイスとは別だからね、これは」
「それより早く食べようよ」
タレは小さな壺に入れてある。
串カツではないが、二度漬けは駄目だと理津子は言っておく。
その理由としては一度口に入れたものを再度漬けるのは衛生面の問題だという。
「ん~、これんま、にしても鳥以外にもいろいろな肉を串焼きにしたねぇ」
「うん、これが鳥、こっちは牛、これが豚で、こっちは羊ね」
「そんなに肉を買ったのか」
「本当は別のメニューを考えてたけど、肉のフェアやってたから」
「そうなんだ、でも美味しいからいいや」
別に安売りを狙うわけではないが、フェアをやってたりするとそっちに目が行く。
料理人としての性なのか、まあ料理人というほどでもないが。
それにより突然メニューが変わる事は珍しくない。
「んでさ、このタレりっちんが作ったの?」
「そうだよ、自家製のタレ」
「お前、本当になんでも作るな」
「まあ使い切るのを目的として量を計算して作ってるからね」
「でも小さな壺にタレを入れるなんて洒落てるよね」
理津子曰く雰囲気もあるのだという。
うなぎ屋などで見たタレを入れている壺。
ああいうのに密かな憧れもあるのだろう。
「まあタレなんてもんは保存出来てもそんな長持ちしないしね」
「あたしが気になってたのは100年継ぎ足してるみたいなタレなんだよね」
「それ使って大丈夫なものなのか?」
「あたしの世界のうなぎ屋とかで100年継ぎ足してますみたいなのがたまにあるんだよ」
「それ本当に平気なの?細菌とかがやばい事になってないの?」
理津子もそれは昔から気になっていたものらしい。
父親に聞いたりもしたが、その店の事は自分には分からないそうな。
ただ科学的に見たらどうなのか気になるとだけは言っていたそうだ。
「普通に考えて継ぎ足してたら原液になる部分のタレなんてなくなってるよね」
「そもそも継ぎ足してるって事はタレを作れるわけだもんね」
「それなら継ぎ足してる時点で原液の部分はとっくになくなるだろ」
「あたしもそういうタレは作れるけど、基本使い切りで計算して作るから」
「継ぎ足しでそれも100年とかになったら容器の中が大変な事になってそうだけど」
それについては答えは分からないので、とりあえずはそういう事にしておく。
今回の串焼きもそんなタレを自作したわけで。
理津子は基本的にこういうものは使い切りで計算して作る性分なのだ。
「このスパイス美味くね?豚とか羊の串焼きに凄くよく合うんだけど」
「それあたしの独自配合だからね、カレーとは別の焼く料理用のやつ」
「本当に料理が好きなんだな」
「お父さんの影響もあるけどね、それにそういう家庭で育ってるから」
「リツコのお父さんって本当に料理が好きなんだね」
自称元ホテルの料理人の理津子の父親。
母親も料理自体は出来るものの、基本的にキッチンを任されるのは父親だ。
高い食材を使うとかでもなく、それでも美味しい料理を出してくるのに憧れていたとか。
「りっちんって料理は本当に得意だよね」
「あたしは勉強はそんな得意じゃないんだよね、赤点をギリギリ回避出来る程度だよ」
「それでも赤点を回避出来る程度には出来るって事だよな」
「それは褒められてるのか、どうなのか微妙だなぁ」
「それでも赤点を回避出来るだけ凄いんじゃないの?」
理津子曰く勉強はそこまで得意でもないらしい。
ただ赤点だけは一度も出した事がないそうなので、最低限は出来る様子。
料理への熱意にスキルポイント極振りといったところなのか。
「さて、それじゃ片付けるね」
「また頼むぜぇ」
「目移りしてメニューが変わるのはあいつの悪い癖だな」
「美味しければそれでいいんじゃない」
串焼きについても以前作ったものが役に立っているようではある。
スパイスの独自配合やタレの自作までする辺り、スキルの高さは分かる。
料理に関しては父親の影響がとても大きいという事も。
いい親に恵まれたというのは確実だろう。




